0396・W14の出張所にて
昼食後も飛ばして進みW10。今日はここで止まる事にした。無理に急げば今日中に辿り着くが、そこまで無理をしてもしょうがない。一日で情勢が激変するとも思えないし、今日はこの辺りまで来れただけで十分だろう。
宿を探して部屋を確保し、食堂に行って夕食を注文した。予想外ではあるが、砂漠惑星よりもこの星の方が新鮮な野菜を食べられている。光源の魔道具で野菜を栽培しているからだろうか? 瑞々しい野菜が普通に出てくるのだ。
代わりに肉は家畜の肉ばかりで、そこまで美味しくはない。岩石惑星なので美味しい肉の魔物が少ないのだろう。儘ならないものである。そんな食事を終えて、さっさと宿に戻り三人娘を撃沈させたミク達。
いちいち面倒なのでさっさと終わらせ、後はゆっくり寝かせるのだった。移動で疲れている癖に、夜の性活は別とはどういう事なのだろうか? 相変わらず過ぎる三人である。
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次の日。朝起きたら準備をさせ、部屋を片付けたらチェックアウト。食堂に行って朝食を食べたら、今日も西へと進んで行く。今日中にW14に辿り着けるだろうから、そこで最新の情報を聞く事にしたミク。
順調に進んでいきW14に辿り着いたので、中に入ってブラックホークの傭兵ギルドへ行く。アイテムバッグに魔導二輪を仕舞い、出張所に入って受付嬢に話しかけた。
「私達はこの辺りの情報を教えて貰いに来たんだけど、聞いてもいい? 前線の、W15の奪還も含めて教えてほしい」
「えっと……現在、W15の奪還作戦などは予定されておりません。SW10が敵に奪われてしまい、それどころではありませんので」
「あら? W15だけじゃなく、SW10まで奪われたの? ……もしかしてW15を奪還しようとした隙にSWの方をやられた?」
「え、ええ……。所長も「リョースナの連中にしてやられた」と仰っていました。一応勝手に攻めるのは自由というか止められませんが、今はSW10への奪還作戦が先ですので……」
『W15の方は予定されていない訳か。しかし、ズルズルと取られっぱなしでは、やがて既成事実化されてしまうぞ。早めに奪還作戦を行い、係争地であるアピールをしておかないとな』
「そんな事は分かっとるわ、言われずともな!! だがな、兵が足りんのだ。一気に覆すだけの兵が足りんので、今はどうする事も出来ん! 幾ら戦いたくとも戦えんのだから仕方あるまい」
「でもW15は勝手に攻めて良いんでしょ? だったら私達がW15に行くよ、むしろその方が都合が良い。それよりもSW10への奪還作戦はいつ? そっちの方は作戦あるんでしょ?」
ミクは二階から下りて来た白髪の爺に対して作戦を聞かせろと言う。所長らしき白髪の爺はミクをジッと見ていたが、やがて嘆息すると話し始める。
「明日じゃ。本来なら明々後日からと言うてあるが、相手を騙す為に宣伝しておるに過ぎん。本当は明日からじゃ。一部の者には通達して既に準備をさせておる。ここまで言わせるのじゃ、参加するんじゃろうの?」
「ウチの三人娘はね。私達は予定通り、W15を攻めるよ。皆殺しにしていいんでしょ? それなら余裕で潰せる。折角だから、死体の処理もついでにしてあげようか?」
「………お主、砂漠惑星SOW264の<解体師>か。殺した傭兵の生皮を剥ぎ、店先に吊るしたバケモノ。四肢を切り落として傷口を焼き、首を縄で絞めて店先に吊るした後、腹を掻っ捌いたりしておったのう?」
「「「「「「「「「「うげぇ……」」」」」」」」」」
周りの傭兵がドン引きしているが、ミクは怒りも呆れもない。毒を入れられた怒りはあったが、あそこまでされなければ理解しない者が悪いのだ。そういう意味では、自分のやった事に疑問も無いミクであった。
「それで? あんなものは毒を入れてくるバカが悪い。戦うのではなく暗殺を謀ったのだから、生皮を剥がれても仕方ないでしょう? それが嫌なら最初から普通に争えば良かっただけ。そこを理解していないマヌケだから、そこまでの事をされるのよ」
「……あっはっはっはっは! いや、すまん! まさかここまで気骨のある者とは思えなくてのう。女でなければ孫娘を宛がっておるくらいじゃわ。最近の若い連中は気骨が無くて困る。お主ぐらいハッキリ示さねばならんというのに」
「それはいいんだけど、私達は明日W15を攻めるから、SW10を攻める人員に彼女達を混ぜて頂戴。後、出来れば一番前で突っ込ませて。それぐらいの経験をしないと意味が無い」
「確かにそうねえ。最悪はルーナを突出させて死なせなさい、それでヘルとセイランは助かるから。生き返る奴は犠牲にしてOKよ」
「ちょっと待って下さい! 幾らなんでも扱いが酷くないですか!? 確かに連続70回までなら復活しますけど、どこまでなら復活出来るかは分からないんですよ? 場合によってはミンチなら復活しない虞もあるんですからね!」
((((((((((ミンチじゃなきゃ、復活すんのかよ……))))))))))
「まあ、乱戦とミクさん達がいない……つまり頼れない戦いを経験しろって事ですね? それは仕方がないと言いますか、いつまでも助けてもらっていては強くなれませんし……。怖いのはルーナがポカをやらかすぐらいですか」
「ですね。どうにも浮つく癖が抜けませんから、場合によってはとんでもないタイミングで大ポカをやらかすかもしれません。そうなったら私達で何とかフォローしましょう」
「何故、私が大ポカをやらかす前提なんですか! その作戦はおかしいでしょう! 二人だってやらかす可能性はあるでしょうに!」
『はいはい、五月蝿い五月蝿い。少し黙っておこうか。主が話を纏めるからなー』
ヴァルの右手で引き寄せられ、左手で口を塞がれたルーナ。あうあう言っていたが、やがて黙ったようである。
「私達の内、こっちの三人が明日のSW10の奪還作戦に参加。私達三人はW15へ突撃。明日はそういう形にするけど、それでいいね? 他の連中を連れていると足手纏いの可能性が高いからヤダよ?」
「そうじゃろうの。お主なら当たり前のように敵を虐殺するじゃろうから、連れて行っても足手纏いどころか道に吐くぐらいしか出来んじゃろ。むしろ、お主らだけの方が良い。納得出来ん奴等には砂漠惑星の雑談スレでも見せれば理解しよう」
『そういえばMASCで確認したが、画像を撮っていた奴がいたらしく、俺達のやった事を多くの者が見たようだな。主の生皮剥ぎから、奇妙なオブジェまで。わざわざ無駄に見せる理由がよく分からんが』
「//////」
耳元で<魅惑の声>を喰らった何処かの誰かさんは、下半身をもぞもぞ動かしているが、どうやら耳元から恥骨まで随分とキたらしい。セイランが羨ましそうな顔で見ているが、話し合いの最中に何をしているのやら。
「とにかく私達も昼食を食べた後、午後から明日の準備をするよ。明日の朝ここに来ればいいよね?」
「そうじゃの、それで頼む。戦力の増強は正直かなりありがたい。例えそれが生皮を剥ぐ<解体師>でもの。ちなみに<キワモノ芸術家>とか<恐怖の大王>とかいう二つ名もあったぞ?」
「まあ、主のやった事がやった事だから何とも言い辛いわねえ。あそこまでやらせた奴等が悪いんだけど、やったのは主だし」
そんな事を話しつつ、ミク達はブラックホークの出張所を出て食堂に行く。ミク達が出て行った後、所長である白髪の爺さんはそっと安堵の息を吐いた。暴れるような人物の可能性もあったからだ。
冷静なようで何よりだが、それがむしろ余計に怖い。そう思う爺さんだった。




