0407・ギャルタム家当主からの依頼
翌日。朝からお強請りするバカ三人を撃沈させ、起きた後に食堂へと移動し朝食を食べる。ちょっと遅い時間だったが済ませブラックホークの出張所へ行くと、慌てた爺さん所長が近付いてきた。
「お主らいったいどういう繋がりがあるのかしらんが、ギャルタム侯爵家の方から依頼が来ておるぞ! どうやったら知り合うのかは知らんが、心臓が止まるところであったわ!!」
「急に何? ギャルタムって確かW03とW04の間の道で、魔導四輪が横倒しになって困ってた貴族だった筈。そのギャルタムの所為で迷惑被ったんだけど、今度はどんな迷惑かけてくるのよ」
「何を言うとるか! ギャルタム侯爵家の入り婿と言えば、今のパラデオン魔王国の国王陛下の弟君じゃぞ!? 三男ではあるが優秀で、傾いておったギャルタム家を見事に立て直した方じゃ! とりあえずさっさと二階へ行くぞ」
爺さん所長が五月蝿いのでついていき、二階の所長室の中に入る。壁に掛けてある布の前に、大きな長方形の箱が置いてあり、その上部にある水晶玉に魔力を込めた。すると布にギャルタムが映し出され、箱から声が聞こえてくる。
MASCを使えば良いのにと思ったが、今は大人しくギャルタムが話す事を聞く事にしたミク。
「久しぶりだね、君達。あの時には助かったよ。それと、SW10及びW15を奪還してくれたそうじゃないか、重ね重ねありがとう。もう聞いているかもしれないが、君達に私から一つ依頼をしたい。一応君達の事を調べたうえで……となる依頼だ」
「私達は誰からの依頼であっても、聞いたうえで請けるか請けないかを判断する。つまり聞いたら請けざるを得ないような依頼は先に断らせてもらう。これは傭兵の権利の一つでもあるから、”一応”先に言っておくよ」
「それはこちらも分かっている。そして君達が一騎当千を超える事もね。こちらから依頼したいのは南だ。イェルハムラ聖国との戦いに参加して、敵を押し返してほしい。向こうの領地までは取らなくていい」
『何故わざわざその程度の仕事を俺達に振る? そんなものはブラックホークの他の傭兵に任せていても問題ない筈だ。わざわざ俺達を投入する必要性を感じないが?』
「君達の言い分も最もだ。実は南……正しくはS19が一番南なのだが、そこを取らんとイェルハムラは攻勢を強めてきている。が、その戦場にクーロンが居るようなのだ。遠いかもしれないが、クーロンを跳ね返せるのは君達をおいて他に居ないと判断した」
『成る程、またもやクーロンの連中か。なら分からんでもない。……主、どうするんだ?』
「条件が一つだけある。それは私達六人は単独行動をさせてもらうという事。何処かに組み込まれるなら、私は断らせてもらう。そちらは条件を受け入れられるの?」
「こちらは全く問題無い。というより、君達の邪魔をさせる気は無いよ。我々はクーロンを跳ね返したという結果が欲しいだけで、それ意外に何かを言うつもりはない。何より、向こうはどうも新型の砲を積んだMASを出してきたらしい。未確認情報ではあるが、それが鹵獲できれば500万出そう。頭の片隅にでも覚えておいてくれ」
「了解、確保出来るなら確保する。ただしクーロンを追い返すのが先だから、場合によっては破壊するけど。というより破壊しなければならない状況なら、100パーセント破壊する事になるね。それ以外なら出来るだけ取ってくるよ」
「了解だ。君達の武運を祈る。まあ、私が祈らなくても君達なら問題ないだろうけどね」
そう言ってギャルタムは通話を切った。どうやら<解体師>のやった事を知ったらしい。後ろであの執事が嫌な物を見るような目をしていた。ミクにとっては路傍の石以下なのでどうでもいいが、三人にとっては腹立たしかったらしい。
「何ですか、あの後ろの執事は! 少なくとも侯爵閣下は笑顔を作っているというのに、その家臣が取り繕う事も出来ないなんて!! 貴族の家の品位を下げていると理解出来ないのでしょうか、まったく!!!」
「本当に、アレは酷いとしか言えません。間違いなく侯爵家という看板を嵩にきた者です。自分のものでも無いでしょうに! ああいう者が居るからギャルタム侯爵家というのは没落していたのでしょうね!!」
「例えどれだけ腹立たしかろうと悔しかろうと、決して顔に出すべからず。そんな当たり前の教育も受けていないのでしょうか!! かつてならば教育のやり直しとして叩き直されて当然の者です!!」
「………もしかして、この三人は元……なのかの?」
「まあね。あんまり大きな声じゃ言えないけど、ヘルもセイランもみっちり英才教育を受けてからルーナに付けられてるから、余計に”なっていない”ヤツに対して腹立たしいんだろうね」
「成る程のう、碌な事が無いので聞かなかった事にしておくわい。それはそうと、S19は遠いが大丈夫かの? あの辺りは優秀な鉱区が密集しておるので、一度たりとも取られたくはないようじゃが……」
「そういえば所長は凄く平身低頭だったけど……もしかしてこの星のパラデオンの権利を持ってるのってギャルタム家?」
「そうじゃ。もちろんここは共同惑星じゃから他にも利権者はおるがの。かつてはパラデオン魔王国の物だったのだが、愚かな過去のギャルタム家の当主が権利を売っ払った所為で共同惑星になっとる」
「あらー、それはまた。文句を言いたい人は山のように居そうね? とはいえ文句を言っていても始まらないというところかしら。今の入り婿さんは強かなようだし、大丈夫そうね。それに私達の邪魔はしないでしょう」
『だろうな。わざわざ結果が手に入ればそれでいいと言ったのだ。結果を重要視しているのは間違い無い。余計な感情で横槍を入れられないなら、構わないさ』
「だね。じゃあ、依頼を請けるって事で手続きしてくれる? ……って、作ってあったんだ。相変わらずだけど、依頼内容を知られない為に紙の依頼書なんだから面白いよね。結局、コレが一番良いって事だし」
「先程そこの通信機を使ったのも同じじゃよ。あれは盗聴がまず出来んし、記録も残らん。記録するような装置が付いとらんしな。随分と古臭い技術じゃが、こういうのが一番信用出来るんじゃよ」
「さて、それじゃあ私達は移動するけど、何か言っておく事とかある? 必要な事なら移動途中のもの限定で請けるけど」
「侯爵家の方の依頼を請けとるんじゃから、真っ直ぐ行け。後、依頼料は今精査しとるから、まだ振り込めてはおらん。どうせお主らなら鹵獲した兵器とか売り捌いているのじゃろ? なら問題あるまい」
「払ってくれるなら良いよ。じゃ、私達はこれで」
ミク達はブラックホークの出張所を出ると、魔導二輪を出して乗り、まずはSW10へと走る。そのまま走って行き、抜けてSW11へ。だいたい等間隔に町は置いてあるので、この惑星の町の位置は分かりやすい。
そのままSW11に入り、遅めの昼食を食べたらSW12へ。流石に本日はSW12で休む事になるだろう。そう思いながら進んでいき、妙なトラブルも無く到着。町に入って早めに宿を探す。
宿と言っているが、時にはホテルであったり、傭兵目当ての簡易宿舎に泊まったりしている。今日は男と女が泊まる宿だ。それ以外には簡易宿舎しか空いていなかった。簡易だけあって壁が薄いとか色々あり、その所為で集中出来ないと三人娘が文句を言い出したのだ。
仕方なく高めの大部屋の中でも、部屋内全体に映像を出せる部屋にした。部屋の壁や床や天井をリゾートの映像に出来る装置が付いている部屋だ。リゾート惑星に居る気分になれるらしい。
ミク達にとっては興味も無いが三人娘は楽しみらしく、その話をしつつ食堂へ。普通の食事をした後で適当な酒などを買いこんで宿へ。
三人娘は部屋に入るとすぐに裸になり、お酒を飲みながら映像を楽しんでいる。実際のリゾート惑星の映像らしいので、こういう景色の惑星があるのだろう。澄み渡った青空に白い砂浜の映像だ。
床も砂浜みたいになっていて、ちょっと面白い部屋だなと思うミクであった。




