0387・ガドムラン町に到着
SE04オアシスのデュエイン元所長を乗せて、砂上ヨットは快調に走って行く。ミクの【強風】が常に吹き続ける状況に目が点になっているが、それはミク達以外が乗れば誰でもそうなるだろう。
そんな砂上ヨットを狙って襲ってくる連中はいるが、レイラがジャベリンバズーカで砂上船もろとも叩き潰す姿を見て、呆れた後に大笑いするデュエイン。
「ははははは……いや、すまん。流石に滅茶苦茶だろうと思っていたら、まだ滅茶苦茶があるとは思わなかったよ。ここまで来ると、もう笑うしかないな。君達が凄すぎて、そして我がブラックホークの傭兵で心から良かったと思う。もし君達に敵対する傭兵組織だったら、頭を抱えていたに違いない!」
「まあ、それはそうでしょうねー。お姉様もお兄様も滅茶苦茶である事に変わりありませんし、私達よりも遥かに多いバカげた魔力量をしてらっしゃいますもの。MAS06を個人の魔力だけで動かしたのは伊達ではありません」
「話には聞いていたが、やはりそれも事実か……。そして三人が持っている武器が紫色に輝いているのも情報と一致する。私はとやかく言わないし君達に聞く事も無いけどね、中には聞いてくる者も居るとは思う。注意した方がいい」
「やはり紫魔鉄は目立ちますか。私達の武器は普通の鉄鋼ですので何の問題もありませんが、お三方の得物は悪い意味でも目立ち過ぎますからね。お三方は十分に戦えるのですから、普段は鉄鋼製の武器にしておいたら宜しいのでは?」
「やっぱりそうかしら? 一応主からは色々な鉄鋼製の武器を貰ってるんだけど……普段使いするなら、やっぱりメイスが一番使い勝手が良いのよね。それとナイフか短剣。殺傷武器でないなら棒でも良いんだけど、閉所では振り回し辛いのよ」
『ならば杖にしてもらえば良いのではないか? それか主のように鉈を使うかだ。ああ、剣鉈という手もあるな。あれもそこまで長い剣ではないから振り回しやすいだろう。俺は気にせずに振り回すがな』
「ヴァルはそういう役目じゃないの。前で盾を持って防ぐか、それとも長柄の武器で叩き切る。閉所なら素手で投げるか関節、後は暗器で急所攻撃。ま、私達も戦い方自体は然程変わらないけれども」
「聞いているだけだと、大昔に居たという暗殺者か騎士のような戦い方だな。魔法銃全盛の時代に正気か? とも思うが、君達を見ていると有効なのが良く分かる。結局、戦いとは呑まれた方が負けるのだろう」
『古今東西において変わらん事だ。戦いとて殺し合いとて、人間種がする事である以上はな。恐怖に呑まれれば負ける、雰囲気に呑まれ冷静さを欠けば負ける。そして負けるとは即ち死ぬ事だ。それも古くから変わらん』
「だからこそ突っ込んで太刀を振るうと、途端に相手の傭兵は焦り出すんですよね。白刃の前に身を晒した事など無いからか、目の前に死が迫ると簡単にパニックを起こすので、後は斬り裂くだけの簡単なお仕事です。そうなるまでには苦労しましたけど」
「まあ、私達も只管に切られましたからね。剣を前にして動けるようになれ、魔法銃を撃たれていても動けるようになれ。どれだけ傷を負って治療されたか分からないぐらいです。そのうえでの強さなので何とも言えません」
「………まあ、いきなりやれと言って、出来る事ではなかろうな。それにしても、あそこの権力者はこれからどうなるのやら? クーロンと結びついていたまでは良かった。しかし、その後にやった事が悪過ぎる。そのうえ壊滅だからな」
「クーロンと共に槍玉に挙げられる? もしくは反乱でも起こるのかしら?」
「そこまではいかんだろう。結局、力で鎮圧する筈だ。しかし傭兵の家族も住んでいるし、その者達の怨みは買うだろうな。例えやったのが君達でも、君達以外にも怨む先は当然出来る。人は怨まずには生きられんものだ」
「それが権力者とクーロンか……。そもそも私達を怨むのは完全に筋違いなのよね。私達は襲ってきたから反撃で殺した。毒を入れられ暗殺紛いの事をされたから殺した。その命令を下したやつに抗議しに行ったら、魔法銃を向けられて争いになった」
『デスピエロだけではない、他の傭兵組織も全て同じだ。俺達は先に手を出していない、そんな言質を与えるほど甘くは無いんでな。だからこそ相手の行動を待ってから殺戮している。やり過ぎだとかは知らん、最初からやるなという話だ』
「普通の傭兵ならば、これ以上はダメだというラインは理解しているのだがな。あそこの連中は我々ブラックホークを見下していた。だからこそ、そのラインを簡単に超えてしまったのだろう。結果は既に出ているが、ある意味で当然の結果が出ただけだ」
「当然の結果ですか?」
「もし君達が毒で殺されたとしたら、我がブラックホークは総力を挙げてSE04オアシスに報復している。それをせねば他の傭兵達まで舐められてしまうのでな。だからこそ、君達が居なくとも同じ結果にはなっていただろう。とはいえ、生皮と奇妙なオブジェは無かっただろうが」
「ま、あれはね~。私もやった後、やり過ぎて面倒事に巻き込まれそうだと気付いてさ、ちょっとだけ後悔したよ」
「「「「「「………」」」」」」
やはりミクの感覚はヴァルともレイラとも違うらしい。オリジナルたる肉塊は、創られた存在である使い魔とも違うというのが良く分かるコメントである。そんなガックリするというか呆れた雰囲気になりながらも、一行は砂漠を進んで行く。
今回は結構な高速で進んでおり、帆と支柱がギシギシと軋んでいるが、それも無視してミクは進ませていく。頑張れば一日でガドムラン町まで戻れるからであり、その為に砂上ヨットの上で軽食まで食べている。流石にそろそろヨットは限界だろうか?。
そう思いながらも進んでいき、ガドムラン町に着いた時には壊れる寸前だった。支柱が折れ曲がりそうになっており、一目で使えない事が分かる。最早これはダメだと思ったミクは、ガドムラン町の停泊所に泊まり皆が降りた後で破壊し始めた。
パーツに分けて破壊し、後はアイテムバッグに仕舞って終わりである。ヨット型の砂上船は人気が無くて売れないから壊して収納したと言っておき、デュエインと共にガドムラン町のブラックホークの事務所へ行く。
ここには三人娘の手続きをしにきた時以来であるが、すでに夕暮れ近くなので挨拶だけして宿に行く。そう思ったのだが、何故か所長室に案内され根掘り葉掘り聞かれる羽目に。ここの所長は老人だったが、眼光がやたらに鋭い爺だった。
その爺にあまりにも聞かれるので、何故そこまでしつこいのかと思ったら、ブラックホークの掲示板で物凄く話題になっているらしい。なので、そこに情報を流して周知徹底した方が早いらしく、それで根掘り葉掘り聞かれているようだ。
ミク達もブラックホークの専用掲示板のアドレスとパスを聞き登録しておいたので、後で見に行ってみようと思うのだった。全ての情報を喋るのに時間が掛かった所為で、食堂からデリバリーしてもらった食事を食べ、今日は事務所内に泊まる事になった。
デュエインも事務所の仕事を手伝わされる事になり、今日は事務所に泊まるらしい。ミク達も職員用の仮眠室を借りて分体を停止しようと思ったのだが、脱ぎだしたバカ三人の相手をせねばならなくなり、久しぶりに媚薬を飲ませて気絶させてやった。
昨夜は散々本体の触手で嬲られて、気が狂うほど悦んでいた癖にこれだ。この三人の性欲は止まる事を知らないのだろうか? 売春惑星の職員は性欲が減退していたのだが三人にそれは無し。不思議なものである。




