0417・愚か者
ミク達はイェルハムラNW16から、パラデオンのS19へと戻っている。現在は道路を魔導二輪で走っている最中だ。行き交う魔導車も何も無いので、ミクは女研究者の服や魔道具を既に本体に送っている。もちろん兵士が持っていた物もだ。
まずはS19かS18の出張所まで行き、そこでギャルタム家の当主に連絡をしなければいけない。砲塔が欲しいと言っていたが何処へ持っていけばいいのか分からないからだ。とにかく今は移動を優先しなければいけない。
そんなミク達に対して、イェルハムラやクーロンからの追撃は無い。混乱しているのもあるだろうが、イェルハムラNW16のクーロンをほぼ壊滅させたからだろう。結果としてみれば、徹底的に叩き潰されているとも言える。とはいえ、ミクに喧嘩を売ってくるクーロンが悪いのだが。
順調に進みS19に辿り着いたミク達はブラックホークの出張所に行くが、砲撃で壊されたままなうえ、誰も片付けようともしていないようだった。やはり思った通り、この出張所の人員の殆どは殺されたのだろう。相変わらず非道な連中である。
ミク達は時間も時間なので食堂に行き、夕食を頼んだら席に座って少しゆっくりする。三人娘も何だかんだといって疲れていたらしい。今は椅子に体重を預けてぐでっとしている。それほどまでに疲れる事だったであろうか?。
そう思っているとルーナがMASCを使い始めた。何をしているのかと思ったら、どうやら掲示板に情報を上げているらしい。何があったかを伝えた方が良いのと、S19の出張所が壊滅している事も伝えた方がいいからだ。
それが終わると適当な雑談を行いつつ食事をし、終わったら宿へ。三人部屋を借りて今日は休む。三人娘も疲れたのか、今日は裸で抱き合うだけで良いらしい、ミク達はさっさと分体を停止し抱き枕になるのだった。
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翌日。ミク達は宿を出て食堂へ行き、食事をしたらS18へと移動。到着したらブラックホークの出張所へ。その後は所長室へと行き、ギャルタム家の当主との連絡を頼む。ミク達が依頼を請けているのを知っているのかW14の所長の所と同じ魔道具を出してくれた。
少し待たされたが、スクリーンにギャルタム家の当主が映る。
「やあ、そちらから連絡をしてくるとは思わなかったが、何かあったのかね? あれから然程の時間は経ってないが……」
「S19でブラックホークの出張所は壊滅していて、大半の人員は殺害されたものと思われる。その後イェルハムラの睡眠ガスを喰らった私達は、敵の手でイェルハムラNW16へと連れ去られた。それは三人が居たから問題無いけど、結局イェルハムラNW16のクーロンを壊滅させる事になった。微妙に依頼とは違う形になっている」
「ふむ。まあ、確かに依頼とは少し形が違うが、君達が侵略行為を働いていないなら問題無い。あくまでも攫われた仲間の救助なら、我々の与り知らぬ事だ。今回の事はそれだけかね?」
「砲塔の回収は出来た。ただ、そっちが求めていた砲塔が何かが分からない、それと何処に持って行けばいいのかも聞いていない」
「ああ! それは確かにそうだ、申し訳ない。私は新型の砲としか聞いていないからね、他に言える事も無いんだけど……そうやって聞いてくるという事は色々あったのかい?」
「前に見たクーロンの新型の砲は、おそらく【魔力投槍】の改良型だと思われる物。そして今回は【火球】の砲があった。どちらも取って来ているけど。どっちが欲しい? それとも両方?」
「………すまない。私は技術者じゃないんでね、その辺りは分からない。もし君達が持って来てくれるなら、一度パラデオン町まで来てくれ。兵には伝えておくから着いたら誘導してくれる筈だ。それまでに技術開発部に情報を渡しておこう」
「了解。これからパラデオン町に移動する」
そう言って通信を終えた。相変わらずの執事と、それを睨みつけていた三人娘が前回との違いだろうか? ミクにとってはどうでもいい事なので興味も無いが。
S18の所長にお礼を言うと、受付で手続きをしていくように言われたので、一階に下りて手続きを行う。受付嬢に登録証を出すと、ミク達のランクが9になり、ルーナ達のランクは7になった。ルーナ達は2ランク上がっているが、これはSW10奪還作戦において活躍したからのようだ。
実際、敵陣に突っ込んで獅子奮迅の活躍をすれば上がって当然だと、何故か受付嬢から怒られた。実はランク8でも良かったらしいのだが、ミク達も該当する事ではあるものの、あまり依頼を請けた事がないのが影響している。
ミク達も本来ならもっと上のランクなのだが、請けた依頼数が少なく、他の仕事でも役に立つか分からないので9で止まっているらしい。ミク達にとってランクの高さなどはどうでもいいので特に気にしていない。
むしろ気にしているのは、こういう事に興味のある茨木吾郎である。ゲームでもランクという物があれば最高ランクに上げていた彼にとって、高ランクというのはそれだけでステータスなのだ。なので頑張ろうと気合いを入れるが、そんな彼を微笑ましく見ているだけのミク達。そして呆れるヘルとセイラン。
そんな六人はS18の出張所を出て、パラデオン町へと魔導二輪で移動していく。奪還作戦の依頼料も振り込まれていたが、その額は大したものではなかった。まあ、他の傭兵と同じだけ貰えているらしいので、文句はない六人。活躍は勝手にしただけとも言えなくはないからだ。
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あれから二日。最速で飛ばしてきたのでパラデオン町に到着。門番に登録証を見せて通るも、兵士というのが居ない。仕方なく近くのカフェに入り、そこでお茶をしつつ兵士が来るのを待つミク達。
待てども兵士が来る事はなかったので、一旦レストランへ行き昼食を頼む。雑談をしつつ昼食を終え、再びカフェへ行ってゆっくり待つも兵士が来る事は無い。MASCを使って暇を潰しているので特に問題は無いが、兵士を向かわせるんじゃなかったのか?。
執事の顔を思い浮かべ、仕方なくブラックホークの出張所へ移動するミク達。中に入り所長室に行き事情を説明する。飛ばしてきたので昼前には辿り着いていたが、何故か兵士も来ず何処へ行っていいかも分からなかったので来た事を伝えた。
すると、所長がそのまま共に行くと言うので、ギャルタム家の屋敷まで移動する事に。どうもブラックホークとしては、傭兵を粗雑に扱われる事には抗議せねばならないようだ。それをしないと他の傭兵も舐められるから当然だが。
なので所長が運転する魔導二輪の後ろについていくミク達。そして一際大きい屋敷の前で、所長が門前の兵士に言伝をしている。待たされた後に出てきたのは、あの執事と大柄な兵士だった。
「直接お屋敷に来るとは……あまり礼儀の無い事をされても困るのですがな?」
「我らブラックホークを粗雑に扱うというのであれば、パラデオン魔王国との契約を解除するだけだ。その後は何処の国に雇われようとも、そちらがどのような被害を受けようとも与り知らぬ事でしかないが?」
「………いいでしょう、門を開けなさい」
そうして所長が入ったが、その後すぐに門を閉じられた。
「いったいどういう事だ!?」
「そのような血肉に塗れた危険な者を屋敷に上げる訳にはいかぬのですよ。それに、そちらの没落令嬢などが閣下に体を売ろうとしても困りま」
ドガァン!!! という音と共に門を吹き飛ばし、叩き潰したミク。こういうゴミは潰されなければ分からないのだろう。で、あれば潰すのみである。




