0039・ゼルダの家にて今後の話し合い
4人は王都にあるゼルダの家へと来た。家とは言うものの、小さな屋敷と言えるぐらい大きく、使用人が何人もいるらしい。その家の一室である応接室へと案内された三人は、出てきた紅茶と菓子には手をつけず、話し合いを始めた。
「あの……せっかくメイドが持って来てくれたんだから、手ぐらいつけてくれる? 幾らなんでも可哀想になってくるわよ。手をつけないって、不味いって言ってるようなものよ?」
「そうなの? なら、ちょっとだけね。別に飲んだり食べたりする必要ないし、少し前にオークの集落で沢山たべたからねえ。今は飢えてなくて落ち着いてるから、そんなにかなぁ……」
『主はそこで、オーガの雌と人間種の女も喰らっていたがな。カレンからも被害者が居たら喰っておいてくれと言われていたし、問題無いよな?』
「まあ、ここで言うならね。ウチのメイドや使用人も口が堅いから大丈夫よ。喋ったら死ぬって分かってるし。それより、オークの集落に人間種の女冒険者ねえ……」
『<魔境>の入り口たる<大森林>だからな。自業自得だし、同情も出来ん。仮に同情するならオーガの雌だが、アレも生存競争に負けただけだ。結局、弱かったからという一言で終わる話でしかない』
「そうだな。私も古くから様々なものを見てきた故によく分かる。弱い者は慎重に生きねばならない。弱い癖に調子に乗れば、死んで当たり前なのだ。それ以外には何も無い。無意味に屍を晒すだけだ」
「話は変わるけど、試験が終わるまでウチに泊まるんでしょ? だったらお願いがあるんだけど……良いかしら?」
「また何か採って来いという話か? 面倒なのだがな。お前が言う物は、いつも遠くにあったりする物ばかりで苦労が多い。正直に言ってダンジョンに行った方がまだマシだ」
「まあまあ、そう言わず。それに今回はそこまで遠くないわよ。王都の北にある、商国との壁になっている<ロキド山脈>。そこに行って昇華草を採ってきてほしいのよ。ランク5の毒消しを作らされたからね」
「それってどんな草? 後、そのロキド山脈ってどんな魔物が居るの? それによっては行ってもいい」
ミクが乗り気になったからか、説明していくゼルダ。昇華草というのは赤い草らしく、治癒効果と相性が良いらしい。草食系の魔物すら食べない草らしく、それなりに繁茂しているらしいが、この辺りだとロキド山脈にしか生えていない。
そのロキド山脈へは王都から北に行くのだが、クオノ町、サブ村、トト村、セベオ町まで行く必要があるようだ。その北にロキド山脈がある。魔物は山に出てくる系統の魔物らしい。
所謂ところの鹿系、熊系、狼系などに加えて、蜘蛛系や蜂系、それに蝶や蛾の魔物も出るとの事。虫系魔物の姿に変われると助かるので、ロキド山脈行きを決めるミクだった。ちなみにローネは行かないそうだ。
「えっと、ついて行けって神様に言われたんじゃないの? 別にミクが行ってくれるなら、ローネは残っていてくれても良いんだけど」
「ここに戻ってくると分かっている以上、ついて行く必要性が無い。いちいち面倒な場所まで行きたくないし、私はミクと違って普通に疲れるのだ。疲労が存在しないミクと一緒にしないでくれ」
「ああ、そういう事。それは仕方ないし、誰も文句なんて言えないわよ。そういう意味でもアンノウンなのよねー。本当に正体不明で理解不能だわ。流石としか言い様が無い」
そんな話の最中にメイドが昼食だと言ってきたので、食堂に移動する。三人とも優雅に食事をし、それが終わるとローネはミクとヴァルを案内し始めた。
王都においてミクを連れ回し、クソ貴族を釣る作戦なのだが、それはあっさりと成功してしまう。ミクもローネもあまりにも簡単な事に呆れるのだった。
「ワシが来いと言うておるのだから、さっさと来んか!! このトレモロ子爵の妾にしてやろうというのだぞ!! 感謝して頭を垂れるのが礼儀であろうが!!!」
「何を言ってるの、あの肥え太った不細工は? 私には意味が分からないんだけど……」
「心配するな、私にも分からない。頭のおかしい者は世に居るが、アレはよく見る頭のおかしい奴だ。貴族とかいうゴミどもに多いタイプだな。そもそも町で見かけた冒険者に対して妾にしてやると言うなど、狂っているとしか思えん」
「き、貴様ら!! ……くっ! おのれ、冒険者如きが!! 覚えておれよ!!!」
「いや、何で覚えなきゃいけないのさ、あんな豚? 意味が分からないんだけど。公共の面前で恥を晒す豚なんてどうでもいいし、早く豚小屋に帰りな。怒られるよ」
「「「「「「「「「「ぷっ………」」」」」」」」」」
周囲に居た者達は必死に顔を逸らして笑いを堪えているが、好きなだけ笑えばいいのに……と思うミクであった。
豚呼ばわりされた貴族は、顔を真っ赤にして怒り狂いながら馬車に乗り込み、馬車内で喚き散らしながら去って行く。
ミクとローネは顔を見合わせ、この後どうなるのか楽しみに待つ事にし、町中をウロウロ見回るのだった。
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夕方近くになり、そろそろゼルダの屋敷に戻ろうと思うと、後ろから尾行する者を発見した。正確には怪しい奴等に目を付けていたのだが、尾行だと確定した形だ。
二人は後ろの尾行を連れて宿屋に泊まる事にし、ローネは宿へ案内する。大銅貨5枚を支払い二人部屋を確保した二人は、ヴァルを鳥形態にして外へ放ち、ゼルダに説明を頼んだ。
ミクとローネは食堂に行き、大銅貨4枚を支払って優雅に食事をとる。ローネもかなりの美女な為、周りから相当見られているが、二人とも気にしていない。
夕食後、部屋に戻るとヴァルが出てきた。どうやら一旦大元に帰っていたらしい。ゼルダに説明したらしいが、今日すぐ揉め事に巻き込まれているミクに呆れていたそうだ。
宿に泊まる事も了承していたが、トレモロ子爵というのは最近冒険者ギルドに圧力を掛けているバカらしく、それなりに嫌がらせをしているらしい。ロディアスの顔が疲れていた理由というか元凶らしく、抹殺許可を何故かゼルダが出している。
どうも薬の材料を集める邪魔もしているようで、ゼルダも怒りが溜まっていたようであった。証拠を残さず、確実にこの世から抹殺しろとヴァルに言っているのだから、その怒り具合はよく分かるというものだ。
そんな話をしつつ、寝る準備を終えた二人はベッドに入る。尾行連中は確実にやってくるだろう。そう思える程の悪意を二人に向けていた。そして、その悪意が分からない二人ではない。
寝たフリをしていると、扉の外から閂を開ける音がした。そっと中に入ってきた男達が五人。部屋に入って素早く近寄ってきたが、全員が触手に口を塞がれ吊り上げられた。ローネはすぐに扉を閉めて閂を掛ける。
侵入者を逃げられないようにしたら、ミクは一人の男の頭の上に触手を乗せ、脳を支配してから拘束を解く。そしてローネと二人で尋問を始めた。他の侵入者は男形態のヴァルが見張っている。
「お前達はどこの手の者だ? 王都の裏組織か、それとも地方の裏組織か?」
「我等は商国の諜報員。王国のトレモロ子爵を懐柔したのはいいが、人使いの荒い奴の所為で侵入する事になった。オルドムといいトレモロといい碌な者ではない」
「碌な者でなければ他国になど靡くまい。それより、商国の者が何故王国で暗躍している? ロキド山脈で隔てられている為、王国は魔導国より遠かろう」
「その魔導国を陥とす為に、王国と魔導国で争わせるのだ。我等はその為に、ロキド山脈に秘密ルートを開拓したのだからな。実力があれば秘密裏に王国に侵入出来るうえ、王国側は気付いてもいない」
「ほう……他の者の表情を見ても、どうやら本当の事のようだな。なかなか商国もやるものだ。あのロキド山脈にルートを開拓するとはな」
どうやらローネの聞きたい事は終わったようだ。これからはミクが聞くのだが、気になったのはオルドムのその後である。
まずはそれを聞いていくのだった。




