0038・ギルドの試験について
「とりあえずミクと呼ばせてもらうけど、試験は今すぐには出来ない。ランク10に上がる試験は三つあって、一つ目は実力試験。これは試験担当と戦って結果を出す事。勝つかどうかじゃなく、どういう結果を選ぶかという試験」
「二つ目は乱戦試験。適当に盗賊の所や魔物の集落に試験の連中を行かせて、どのように戦うかを見るの。そして三つ目が生存試験。これは指定された場所まで行き、帰ってくる試験よ。全て一人でやる必要があるの、つまりはソロね」
「この三つの試験中は、同じパーティーでも助け合うと即失格になるんだ。言葉は悪いけど、最悪の状況では仲間を見捨てる必要性も出てくる。それが出来ないなら、ランク10以上には上がれないんだ。キミには関係無いけどね」
「ちなみに使い魔はアリだから覚えておいてね。無しだったら私合格してないし。まあ、魔女の中で冒険者ギルドに所属してるなんて、私以外に数人しかいないけど……」
「それは仕方ないよ。魔女はごうよ……ゴホンッ! 個性的な人達が多いからね、仕方ないんだと思う」
「………私の事じゃないけど、私までそう思われるのがムカツクのよねぇ。諸先輩方が碌な事をしてこなかったから、印象が悪過ぎるのよ。正直、私からすれば心外でしかない」
「まあまあ。仮に明日から実力試験をするにしても、乱戦試験と生存試験には時間がかかる。それなりに長い期間、王都に拘束する事になるけど良いかい?」
「まあ、私の家に泊めてあげるわ。変な所に泊まった所為で、妙な事が起きても困るし。何より、悪党を喰らうなら夜中にしてほしいわね。私が幾つかリストアップしておくわ」
「いやいや。裏組織の奴等は高い技術を持つ奴等が居るから、奴等に手を出させるならまだしも、こっちから手を出すのはマズイ。【スキル】が万能じゃないのは知ってるだろうに」
「知ってるわよ。目の前の<美の化身>はアンノウンだってね。ミクの事だから、【スキル】に頼らない侵入方法ぐらい持ってるでしょ?」
「分体を変えればいい。この女の姿じゃなくて、虫の姿とかにすればいいだけ。そうすれば隙間からでも侵入できる。後はターゲットに近付いて喰い荒らせば終わる」
「「………」」
今さらながらに本当の怪物とは何なのかを理解した二人。唯の虫だと思ったら生命を喰い荒らす怪物だったなど、いった何処のホラー映画だと言いたくなる。
あまりにも怖ろしすぎる想像をしたのか、顔が真っ青になっているロディアスとゼルダ。
「本当に良かったよ、ゼルダに止めてもらえて。ここまでの怪物だとは思ってもいなかった。自分の想定があまりにも甘かったのを痛感してるよ」
「私、それほどの怪物に何回も抱かれて女にされたんだけど? 別に嫌な訳じゃないの。でも、何というか……こう………」
『嫌だったという事じゃないのか?』
「!!! ………その声は反則だから、本当に止めて! 耐えられないの///」
何故か<黄昏>ことカレンと同じ事を言っているゼルダ。そういう意味でも似たもの同士だと思える二人である。
「そういえば使い魔が男性の姿なのは良いんだけど、自在に姿を変えられるっていうのは厄介だねえ。流石にアンノウンだとバレるのはマズいよ。バカな貴族が討伐隊とか組みかねない」
「正直に言えば、アレらが幾ら死のうがどうでもいいんだけどね。ミクが大暴れした結果、国が傾くならまだ優しい方で、最悪は内戦になる恐れがあるわ。というか其処まで想定しなければいけないのよ、本来は」
「クズどもが出てきても無視するのが一番だよ。後はこっちで何とかするから無視してほしいんだけど……、駄目かな?」
「………最後には食べる許可を出すなら無視する。つまり、そっちが手を打っても向かってくる奴は許可を出す。私に無限に我慢しろとは言わない。それなら良い」
「それは当然だよ。こっちが止めとけって言ってるのに止めない奴は、死んでも仕方がないような奴さ。こちらがOKを出したら、君に食べてもらいたいぐらいだよ。証拠を残していないなら何とでも言えるしね」
「ああ、それはそうね。ミクの場合は肉に収納したり、溶かしながら食べられるらしいから、音が殆どしないそうよ?」
「新たに聞いちゃいけない情報が一つ増えただけの気がする……。まあ、そんな訳で………って、どうぞー」
丁度ロディアスが話を締めようとした矢先に、誰かがドアをノックした。言葉は一切話されないものの、二人は全く警戒をしていない。普通ならばありえない事だが、彼らはこの独特なノックの仕方を知っていた。
皆は見ていなかったが、実はコソっとヴァルが狐形態に戻っている。理解しているのは繋がっているミクだけだ。
「久しぶりだね、ローネ。君が出て行ったからパーティーは解散になったんだけど、いったい何処に行ってたんだい?」
「…………。ここ最近は<神聖国>の奴隷にされていた、異なる星の若者を殺しに行ってた。5人以外も殺したけど、相変わらずあの国にはゴミしかいない。帰ってくる途中で闇の神から神託を受けて、肉塊について行く事になった。宜しく、ミクとヴァル」
「宜しく? 闇の神って何度か会った事がある気がするけど、どんなのだっけ? ……あー。影が薄いというか、認識し辛い神だ」
「その言い方だと、もしかしてローネって<神の使徒>なの? ミクだけじゃなかったのね、知らなかったわ……」
「私は半神族の一つである、闇半神族。他にも光半神族や創半神族などが居る。創半神族は山髭族の祖先」
「………意外に<神の使徒>って居たのね。まあ、ローネ以外はミクしか知らないけど」
「彼女と便宜上呼ぶけれど、彼女は違う。彼女は<神々の使徒>であり、私は<神の使徒>でしかない。そして、彼女は私達と違い不滅の存在。私達は死ぬ可能性自体は存在するけど、彼女にはそれが無い。完全なる不滅」
「「………」」
ロディアスとゼルダは、まだ自分達の見積もりが甘かったと嘆くのだった。正真正銘の怪物とは、ここまで理解不能の存在なのだ。それを地上の人間種程度が理解しようとする事自体、傲慢なのかもしれない。
「私の正式な名は、ローネレリア・エッサドシア・クムリスティアル・デック・アールヴ。とはいえ、長いし面倒臭いからローネでいい。もう1000年以上はローネとしか名乗っていない」
「貴女1000年以上も生きてたのね。私も寿命が無いし、もしかしたら1000年以上を生きるのかしら? 何か寿命について曖昧な気持ちなのよね……」
「永く生きる者ほど今日だけを生きるようになる。なぜなら終わりが無いから。だから一日一日があっと言う間に過ぎる。それがないなら、まだまだ大丈夫だ」
「そうなのね……っと、とりあえず私の家に来て頂戴。それとロディアス、薬の調合は終わってるから。今後は大事に使いなさいよ。ランク5の毒消しって貴重なのよ?」
「ゴメン、ゴメン。クリムゾンスネークに咬まれた馬鹿が居てね。その所為で使わざるを得なかったんだよ。ソイツは借金を背負わせたから大丈夫。まだ若手だし、馬車馬のように働いてくれるさ」
「クリムゾンスネークって、バッカじゃないの? あんな動くだけで大きな音がする蛇に咬まれるとか、神経があるのか疑うわね」
そんな話の後、部屋を出て行くゼルダとミクとヴァルとローネ。その四人を見送った後、安堵の溜息を吐くロディアス。
今日はあまりにも濃い事が起こり過ぎた。ここ最近の忙しさの中でも最大級の出来事だ。ただ、忙しさの原因であるクソ貴族が消える可能性があると思うと、実に晴れやかな気分になる。
今日は早めに仕事を切り上げて、最愛の妻と夕食を共にし、ベッドで愛し合おう。そう思って仕事に精を出すのだった。
尚、王都のギルドマスターの愛妻家ぶりは、彼の二つ名よりも有名だったりする。……三人の子供の事も思い出そう?。




