0399・SW10奪還作戦03
5キロと10キロのバリケードを突破し、現在は15キロ地点のバリケードを突破中。そろそろ突破できるとは思うものの、未だに前へと進まない。まあ、あの男が指揮官では勝てる戦いも負けそうではあるが……。
「それにしても、この大事な奪還作戦を何故あんなバーコードハゲに任せたのでしょう? ハゲはともかく、能力的には選んではいけない人物ですよね? あの所長は愚かには見えませんでしたが、いったい何故……」
「それはさー、アイツを失脚させる為なんだよ。今回アイツが五月蝿かったのと、そっちが言った通り貴族と関係あるのよねアイツ。だから大手を振って叩き潰せる機会にしたい訳。本来の指揮って、実は私達だったんだよねー」
「そうなんですか? それで一番後ろで見てるって訳ですね。でも、他の方々は納得されてるんですか? 幾ら潰す為とはいえ、無駄に怪我なんかもしてますし……」
「ゴメンなんだけどー、黙っといてくれる? 実は所長からそれを言われてるのって私達だけなんだよねー。厳しいだろうけど、アイツの失脚とSW10の奪還をやってくれって。だからさー、奪還に協力してね」
「……そういう裏があったのですか。まあ、奪還には協力致しますよ。出来なければお姉様とお兄様に何を言われるか分かりませんし。それが凄く怖いので、私達も戦闘となれば本気で頑張ります」
「ゴメンだけど、頼らせてねー。リーダーも言ってるけど、今回の依頼は相当難しいからさー。正直に言って三人が居てくれなきゃ無理だよねー、って思える策だし。元々は「出来たらいいな」だったのに、所長が直前にブッ込んできたんだよー」
「直前にですか……。だからこそ洩れないとも言えるでしょうけど、よくもまあ危険な事を……とは思いますね。練られた策ではなく、行き当たりばったりで何とかしろって事ですし。おっと、動き始めましたね」
前に進んで行く車両の後ろをついていく三人。次は20キロ地点であろうが突破出来るのだろうか? そう思いながら進んで行くものの何処か変であった。
「体感では20キロ地点を越えている気がするのですが、いったいどういう事でしょう? これまで5キロ地点毎にバリケードがありましたよね? 急にないと怪しいというか、むしろ危険な気がしてくるのですが……」
「そうですね。確かにルーナの言う通り、何だか嫌な予感がしてきました。後ろを塞がれる事は無いと思いますが、資材などが無くてバリケードを作れなかったと安易に考えない方がいいでしょう」
「あの指揮官は安易に考えていそうですけどね。ですが、私達は気を引き締めて進みましょう。緊張感を持っていて損はありません。下らない失敗をしない為にも、相手を甘く見ずに備えておきませんと」
そう言って改めて気を引き締めつつ、ルーナ達は30キロ地点まで進んでいった。そこは資材をこれでもかと使った大バリケード地帯であり、相手の傭兵も大量にいるのか魔法銃が遠くからでも飛んでくる。
「これの為に、20キロと25キロの所にバリケードが無かったんだねー。納得はするけどー、これって本当に越えられるの? ちょっとヤバい気がする。流石のリーダーも唖然としてるっぽい」
「そこまでハッキリとは見えませんけど、前で相当の方の魔道具が防いでいるみたいですね。相手は魔力を消費させて近付かせない作戦でしょうか?」
「そうかもしれません。魔力の回復には時間が掛かりますから、相手の魔力を削りきれば勝ちだと言えなくもありません。ミク殿相手ではこれっぽっちも通用しない手ですが」
「ですね。あの方は無限とも思える魔力を持っていますし、何より魔力の無駄な使い方を遊び以外ではしませんから。戦いともなれば一切無駄なく、最短で敵を殺しに行きますし」
「本当にお姉様は無駄がありませんよね。情け容赦もありませんし、怖ろしい程に完成された兵士みたいです。一人で戦場を引っ繰り返すワンマンアーミーみたいなもの……と言っても、まだ過小ですかね?」
そんな事を話していると、前から指揮官が慌ててやってきた。流石にあの大バリケード地帯は突破できる気がしないのだろう。バーコードに更に脂と汗がついていて汚くなっている。………皮脂多いな、そういう病気か?。
「お前達に指揮権を渡してやる! だからアレを何とかしろ! このままでは壊滅してしまうぞ!!」
「何を言ってるのやら? 指揮権を渡しますから助けて下さい、でしょう? まさか、バカは人様にものを頼むという事も知らないの? 言っておくけど、指揮権を渡した時点でアンタは降格決定よ。それでもいいなら頼みなさい」
「グッ、グググッグググ………指揮権を渡すから、助けてくださいっ!!! どうだ! 言ってやったぞ!!」
「言った以上、アンタの査定は下がって降格決定だけどね。ま、突破できなきゃ私達の査定にも響くから、これ以上バカの相手をしていてもしょうがないわね。手伝ってくれる?」
「ええ。それは構いませんが、どうします?」
「まずは前線に行って確認しないとね。それによって色々変わるから」
そう言ってアイテムバッグに魔導四輪を仕舞い、四人は前線に歩いて行ってしまった。三人娘もアイテムバッグに魔導二輪を仕舞い、前線へと歩いて行くのだった。ちなみに、バーコードハゲから悪意が飛んできているのは三人とも知っている。
前線に着いた四人組は、周りに指揮権が交代された事を宣言する。その後やってきた三人に対し、どうやって突破するかの相談を始めようと口を開く。すると、それも聞かずに飛び出すルーナ。
「あれぐらいなら時間は掛かりませんから行ってきます! 気にせずに防ぐ事に集中して下さい。そのうち飛んでこなくなりますから!!」
「ちょっとルーナ! まったく、もう! すみませんが、私達も行きますので耐えて下さい!!」
「そのうち敵の攻撃は私達に集中しますから、それまでは宜しくお願いします!!」
そう言って結局は三人とも敵陣へと突撃して行くのだった。それを見ていた<黒い風>の面々はどうしていいかも分からず、最後には耐えて防ぐ事にした。敵の数が多いので、防ぐのが精一杯でもあるからだ。
「リーダー! あの三人行っちまったが、行かせて良かったのか? そこ、防御陣形だ! 魔力が減ったらすぐに後ろと交代しろ! 前に出すぎるなよ、魔力を余計に喰うぞ!!」
「行ってしまったものは仕方ないわよ。そもそもアレを見て突っ込むなんて選択をするんだから、少なくとも私達よりは突破できる可能性は高いでしょう? なら賭けるしかない!!」
「意外にー、突破しちゃう気がするんだよね。あの頭のおかしな美女と同じチームだしー、アレ見て突っ込むんだもん。間違いなく、あの三人もクレイジーだよね」
「うむ、間違い無いだろう。並の者なら臆するし、優秀な者なら冷静に突破の策を考える。だが、あの三人は根本的な部分からして違う。明らかにおかしい。それにCB27の事もある」
「CB27? そっちはオレ読んでねーけど、何かあったのか?」
「あの美女は敵陣に突っ込んだそうだ。そして敵陣の中央で暴れたらしい。御蔭で敵は同士討ちを恐れて手が出せなかったと書いてあった」
「「「………」」」
「間違いなく、それをやりに行ってるわよねえ……。おっそろしい事をするもんだと思うけど、入ってしまえばこっちのもの……なのかしら? 私は難しい気がするけど……」
「とりあえず見ておくしか無いだろ? オレ達が出来る事なんて防御ぐらいしかないんだし……」
何とも言えない雰囲気になる<黒い風>の面々であった。




