0404・W15強襲作戦03
ミクはレイラが動く為の囮を行っている。実際にはムカデになっているので、そこまで囮を必要としないのだが念の為だ。まだ撃ってくる敵が微妙に居るので、魔力が回復したのだろう。自ら場所を教えてくれて助かる。
敵の居場所を把握したミクは一気に接近し、敵の首を刈っては死体から装備品などを奪っていく。戦利品は多くあって悪くはない。こうやってお金は貯めるものだと言わんばかりであるが、放っておいても住人に奪われるだけなのだ。
ならば倒した人物が貰うのは当たり前の事であろう。それはともかく、ウロウロしているとレイラから本体空間を通して話があった。どうもボッテウスという高官が逃げようとしているらしいのだが、妙な軍人が居てムカデの姿が見つかるかも、との事だ。
レイラから情報を貰い慌てて現場に急行するも、ボッテウスという奴は魔導四輪に乗り込んでいた。警護の軍人らしき人物が素早く魔法銃を撃って来るので、【魔力盾】で防ぎながら連射銃を取り出す。
魔導四輪の車輪目掛けて連射銃を撃ちまくり、魔導四輪を建物に突っ込ませる事に成功。後はレイラに任せ、ミクは突っ込んで来る軍人と相対する。ミクが連射銃を使って魔導四輪を攻撃しているのを見て、即座に魔法銃を捨て剣を持った人物だ。
「私はリョースナ工業国の上級軍人。名はシンテン・リュウザ。お前はいったい何処の者だ?」
「私はブラックホーク所属の傭兵で、ランク8のミク。パラデオン魔王国の側に味方する仕事を請けていて、W15を奪還する為に来た。それと、あの魔導四輪に乗っているボッテウスという奴の確保ね?」
「チッ! 何処かの傭兵組織から洩れたか! 悪いがボッテウスを連れて行かれる訳にはいかんのでな。お前にはここで死んでもらおう」
そう言うと腰溜めにした剣を持ち、一気に走りこんで突いてきた。ミクがバックステップでかわすと、更にステップインして突きこんでくる。変則の二段突きというところだろうか? 人間種の体でやっている以上は余裕でかわせる。
そう思い、相手の突きを半回転してかわすと、そこからミクに向かって薙いできた。慌てて左手のメイスで防ぎつつ、斜め後ろに跳んで距離を空ける。大凡で何をやったかは分かるが、突きの後の薙ぎは十分な威力があった。
「ほう、私のスキルをギリギリとはいえ防ぐとは……なかなかやるではないか。これは思っているよりも気合いを入れねばならんかな? アレをかわす、もしくは防げる者は滅多におらぬのだ。その一点でお前を強者と認めよう」
「別に認めて貰わなくてもいいけどね。それよりもさっきの急激な動き、おそらくだけど【武仙術】でしょ? まさかセイラン以外にも使える奴が居るとは思わなかったけどさ。アレは【武仙術】の【動体】で間違い無い筈」
「………驚いた、まさか【武仙術】を知る者であったとは。かなり珍しいスキルかつ、特殊な血筋に生まれねば使えぬ筈なのによく知っておるな。これは真に気合いを入れねばならんか」
【武仙術】の【動体】とは基本的なスキルの一つであり、魔力と闘気を練り合わせ、その力で自身の体を強制的に動かすスキルだ。意識さえあれば麻痺している体すら無理矢理動かせるスキルだが、麻痺している反動は受けるので注意が必要なスキルでもある。
突きから薙ぎに変わったにも関わらず、妙な威力があるうえに魔力と闘気を使ったのだ。ミクならば大して難しくもない問題である。もちろん答えを知らなければ辿り着けないのだが。
相手は素早く袈裟切りや水平に切りつけてくる。動きはコンパクトで無駄が無く、いつ【動体】を使ってくるかを悟らせないようにしている。突然に相手の挙動がおかしくなり、何故か正しく力を込めて攻撃出来るのだ。厄介極まりない……普通なら。
最初も慌てて防いだのは、そういうフリが必要だったからだ。当たり前に反応して当たり前に防ぐと怪しすぎる。その為にわざわざ”慌てているフリ”をしたのだ。順調に演技力が向上しているようである。
相手の剣筋は見事であり、正しい修練をしてきたのがよく分かる。血筋か何かで伝わっているのか、この魔法銃全盛の時代によくここまで鍛えたものだと思う。余裕で防ぎ、かわし、いなしながらもミクは心の中では褒めていた。
「ふぅ、防御に徹されると簡単には崩せんな。このスキルはそれが欠点だ。……もう少し楽しみたかったのだがボッテウスめ、突っ込んでから逃げぬと思ったら気絶しておったのか。軟弱な奴め」
「こいつは捕まえたわ! 後はW14まで連行したら私達の仕事は終わりよ。そっちもさっさと何とかして頂戴!!」
「了解、了解。それより、そいつ連れてさっさと戻ってて! こっちは一人でいいよ!!」
「チッ! ボッテウス!! さっさと起きんか、キサマ! リョースナの国民として少しぐらい抵抗せい!! ……クソッ、これだから軟弱な文官は!!」
「まあ、仕方ないね。所詮はデスクワーク、こういう時には素人に毛の生えたぐらいにしかならないよ」
「敵に説教を受けるような情けない姿を晒しおって。流石に連れて行かせる訳にはいかんのでな、さっさとそなたを殺して連れ帰らねばならん。悪いな」
「心配しなくても私は死なないよ。残念ながら貴方程度では私を殺せない」
「ふっ………言ってくれる!!!」
相手は一気に距離を詰めて袈裟に振るってきた。おそらくだが【武仙術】の【縮地】と【剣術】の【雷切り】を組み合わせたのだろう。高速移動と高速攻撃を組み合わせたものだ。並みのと言うか、大半の者は切り殺せるどころか反応も難しい。
本当に魔法銃全盛の時代の人間種か? そう思うぐらいに見事だが、それでも肉塊というバケモノに対しては圧倒的に足りない。ミクは【雷切り】の振り出しより速く、相手の顎を鉈を握った手で殴りつけた。
それは一撃で相手の意識を刈り取るものであり、同時に左手のメイスで相手の袈裟切りを防いでいる。おそらく相手は何をされたか分からないまま気絶しただろう。ミクは相手を殺す気はなかったので、魔導二輪を取り出して素早く乗ると去って行った。
既にヴァルもゴールドスカルを壊滅させており、W15の入り口で待っているらしい。そこへと素早く移動していく二人はヴァルと合流後、一気にW14への道を走る。
(主、どうしてあの男を殺さなかったの? 確かに剣の技術を鍛え、スキルも十分に使い熟していたわ。もちろん人間種基準でだけど。でも、それだけじゃないわよね?)
(生かしたのは、次に戦う事があれば三人娘の誰かに戦わせようと思ってね。私達の敵じゃないけど、三人には丁度良いくらいの相手だからさ。結構楽しめると思う)
(それよりも、相手は自分の力に自信のある軍人だろう? 完膚無きまでにやられた主にリベンジを挑んでくると思うぞ?)
(なら、あの三人に勝ってから挑戦を受ければ良いだけだよ。三人の内の誰か一人にやられたら最初からやりなおし。その形なら私は面倒な事にならないし、三人の練習にもなる)
(それはなるでしょうけど、何だか気の毒な気もするわね。リベンジしようとしたら見向きもされないなんて。ま、弱いから仕方ないと言えば終わる話か……)
(器を一度壊してる感じだったから、魔力や闘気の面では三人の方が有利だけど、圧倒的に経験が足りないからなぁ……何だかんだと言って、三人は敗れそうな気もする)
(ま、とりあえずは帰ってからだな。こちらは特に何も無かった。ゴールドスカルとかいうのも中堅の組織らしい。この星系というか、この宇宙でだからそれなりの規模ではあるんだがな)
宇宙規模の中堅ならば、それはもう巨大組織ではなかろうか?。




