0040・侵入者への尋問とオルドム男爵の最後
「私が聞きたいのはオルドムという男爵の事。そいつはバルクスの町の代官だった筈だけど、いったい何処に行ったの?」
「オルドムなら家族含めて既に始末した。ヤツは我が国に連れて行けと言ったが、あんな役に立たぬ無能が必要な筈が無い。使えない駒に安住の地など存在せん。秘密裏に始末して、死体はソマ村の近くに埋めた」
「ソマ村って、バルクスの町の東にある村じゃん。そんな近くに捨てられてたんだね。まあ、生きていないなら別にいいや。面倒で厄介な事をされるのならまだしも、既に死んでいるなら何も出来ないし」
「ああ、もう一つ私には聞く事があった。お前達が開拓したルートというのを教えろ。場合によっては使えないように潰しに行かねばな」
その後、侵入者全員から話を聞き、終わったら全てを喰らった。それなりの装備と服なども全て回収し、ミクは自身の体を本体に戻す。出てきた時には小さな鼠の姿だった。<大森林>で適当に食べた鼠の魔物を小さくしたものだ。
近くで見ても普通の鼠にしか見えない。ローネにも確認させたが問題無いようで、早速窓から外へ出て子爵の屋敷へと行く。ヴァルとローネは適当に寝るだろうと思い、気にする事も無く目的地に進むのだった。二人とも呆れていたが。
子爵の屋敷を侵入者から聞いていたミクは、王都の貴族街に入り寄り道せずに進んで行く。夜なうえ、小さく真っ黒な鼠など見えないのだろう。誰も気にしていない。そもそも虫などは【気配察知】でも調べられない。
【気配察知】という【スキル】は、一定以上の大きさの物にしか反応しないのだ。だからこそ、ハムスターレベルまで小さいミクには一切反応しない。魔物は魔力を多量に溜め込み、変質した元動物というものが殆どである。
人型生物の者も、元々はサルやチンパンジーやゴリラのような生き物が変質したものだ。そこからどのように進化したのか分からないが、今のような魔物となっている。生態系としては保たれているようなので、気にする必要も無いだろう。
子爵の屋敷の裏に回ったミクは勝手口を見つけたものの、閉まっていてここから侵入は出来ない。困ったミクは再び肉体を変える事にした。今度は百足に変わってきたらしい。怖ろしい速さで扉の下を潜り、屋敷の中へ侵入していく。
そのまま子爵家の中を進み、当主の部屋と思われる部屋を見つけた。中に入ったミクは壁を伝って天井へ上がり、そこから寝ている奴の顔を見る。間違いなく肥え太った豚の顔だった為、天井から枕元へと落ちた。
着地したミクは体から細い触手を出し、頭に付けると脳へと突き刺して操る。後は自分の聞きたい事を喋らせるだけだ。
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色々と聞いた結果分かったのは、商国の諜報員から金を貰って冒険者ギルドへ嫌がらせをしていた事。特定の商会に圧力を掛け、商国に都合の良い商会を優遇させていた事。そして極めつけは、商国に国家の秘密情報を売っていた事だ。
完全に売国行為であり、殺されても同情の余地など無いほどである。まあ、そんな情報とは関係無く喰われる訳だが……。ミクは喋らせた後、触手で脳を貪って殺した。そして人の肩幅が通る大きさの、薄い膜の様に肉を広げると、本体へと転送する。
簡単に言うと薄い膜のように広がったミクは、触手を使って膜の中に死体を入れていったという訳だ。薄い膜のような肉など、そもそも【スキル】で調べる事自体が不可能である。よって秘密裏に始末できる訳だ。
再び体を百足に戻し当主の部屋を出ると、色々物色していく。地下にワイン樽などがあったのでチーズと共に回収。更には貨幣や宝石なども回収してミクは子爵家を脱出。そのまま百足の姿で帰る事にした。
この百足の姿、普通の百足の100倍以上早くて驚く。Gがシャカシャカ走るよりも速いのだから、見れば怖気が湧いてくるであろう。見る事が出来れば、だが……。
宿の部屋にまで帰ってくると、ローネとヴァルは寝ていた。何故かヴァルが腕枕をし、ローネは幸せそうに寝ている。二人とも全裸なので、何があったか非常に分かりやすい。ミクは人間形態に戻り、自分のベッドに寝て停止するのだった。
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『で、何があってああなってたの? そもそもヴァルも私と一緒で性欲とか無いし、快楽も感じないっていうか無いよね?』
『ああ。単にローネが詳しく主の事と俺の事を聞いてきて、生殖能力が無い事に喰い付いたんだ。闇半神族には生殖能力が有るらしいので、付き合ってくれと頼まれてな。自分の性欲を満たす為の玩具扱いをされた』
『そういう事。まあ、私達には何の意味も無い行為でしかないからねー。物事が円滑に進むなら、それぐらいしてあげるけどさ。カレンやゼルダもそうだけど、好きだよねぇ。私には理解できないや』
『俺もだ。そもそも体の作りが違うから仕方がないんだろうけどな。主と同じで、そもそも性欲とか快楽とかの意味が分からん。気持ち良いらしいが、サッパリだ。阿呆が引っ掛かるという意味ぐらいしか無いな』
そうだよねぇ……。まあ、考えても仕方ないし、奴等の武器を解体して作り変えて遊ぼうっと。何を作ろうかな? 次は道具にしよう、武器は十分あるしね。
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明けて翌日。ミクとヴァルは起動したが、どうやらローネはまだ寝ているらしい。仕方がないのでヴァルが起こすと、ローネはゆっくりと目を開いた。目の前のヴァルを見て顔が真っ赤になっているところを見るに、同じ結果になったらしい。
「お、おはよう///。昨日は、その……素晴らしい一時だった。ありがとう……//////」
そんな風に言いながら、まったくヴァルから離れようとしないローネ。彼女の中の何かが目覚めたらしい。………勿論、賢明なので何かは言わないが、カレンとゼルダと同じものである。
流石に動いてくれなければ困るので、ローネに起きるように言うミク。それを無視するローネ。カチンときたミクは男性姿になり、ヴァルと共に朝から制裁を加えるのだった。
……制裁の割にはローネの嬌声が響くのは気のせいだろうか?。
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「あ、朝から酷い目にあった//////。前と後ろ両方なんて、私でなければ壊れているぞ///。流石にな、私も朝からは駄目だと思う」
何か妙な副音声が聞こえた気がするが、きっと気のせいだ。そうしないと話が進まないと思ったミクは、さっさと井戸に行き顔を洗うのだった。
その後、冷静になったローネも顔を洗って口を漱ぎ、食堂に言って大銅貨4枚を支払う。食事を待っていると、食堂に居る全員がこちらをジッと見ているのに気がつく。
その理由に見当がつかないミクはローネに聞こうと思ったのだが、視線の意味に気がついたローネは褐色肌を朱に染めて俯いている。聞けそうな雰囲気では無いので聞くのを止めたミクは、食事が来るまでボーッと待つのだった。
食事後、まずは冒険者ギルドに行って報告する事にした。受付でギルドマスターの部屋に行く事を告げると、どんどん勝手に進んで行くローネ。どうやら彼女は顔パスらしい。
ギルドマスターの執務室に入ると、昨日とは違い晴れやかな顔のロディアスが居た。その顔の質がローネそっくりだとは分かったが、それ以上は分からないミクは話し始める。
「夕方前に引っ掛かったトレモロ子爵っていうのを、昨日の夜中に喰ってきた。多分だけど、ギルドへの嫌がらせは減るんじゃないかな?」
それを聞いた瞬間、「ピシッ!」と音がしたように固まるロディアスだった。




