0411・ミク達を救出?
三人娘はイェルハムラNW16への進入を果たし、現在は魔導二輪を運転しながらクーロンの出張所を探している。ウロウロしつつ町の人に聞くと、凄く嫌そうな顔をしながらも教えてくれた。どうもクーロンはかなり嫌われているらしい。
そんな事を考えつつも聞いた場所に行くと、確かにクーロンの出張所はあった。専用の建物なうえ、周りには他の建物が無い。被害を気にせずに済んで助かる。そう思った三人は魔導二輪を降りて収納した後、武器を装備して抜くと、一気に走って行く。
出張所前に居た数人を斬殺しながら中へ入ると、問答無用で皆殺しにしていく。ミク達を攫われている為か、三人に手加減の文字は無いようだ。流石のクーロンも近接戦闘とはいえ、閉所での戦闘には慣れていないらしく簡単に倒していく。
そもそも近接戦闘能力に大きな差があるうえに慣れていないとなれば、三人の独壇場になるのは仕方のない事でもある。あらかた殺戮した三人は建物の上へと上がっていく。実は上に行く階段しかないので三人は上がるしかなかったりする。
上へと進む最中に階段の上から撃たれたので、【魔力盾】を使って逸らしつつ後退する。二斧流だったセイランは【上位清潔】で綺麗にした後に斧を一本仕舞い、アイテムバッグから盾を取り出した。
セイランは自らの前に盾を構え、階段の上へと駆け上がっていく。上に居た物をなぎ倒しながら重戦車の如く駆け上がり、倒した傭兵を踏んで上がっていく。その倒された傭兵は、後ろのヘルとルーナが止めを刺している。
上まで上がったセイランは盾を構えつつ、ヘルとルーナが上がってくるのを待つ。全て始末し終えた二人も上がってきたので、ヘルが所長室のドアを開けつつセイランが盾を構えて入る。
相手が魔法銃を乱射してくるが、魔鉄が被覆された盾を抜く事は出来ない。流石に相手も馬鹿ではなく、途中で魔法銃での攻撃を止めてきた。とはいえ、攻撃が止んだら前進して部屋に入るだけである。
所長室の中には四人いたが、セイランの後ろから左右に出ようとすると撃ってくる。盾は狙わず顔を出した者を狙う気らしい。なので左からルーナが、右からヘルが飛び出す。相手は一瞬どちらを撃つか迷い、その一瞬で詰め寄られる。
素早く二人が喉元を穿たれたが、残りの二人が魔法銃を向けてくる。ただし所長と思しき者の左に居た女は、頭に飛んできた斧が直撃して沈んだ。所長はヘルに対して魔法銃を撃つものの、ヘルは後ろに倒れる事で回避する。
次を撃たせる事も無くルーナが手首を斬り落とし、ついでに【上位治癒】を使う事で止血する。軍配は三人娘に上がったようだ。ルーナは所長らしき人物の首に太刀を添えて話を聞く。
「お姉様達を何処へやったか答えてもらいましょうか。答えるまで拷問が続きますよ?」
「ハッ! それで脅しのつもりか? だとしたら下らねえ冗談だ。お嬢ちゃん達が幾ら凄んで見せても怖くとも何ともねえよ。拷問? したきゃ好きにしろ。こちとらにも仁義ってもんがあんだよ!!!」
「だったら壊れてもらいましょうか、【黒心術】で」
ヘルが所長らしき男の頭に触れ魔力を集中させると、右腕からドス黒いナニカが溢れ出し、それが所長の頭に流れ込む。その瞬間、所長の目から光が消えた。【黒心術】とは極めて特殊な術であり、<黒の神>の加護が無ければ使えないものだ。
この術は非常にシンプルなもので、黒いナニカを相手に流し込む事で、流し込んだ相手を操り人形にする術となる。触れていないと効果が無い為に扱い難さはあるものの、その効果は抜群だ。既にヘルの操り人形になっている所長は、ミク達の居る地下牢に案内している。
所長室の手前にある部屋の隠し階段から地下へと降り、分厚い扉を抜けて中に入ると、近くにミク達の装備が無造作に置いてあった。それを拾った三人は、人形の所長の案内でミク達の入れられている牢の二重の鉄格子を解除する。
中からミク達が出てきたので服と装備を渡しつつ、何故ワザと捕まったのかを聞く三人。
「お姉様方には睡眠ガスなんて効きませんよね? 何故ワザと捕まったりしたのですか? まあ、いつでも脱出できますから捕まる事はどうでもいいのでしょうが……」
「人間種っていうのはね、自分が圧倒的に有利だとペラペラ喋ったり、自分達が何をしようとしているか教えてくれたりするんだよ。現に今回私達を攫ったのはイェルハムラ聖国からの命令だったし、あいつらは私達の血を奪っていったしね」
「ミクさん達の血を……? お前は何故イェルハムラの奴等が血を奪っていったか知っているか? 知っていたら話せ」
「イェルハムラ聖国では古くから<最強計画>というものがあり、その計画においてあらゆる物や人を集め、最強の人造兵士を作り出そうとしています。それをもって宇宙をイェルハムラが統一すると聞いた事があり、クーロンの兵士量産方法もイェルハムラから齎されました」
『成る程な。傭兵を薬で狂わせるような方法だ、兵士を量産すると考えた方がしっくりくる。プロの兵士を量産しているなら、傭兵より強いのは当たり前だろう。それでも既存の軍ではやらんだろうがな。外聞が悪過ぎる』
「そうね。だからこそ、あの女研究者の横に居た兵士は秘匿されている部隊でしょう。差し詰め、実験専用の部隊と言ったところかしら。あの金属の義手をメタルアーム31号とか言っていたし」
「えっ!? 金属の義手ですか? ……それはそれで夢のある話ですねー。漫画やアニメの兵士が居るとは………でも実際に居るなら相当厄介なのでは?」
「クーロンの傭兵の頭が壁に叩きつけられて潰されていたわね? 手首から先が射出されていたから、ロケットパンチ? 的な武器なんだと思うわよ。他にも内蔵してそうな気はするけど……」
「手首から先ではちょっと………。ロケットパンチはやはり肘から先でないと駄目です、他の誰もが許しても私は許しません」
「……意味が分からないからスルーさせてもらうわ。それより服も装備も着け終わったし、さっさと出ましょう。あいつらにはトラップを渡してあるんだし」
「そうだね。とりあえずS19に戻ってからにしようか。今は脱出を優先しよう」
ミク達は素早く二階へと上がり、一階に下りて入り口を出る。所長は地下で首を切り落としてあり、既に始末は終わって放置してきた。
入り口を出た直後、MASから一斉に砲撃を受けたが、ミク達は全てを【魔力盾】で逸らす。左にMASが二機、右にMASが一機あり、右の砲塔は見た事が無い物だった。
ミクがジッと見ていると、右のMASの砲塔から【火球】が飛んできた。流石に属性魔法が飛んでくるとは思わなかったが、【魔力盾】で難なく逸らす。
着弾地点で爆発し、辺りに土や石や火の粉を飛ばす。なかなかに威力が高く厄介な武器である事が判明したものの、ミク達にとっては大した物ではない。とはいえ戦争で使われれば相当に厄介であろう事は分かる。
そんな事を考えていると、前から金属の義手を着けた兵士がやってきた。どうやら女研究者も後ろに居るようだ。
「お前達の戦闘能力を見るのは明日だったのだが、まあいい。ここでお前達の戦闘能力、そのデータをとらせてもらおう」
「イェルハムラ聖国っていうのは裏が汚すぎるね。まるでヘドロのような汚さだよ。自覚があるのか無いのかは知らないけどね」
「例え汚かろうと負ければ蹂躙されるだけだ。それが世の中というものだぞ?」
「まあ、それは事実だけどねえ……ただし、それを言う以上は蹂躙される覚悟があると見做す」
ミクは威圧など一切行っていないが、空気が切り替わった事はこの場の全ての者が理解した。




