0406・宇宙一の剣豪?
「お姉様はご存知無いようなので説明しますが、シンテン・リュウザというのはヴィルフィス帝国で行われている<宇宙一決定戦>において、三年連続<剣の部>で優勝している人物です。<宇宙一の剣豪>とも呼ばれる人物なんですが……お姉様の相手にはならなかったようですね」
「よく考えれば、極めて当たり前の事でしかありませんか。そもそもミクさんに勝つ事自体が不可能なのですから、<宇宙一の剣豪>も、実は宇宙二位でしかなかったんですね。いえ、ヴァルさんとレイラさんにも勝てませんから、実際は宇宙四位ですか……」
『それよりも、主は次に来たらお前達に戦わせると言っていたぞ? 今のお前達の相手に丁度良いとな。相手は【武仙術】を使うものの、言い換えればそれだけとも言える。お前たちにも十分勝機はあるな』
「いやいやいやいや!! <宇宙一の剣豪>は【武仙術】を使うのですか!? ヴァル殿が仰るのですから事実だとは思いますが、それにしても<宇宙一の剣豪>が【武仙術】とは……」
「知らなかった事が明らかになりましたが、知っていれば対処は出来ますかね? 【武仙術】って急に動きを変えたりするので困るんですよね。動きが厭らしいというか、何というか……。とにかく厄介なのは間違い無いんですけども」
「代わりに魔力と闘気をこれでもかと使いますけどね。その所為で連続発動は難しいと言わざるを得ません。私も最近は出来るようになりましたけど、誰かさんみたいにポンポン使うのは無理です」
「まあ、報告はそれだけだね。私達はこれから宿に行って部屋を確保した後で食事に行くけど、三人はどうする?」
「私達も行きます。多分お姉様がお帰りになるだろうと思って、飲んだり食べたりしてませんから。出来れば酒場の方が良いです」
「了解、了解。依頼料は適当に私の口座に振り込んどいて。三人一緒だから。ルーナ達は知らないけど」
「私達も一つですよ。私の口座を二人が管理してくれています!」
「堂々と言うのもどうかと思いますよ? ルーナがこんなだから私達が管理するんですけどね」
下らない話を続けつつ宿に移動して部屋を確保したミク達は、その足でまずは商店へと行く。そこで鹵獲した武具などを売却。血の跡などは全て【超位清潔】で綺麗にしてあるので問題なし。総計で400万近くになった。
ルーナ達も高く売れそうな物は持ち帰っていたので、それを売って40万ほどの売り上げになっている。そもそも持って帰ってきた量が少ないのだからその金額なら十分だと思うが、どうにも負けたのが納得いかないらしい。
悪い事ではないが、総獲りだったミク達と、多くの傭兵と共に進軍したルーナ達が同じ筈は無い。それは致し方がない事なので二人も何も言わないし、何よりルーナも理解している。それでも悔しいと思う気持ちがあるだけだ。
酒場に行き食事と酒を頼むと、適当な雑談をしながら待つ。ステージでは筋骨隆々でブーメランパンツ一枚の男性二人がダンスを披露していて、女性達が「キャーキャー」言ってお札を投げている。
そういえばヤマト皇国では電子決済も行われていたが、お札も使われていた。あの星より発展している宇宙で、何故未だにお札を使っているのだろう? やはり電子マネーの信用が無いのだろうか?。
「電子マネーですか? 確かに古い時代に似た様な物が流行ったらしいですが、簡単に書き換えて悪用できてしまう為、結局信用度がガタ落ちしたそうですね。ハッキリ言って使い勝手が悪いというのもあります」
「仮想マネーの事ですか? 随分古い時代に社会を便利にする為に登場したらしいですけど、便利になればなる程に犯罪もしやすくなりますからね。そういった事が横行した結果、廃止というか自然消滅したそうですよ」
「最後まで使おうとしていた惑星などもあったらしいですが、そういう所は元々犯罪の温床みたいな惑星だったらしく、結局無くなった筈です。持っていれば使えるお札と、何時の間にか無くなってしまっているかもしれない仮想マネー。同じ価値にはなりませんでしたね」
『便利になるのも考え物か……ま、便利になった分、犯罪者にも便利になったのだから仕方のない事なのだろうな。アナログな方がセキュリティ強度が高いという事もある。道具は使いようなのだろう』
「宇宙銀行がお札を発行し、それぞれの国が後ろから支えてますね。お金の価値だけは一定でないと何処の国も困りますので。儲かっている国は自国の優位を崩したくないですし、儲かってない国も価値が変動すると更なる苦境に立たされる場合もありますので」
「という事は為替相場が無いの? それもまた変わってるような……。まあ、そういう状態で推移してきたのなら、これが一番安定してるんだろうね。他ので儲けてるから為替が変動すると面倒なのかな? ヤマト皇国のあったネオガイアみたいに惑星規模じゃないし」
「そうね、一国と言っても複数の惑星を持っているもの。株式一つとっても、一国内で膨大な数よ。それと為替までころころ変わってたら、どうにもならないのでしょうね。それら全てを調べ上げて、怪しい企業を見つけるなんて不可能よ」
『だから固定の為替で怪しい企業を浮き彫りにしやすくしている? ……まあ俺達が考えなくてもいい事か。考えても意味は無いし、何より楽しい話ではなかったな』
ヴァルがそう言った後ステージを見ると、今度は優男とダンスをしているムキムキの男性二人。ブーメランパンツの男三人がオイルを塗って肌を密着させつつ踊っている。そして「キャーキャー」いう女性達。………もはや何も言うまい。
「入るお店を間違えてしまいましたね。適当に宿に近い場所に入りましたけど、こういう酒場だとは思いませんでした。女性達が物凄く喜んでいますけど、アレの何が楽しいのか私には分かりません」
「私達も分かりませんよ、ルーナ。まあ、ああやって世の中にお金が回るんですから、良いんじゃないですか? そこまで高い金額のお札も使ってないようですし」
「そうですね。女性に貢がせるようなお店もあるんですから、ここはまだ健全です。特に問題ないでしょう。……この後で男性を連れ出す女性がいても健全な方です」
というセイランの言葉を裏付ける通り、渡したお札の数でも数えていたのか、一番だった女性達三人が男性と共に奥へと消えて行った。他の女性達はガッカリした声を出しつつ、それでもお酒と食事を楽しむ。
そうしていると、今度は非常に若い少年達が奥から現れた。その五人が歌いながら踊りを始めると、先程まで落胆していた女性達がステージの近くギリギリまで行って「キャーキャー」言い始めた。
ミク達はその歓声を背中に受けつつ酒場を後にする。あそこはああいう店らしいので二度と行くまい。料理も普通だったし。
宿に戻って飲みなおす三人娘。どうにもあのステージで気を削がれたのか、あまり酒が進んでいなかった。なので改めて適当な物をツマミに飲んでいる。
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三人で大人しく飲んでいればいいものを、ウダウダと言いつつ絡んでくるのでカチンときたミクは、セイランを押し倒すとじっくり丁寧に悦ばせてやった。
強引にではなく、敢えて掌中の珠のように優しく優しく扱ったからか、今は全身で悦びを表現しつつ帰ってこれなくなっている。
ピクピク痙攣するだけになってしまっているセイランを見て溜飲の下がったミクは、分体を停止して本体へと戻っていく。その頃には他の二人も同じ状態になっており、ヴァルとレイラもさっさと本体空間へと帰った。
酒に呑まれてウザ絡みするからそうなるのだが、何となく三人は反省しそうにない。




