0384・肉塊というモノの価値観
食堂の厨房で怪しげな液体を鍋に入れる男と止めない料理人、そして男の仲間と思われる者達が居た。ミクが非常に素早く入り込んだ為、止める事が出来なかった従業員。男達はミクを見てビックリした後、勝手に入ってきたとして突っ掛かってきた。
「おい、テメェ! ここは厨房だぞ! 勝手に客がはっ!?」
男はミクを追い出そうとしたが、ミクの右手にはナイフが握られており、男は心臓を貫かれた。明らかに致命傷だが、ミクは男の首から虹色のドッグタグを左手で取って目線にまで上げる。
「このドッグタグを見れば分かる通り、コイツは傭兵。そしてコイツを殺したとて傭兵同士の揉め事でしかない。さて、そこで妙な物を入れているお前、お前も同じドッグタグを持っている。つまりお前も傭兵だな?」
そのミクの言葉を聞くなり、慌てて逃げようとする傭兵ども。ミクは素早く刺し殺していき、厨房の外に通じる扉の先で妙な物を入れていたヤツを確保した。ソイツを食堂の表まで持っていき、足の指先を切りつつ拷問を始める。
傷口を抉って切り裂く度に絶叫が上がるが、ミクは無視して質問をしていく。何故食事に毒を混ぜようとしたのか、誰の命令か、そういった事を一つずつ聞きながら周囲を探る。コイツを助けに来ようとする奴が居るかどうかを。
抉られつつも喋らないため、今回もヤスリがけを始めるミク。傭兵の絶叫が響き渡るが知った事ではない。足の指が根元まで削られてから、改めてミクは話を聞いていく。秩序が半分崩壊しているというのは、色んな面でありがたい限りである。
「デスピエロの所長から頼まれたんだよ!! あんたらをこのオアシスから叩き出すか殺せって!! そうすれば100万セムだって言うから、だからオレ達は毒を混ぜて殺そうとしたんだ!! これで全部なんだから許してくれ!!!」
「許す? 最初から許す気なんて無いよ? まさか私達の命を狙っておいて、喋れば許されると思ってたなんてねー。………バカじゃないの?」
ミクはそう言って鉈で首を切断。ビックリした顔のまま男の首は通りに飛んでいった。ミクはそれを無視し、男の生皮を剥ぐと店先に吊るしてやった。残った肉と内蔵は適当にバラし、通りに放り捨てていく。ミク達の命を狙った者の末路として。
ここまでやらないと躊躇わない傭兵がバカなだけである。そもそもミクに人間種の倫理観など存在しない。それっぽく振舞っているだけで、その本質は肉塊であり<喰らう者>である。
見せしめとして肉や内臓を通りに放り捨てたが、ミクの本心は「勿体ない」なのだ。人間種のように振る舞わねばならないので残虐な事をしているが、本当ならミクにとっては”食べ物”であり、普段なら絶対に粗末には扱わない。根本的に人間種の感性とは違う。
それを知らない奴等がバケモノに手を出した、そのうえでの末路である。当たり前と言えば当たり前の結果でしかなく、ある意味では至極当然といえる状況になっただけだ。知らないとは、そして無知とは怖ろしいものである。
ミクは暖簾のように吊り下げられた生皮を潜りながら、店へと入りヴァルたちに声をかける。ヴァル達は席を立ち、ミクに合流すると外へ「「「キャーーー!!」」」出て行く。どうやら三人娘がビックリしたらしい。
「何ですかアレ!? いや、言わなくてもいいです! 聞かなくても分かりますから!! ではなくて、何であんな”モノ”が吊り下げられてるんですか!? 奇妙なオブジェじゃないんですよ!!!」
「そんなこと言ったってさー。あいつら私達の料理に毒を入れようとしたしー、ついでにここの料理人はそれを黙って見てるだけだったしー!! 毒の入ってる料理なんて食べられないよねー!!!」
あからさまに大きな声で語っているミク。その声は店内にも聞こえていたのだろう、慌てて出てきた従業員が「ギャーーー!!!」という声を上げた。三人娘の、しかもルーナでさえ「キャー」だったのに、何故女性従業員が「ギャー」なのか。
それはともかくとして、出てきた女性従業員に対してミクが喋りかける。凄く優しく語りかけているが、場合によっては死刑宣告にしか聞こえない。
「私達の料理に毒を入れている奴等が居て、それを黙って見てたんだよ? お宅の料理人は。だから言っておいてくれる? 今度舐めた真似したら、お前らも吊るすぞ。……ってさ?」
「………」
女性従業員は必死に「コクコク」と頷くだけで、言葉を一切話さない。まあ、男の生皮が店先に吊るされているのだ、末路は見れば分かる。あんな風になりたい者など誰もいない。だからこそ、見せしめには丁度良いとミクは思ったのだ。
ミクは周囲で恐怖しているオアシスの住人にデスピエロの出張所を聞くと、近くにある事が分かった。なかなか立派で広い建物らしく、ミク達はそこに向かいつつ軽食を出して食べる。本体が作って保管しておいたものである。
腐るといけないので、時間が経ち過ぎた場合はミク達の誰かが食べている。たまにルーナ達も食べているが、太るのでそこまでは食べない。そんな軽食を食べつつ、ミクはデスピエロの出張所に入り開口一番こう言った。
「私はブラックホークの傭兵だけど、ここの所長はどこに居る? ……二階? それとも逃げた?」
いきなり来て軽食を片手に所長の居場所を聞く意味不明な美女。彼ら彼女らのミクに対する第一印象はそれだろう。再起動した周りの連中は、ヘラヘラしたヤツと、ジッとミクを見極めようとしているヤツに分かれた。9:1でヘラヘラしているヤツの方が多い。
そしてヘラヘラしているヤツの一人が、ミクに話し掛けてきた。……魔法銃を向けながら。こいつは死にたいのだろうか?。
「お前さん多分だが、殺せば100万セムの女だろ? 美女だから惜しいが金のほうっ!?」
男は喋りきる事も出来ずに首を切られ、胴を前蹴りで蹴り飛ばされた。魔法銃を向けていれば勝てるとでも思ったのだろうか? そのバケモノは視認できない速度で首を刈る怪物なのだが……。
「とりあえず、ここの奴等は皆殺しにして探そう。話を聞く気も無い奴は死ね」
そう言って戦闘を開始するミク達。いきなりではあったものの三人娘も調教されているので、戦闘となれば意識は切り替わるのだ。ルーナだけが若干浮つく事もあるのだが、ヘルとセイランはメイドになるまでに英才教育を受けている為、戦いの心構えは出来ている。
中に居たデスピエロの面々を皆殺しにし、受付嬢に話しかけるミク。ニコニコしているので逆に不気味なのだろう、受付嬢は震えて………既に漏らした後だったらしく、これ以上は出ないようだ。
「もう一度だけ聞いてあげる。ここの所長は何処に居る? 早く答えてくれるかな?」
「に、二階に居られます!! 二階に居られますから、殺さないで下さい!!」
「最初から答えていれば、こんな事にはなっていないのにねえ。マヌケでは生き残れないって知らないのかな? 命を狙われたヤツが敵を許すなんて事があると思う? 無いよね?」
そう言ってミクは受付嬢の首を切り落とした。徹頭徹尾、一切の容赦をする気が無いらしい。店先に吊るした奴を始め、とことんまでに見せしめにするつもりのようだ。
これからSE04オアシスの傭兵組織は知るだろう。いったい誰に喧嘩を売ったのかという事を、そして誰の命を狙ったのかという事を。見せしめが行われなければ理解できないのであれば、行われるだけである。
一国の軍を相手にしても勝利できる怪物が、命を狙われて無様に逃げるなどという事は無いのだ。そんな事は絶対にあり得ない。例え知らずとも、彼らは虎の尾を踏んだのだ。
ならば後は蹂躙されるだけである。




