0400・SW10奪還作戦04
敵陣に突っ込んでいくルーナは集中砲火を浴びているが、斜めにした【魔力盾】を前方に二枚出して逸らしていく。そのまま突撃していくルーナは右手に太刀を持ったまま、左手に魔法銃を持っている。これは市販のヤツだ。
バリケードで固めている連中が必死になってルーナを倒そうとするものの、ルーナは真っ直ぐ止まらずに突っ込んで行く。そしてバリケードとなっている資材をジャンプで越えて敵陣の中に突入を果たした。
素早く右に居る傭兵の首を突き刺し、左に居る傭兵の首を魔法銃を撃ち抜く。例え市販の魔法銃とはいえ、接近距離で受ければ死亡は確実である。そのままルーナは敵の蹂躙を開始した。右手の太刀では突きを主体にして戦い、左手の魔法銃で牽制と殺害を行う。
ミクからは乱戦なら太刀で斬りつけるなと言われている。すぐに斬れなくなるから、どうしても斬撃を行わねばならない時までとっておくようにと。そして、その教えを律儀に守っているルーナ。突きの方が速く倒せるというのもあるのだろうが。
身体強化をしながら上手く【魔力盾】を使って戦っていると、ヘルとセイランが後ろから乱入してきた。ヘルは素早く敵の喉下を穿ちつつ、敵の隙間をすり抜けて移動していく。
セイランは盾を全面に出して重戦車の如く進み、敵の頭を斧でカチ割る。相手のヘルメットもろとも身体強化でカチ割っていく様は、ミク達が当初手加減していた非ではない。鉄のヘルメットを無関係にカチ割る姿は恐怖の対象と言ってよかった。
一旦三人娘が暴れ始めると止まらず、更に敵の魔法銃は逸らされ同士討ちが発生してしまった。この時点で敵はどうする事も出来なくなり、仲間が殺されていくのを見守るしか出来なくなる。しかし、それも長くは続かない。
一旦恐怖が伝播すると後は恐慌を起こしたように相手は逃げ出し、我先にと逃げる為に仲間を押し倒して潰す。その逃げる敵を追い駆けつつ、三人娘は武器を魔法銃とウィンドバズーカに替えて撃ちまくる。
砂漠惑星のボートを遠間から転覆させる威力である。そんなものを間近で喰らったら良くて内臓破裂でしかない。それらを連射しつつ、ルーナ達三人は敵を追い駆けて殺していく。次の場所で態勢を立て直される前に、一気に倒してしまおうという判断である。
「ストップ!! それ以上は追い駆けなくていい! それよりもこっちに戻ってきて!!」
<黒い風>のリーダーである女性に言われ、已む無く三人は追い駆けるのを止めて戻るのだった。魔法銃やウィンドバズーカを仕舞い、代わりに太刀や胡蝶剣に斧を取り出して【上位清潔】を使って綺麗にする三人。
それを見て驚く周囲の傭兵達。ルーナ達が僅か三人で突破したので祝福しに来たのだが、自分で魔法を使っているのを見て驚いたのだ。如何に魔法が使えないか、よく分かる反応である。
「それにしても、よくやってくれたわ。まさかここまで一方的に敵を蹂躙するとは思わなかったけど、貴女達の言う通り防御を固めていて正解だったわね。それで、次も行けそう?」
「ええ、特に問題はありません。多少疲れたというくらいで、特にそれ以上ではありませんし。それよりも何故止めたのですか? 出来る限り殺すチャンスでしたよ?」
「いえ、あの……殺すチャンスって、何?」
「敵は私達の吶喊で慌て、更に同士討ちを起こした事で恐慌を起こしました。なので逃げていたのです。あの状況では一兵でも多く殺し、正気に戻られる前に数を減らさねばなりません。そうしなければ次の戦いが苦しくなります」
「その為に私達は追い駆けて殺していたのです。ただ無為に殺戮を繰り返していた訳ではありませんよ? この後も戦いは続くのです。冷静になって対策を立てられる前に、出来得る限り敵戦力を削っておくのは当然の事です」
「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」
「……はっ!? そうだ! その女どもの言う通りだぞ!! お前達とて碌な指揮など執れていないではないか!! 何が私は降格だ! 降格はお前達だろう、私に指揮権を返せ!!」
「言っておきますけど、あのバーコードハゲが指揮権を持つなら、私達はまた後ろでゆっくり見物させてもらいますよ? だってあんな信用ならない者に命を預けるなんて御免ですからね」
「グ………」
バーコードハゲがルーナを睨むものの、ルーナは余裕の表情でスルーする。微風にも感じてませんよ、という態度が余計に腹立たしいのだろう、バーコードハゲは「ドスドス」と地面を踏み鳴らして後ろへ行った。
「とにかく急いで敵を追い駆けましょう。態勢を立て直されて冷静になられると厄介です。まだ敵が混乱しているなら私達が突っ込みますから、敵からの攻撃が無くなったら皆さんも進んで来て下さい」
「「「「「「「「「「おうっ!」」」」」」」」」」
三人娘はアイテムバッグから魔導二輪を出し、乗ってどんどん進んで行く。運転しつつ魔力回復用の<天生快癒薬>を取り出して飲む。まだ魔力枯渇は起きていないが、肝心な時に魔力が足りませんでは話にならない。
ミクが買っていた30個の小さな容器は、魔力回復用の<天生快癒薬>を入れて持たせる為であった。残り9本。余裕を持って持たされているので全て消費する事もないだろう。三人は回復して心機一転、運転に集中して進んで行く。
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そして40キロ地点。ここが最大のバリケード地帯だった。既にSW10の目の前だからか今までで最大のバリケードが築かれているものの、中は随分と混乱しているようだ。
ルーナ達は魔法銃からの魔法が飛んでくる中で、魔導二輪を降りてアイテムバッグに仕舞う。その後は一気に突撃していき、その途中で太刀などを取り出すと、再びバリケードを越えて敵を殺し始める。
短い時間では三人娘を倒す方法を思いつかなかったのか、相手の傭兵達は次々に倒されていく。それでもこれ以上下がれないのか、それとも理由があるのかは知らないが、なぜか逃げない敵を殺していく。
三人がそうして戦っていると、後ろから魔法銃の援護が来た。どうやら<黒い風>の面々とブラックホークの傭兵達が来たらしい。むしろ敵のバリケードを利用して戦っているようだ。
上手く利用して戦えるなら何でもいい。そんな事を考えつつ戦っていると、突然、後ろからルーナが撃ち抜かれた。慌ててヘルとセイランは後ろに【魔力盾】を使い魔法を逸らす。
撃ったのはバーコードハゲとその仲間だったが、周りの傭兵に取り押さえられる。
「クソッ!! 一匹しか殺せなかったか!! それでも一匹減れば力は落ちるだろう。どうせこれで終わりだ。私がこれから先も生きるには、SW10の奪還作戦が失敗しなければならないのだからな!」
「情報を流していた黒幕はお前ね? パラデオンとリョースナの間で何があったのかは知らない。だけど、お前の所為で多くの仲間が死んだ。その報いは受けてもらうわよ?」
「あー、痛かった!! 多分後ろから撃ってくるだろうなとは思ってましたから、敢えて無防備に受けましたけど……相変わらず痛くて嫌になりますね」
「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」
「ルーナ! 起きたなら手伝って下さい! こっちは二人で戦ってるんですよ!!」
「はいはい、分かっています! もう面倒ですから【上位清潔】! よし、後は薙刀と交換して……と。やあやあ、我こそは武蔵坊弁慶なり! 我こそはと思う者は、かかって参れ!!」
「そんな事はいいですから、さっさと戦う!! ミク殿やヴァル殿に言いつけますよ!!」
「はい! 真面目に戦います!!」
「「「「「「「「「「………」」」」」」」」」」
三人娘はいつも通りだが、置いてけぼりの傭兵達であった。




