0410・イェルハムラNW16へ
ミク達を追い駆けてS19からNW16へと向かおうとする三人娘。しかし残っていたクーロンの傭兵に邪魔されている。昨日の夜に強襲されたブラックホークの出張所は多分壊滅したのだろう、誰も三人を援護しに出てこない。
それともクーロンを怖がって出てこないのだろうか? それはともかく三人は急ぎたいのだが、クーロンの傭兵が邪魔をしてくる所為でなかなか進めない。特に死角から攻めて来るのが鬱陶しく、無駄に魔力を消費する羽目になっていた。
それでも太刀の二刀流で素早く敵を殺していくルーナ。予備の太刀まで使って殲滅速度を優先している。ヘルは胡蝶剣だが、セイランも予備の斧を持っての二斧流ともいえる状態だ。それでも上手く戦えているのだから上達したものである。
三人が虐殺を繰り返すものの、それでも止まらないクーロン。三人に勝てないのは見ていれば分かるだろうに、まるで狂ったように突撃してくる。どうも何かを飲み込んだ後に、狂ったように向かって来ているらしい。
ルーナは素早く両手を切り落とし、その傭兵の懐から小さなガラス壜を取り出した。それをアイテムバッグに入れてクーロンの傭兵に問うと、相手はあっさりと薬の内容をバラす。
「それはイェルハムラが開発した、一時的に痛みを感じない狂った兵士になる薬だよ。どうしても勝てない相手が居れば使う事になってんのさ。まさか使っても勝てねえなんて思わなかったがな」
「そんな物を使ってまで戦うというのは理解できませんね。何故そんな事をするのです? 敵に勝てないならさっさと逃げるのが一番でしょうに、勝てない相手に勝とうとするのが間違いです」
「ハッ!! てめぇらには分かんねえよ、オレ達の力への執着はな! オレ達は誰も彼もが底辺だ、底辺で生きてきたんだよ。力さえありゃ何でも」
御託を語っていた傭兵は冷たい顔をしたルーナに一瞬で首を刎ねられ、至極あっさりと死亡した。力を渇望する者が、より強い力を持つ者に殺されただけでしかない。本人の望み通りの世界……その末路である。
「聞くに堪えませんね、まったく。底辺で生きてきたら何をしても良い訳ではありません。底辺でも犯罪を犯さず踏ん張っている方がいるのです。犯罪者は所詮犯罪者。底辺でも素晴らしい方と、お前達如きは一緒ではありませんよ」
「他にもこんな連中が居るようですが、出来得る限り潰してから行くしかないようですね。<急いては事を仕損じる>と言いますし、後ろから攻撃されると面倒です」
「そうですね。とにかく大した事の無い実力なのは分かりました。ここは攻撃一辺倒で一気に潰しましょう」
三人はそれぞれの顔を見て頷き合うと、バラバラの方向に走り出し敵を殺戮し始めた。相変わらずクーロンの傭兵は近接戦を挑んできてくれるので、三人としては他の傭兵より戦いやすい。
近接戦闘を好んでくれた方が対処が楽なのだ、遠間から飽和攻撃をされるより遥かにマシだから。ミクとの練習で遠距離からの飽和攻撃を受けた事のある三人は、回避も防御も不能な事が世の中に在るのを知っている。
だからこそ、大した事の無い実力でも相手を舐めたりはしない。クーロンの傭兵を殺しながらも、緊張感を持って対処に当たる三人だった。
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攻撃してくる者も居らず、大多数の敵傭兵を殺戮できた三人は、アイテムバッグから魔導二輪を取り出して移動を開始する。目的地はイェルハムラ聖国のNW16だ。しかしながら敵国なので、強引に入らないといけなくなる。
入国禁止を言われてしまうと、他に対処のしようが無いので困った事態になってしまう。どうしたものかと考えていると、セイランに考えがあるらしく任せる事にした。
魔導二輪に乗って速度を出すものの、途中に傭兵が居る所為で思うように進めない三人。それでも敵の首を刈り、喉を穿ち、頭をカチ割っていく。
「邪魔です! そこを退きなさい!!」
「まったく! 適当な数だけ残して面倒な!!」
「脳髄をブチ撒けたい者は、さっさと来なさい!!」
傭兵が半端な距離で待ち構えている為、移動しては止まって倒し、移動しては止まって倒すを繰り返している。非常に腹立たしいが、それでも少しずつは前進できていた。しかし、傭兵との戦闘中に奥から砲撃が飛んでくる。
三人は慌てて【魔力盾】で逸らすも、凄い威力だったので大きく魔力を消費してしまう。慌てて肉塊謹製の魔力回復用の<天生快癒薬>を飲むが、魔導装甲相手ではどうにもならない。
ジャベリンバズーカやバレットバズーカがあれば対処出来るのだが、ルーナ達にはウィンドバズーカしかない。あれでは魔導装甲に防がれてしまってどうにもならないだろう。悩んでいる間にも砲撃は来ているので、大きく魔力を消費させられている。
ルーナが悩み対処の仕方を思いつかないでいると、ヘルが胡蝶剣を仕舞い、自動連射銃を取り出した。そして当然のように魔導装甲を撃つ。連射銃は流石の高速連射であるものの、魔導装甲の【魔力盾】には全て防がれてしまう。
「ヘル、無駄な魔力を使っても仕方ありません。その銃は威力が低いのです、魔導装甲のシールドは貫けませんよ?」
「ルーナ、魔力を使わせるのです! ゴーレムコアの魔力とて無限ではありません。このまま連射していれば相手の魔力は尽きる筈です。忘れたのですか? 誰がコレを作ったか、そしてどれほど効率化されているかを!」
「成る程、先に相手の魔力を空にしてしまえば、唯の大きなガラクタでしかありませんね。さっさと停止させてしまいましょう!!」
三人とも武器を仕舞い、代わりに連射銃を出して攻撃する。大した威力ではないが、猛烈な連射を受けて一気に魔力を消費したMASは、一分経たずに動く事すら出来なくなった。今回は知恵の勝利であろう。
コックピットから出てきた傭兵を連射銃で叩きのめし、気絶したらナイフで喉下を刺す。その後はゴーレムコアを奪い、アイテムバッグに仕舞ったら魔導二輪で先へと進む。その後も2機出てきたが、同じ方法で倒してゴーレムコアをゲットした。
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SW16の検問所に近付く三人。傭兵だというだけで入国を拒否するのは不可能である。だが、難癖を付ければ入国拒否などは容易いのだ。犯罪を行う可能性があるというだけで、無理矢理に入国を拒否する事も可能なのが国境である。
そんな検問所の兵士に話しかけ、ブラックホークのドッグタグを見せる三人。その瞬間、セイランは兵士に向かって【幸福術】を使用する。練習の中でミクに対して使用した事はあるが、普通の人間種に使用した事は無いセイラン。
最初は小さな力で使い、徐々に術の強度を引き上げていく。慎重なセイランならではであり、二人に比べても安心感が違う。
「ふーん……キサマらが傭兵なぁ……随分と怪しいし、そんな奴等をイェルハムラの領土に入れる訳には行かんのだがなー」
「傭兵の入国を拒否出来る法などは何処の国にも無かった筈では? 私達は犯罪を犯した事もありませんし、後ろで行われていたのは傭兵同士のイザコザでしかありません。それは国家に関わり無い事の筈」
「確かにー、関わりは無いのだがなー……そもそも危険かもしれないで通せないのは分かるだろう? お前達が危険な傭兵でない保証も無いしなあ」
「別にクーロンほど危険ではありませんよ。そんなクーロンは何故か貴国に逃げ込んだようですが……不思議なものですね?」
「ほう? オレの胸先三寸でいつでも入国不可になるのに、よくもそんな事が言えたものだ。お前達は………通ってヨシー」
「「は?」」
「すみません、面倒だったので一気に術の強度を上げたら……」
「「………」」
……まあ、通れたから良いんじゃない?。




