0382・SE03オアシスと<夜の砂影>
ミクの着替えも終わり、再びSE04オアシス目指して出発する。移動途中にレイラが砂上ヨットの帆に使えないかと提案してきたが、優秀な素材だから帆に使うのは勿体ないという事と、支柱が耐えられない事を説明するミク。
支柱の事を考えていなかったレイラはガッカリしたが、ミクに慰められてすぐに元気になっていた。それを生温かい目で見る三人娘。そんな一行が魔物を倒しつつ進んでいると、ある程度進んだ辺りからポツポツと砂賊が現れるようになった。
レイラも三人娘も、砂賊を油断させる為に魔法銃しか使っていない。一応【魔力盾】は使っているが、遠目にはシールドの魔道具で張っているのかは分からないだろう。逃げようともしていない。
普通の砂賊は、相手が魔法の使えるエリートだと分かるとすぐに逃げていくそうだ。それが無いのは魔法銃での誤魔化しと、適度にしか【魔力盾】を使っていないからだと思われる。
ミク達にとっては、砂賊が逃げないならば何でもいいといったところであろう。そうやって砂賊を倒しては身包み剥いで死体を捨て、壊れていないボートであれば誰かが乗り込み、壊れたボートはアイテムバッグに回収する。
素材でも回収すれば多少の金額で売れるし、何といっても砂漠にゴミを残すのは宜しくない。なので回収出来るものは全て回収し、砂漠の魔物の餌になるものは置いていく。そんな事をしているとSE01オアシスについた。
まだ早く昼にもなっていないので、砂賊から剥ぎ取ったものと砂上ボートと素材を売り払い山分けする。それが終わったら次のオアシスへ。そうやって進んでいき、SE03オアシスで夕方になった。
オアシスに入り停泊所に砂上ヨットを泊め、まずは宿へと移動する。一日だけ大部屋をとり、8000セムを支払ったら酒場へ。食事や酒を注文して席に座ると、際どい衣装の男女がステージで踊っていた。
男性はナイフジャグリングをしたり、踊っている女性を持ち上げたりしている。ジャグリングの男性は優男でイケメン、女性を持ち上げているのは筋骨隆々の男性だった。なかなかに人気のショーなのか、お客の大半が見ている。
どちらの男性も上半身裸で、ジャグリングの人物は短パンに複数の鞘が付いている衣装。持ち上げている男性はブーメランパンツのみだった。ダンスが終わると、それぞれの踊り子や男性が下りてきて客の元を練り歩いている。
短パンのポケットや踊り子の衣装の隙間にお金を差し入れているようだ。踊り子の衣装も男性の衣装も、お金というかお札塗れになっている。
「ああやってお金を衣装に挟む際には、踊り子さんに触れても仕方がないんでしょうね。女性傭兵も嬉々としてブーメランパンツの男性に差し入れに行ってますし、何だったら触ってますよね、アレ? 股間が膨らんでるのが、お札の所為なのか触られた所為なのか……。いったいどっちなんでしょう?」
「どっちでもいいでしょう、そんな事。こちらにきたら適当に渡せばいいのでは? 一番後ろにいる目立たない人が、お金を受け取っているみたいだし、その人に渡している客もいますよ」
「ですね。何となくですけど、こういう踊り子ってカラダを売る場合もあるので、そういう意味でお金を差し入れているんじゃないでしょうか? そういう事をしない人は後ろの方に渡すんでしょうね」
「成る程ね。だったら後ろの人に渡しておこう。いちいち面倒臭いし、そんな気なんてないし」
『まあ、そうだな。俺が纏めて渡しておこう。その方が良いだろう。三人がどうするのかは知らんが』
「私達の分もお願いします。踊り子がお姉様なら全額挟むんですけど、お姉様やお兄様以外はちょっと……。魅力をあまり感じませんし、上手くはないでしょうからね。そもそもお姉様方は薬を使わなくても反則ですし」
「最近は使われる事もありませんけど、それでも……ねえ? 比べれば天と地ほど差があるんですから、比べる事すら無駄なんですよ。あまりにも違い過ぎて、他の全ての者が御三方より下手なのは当然ですし」
「好きなだけ自在に変えられる方は居ませんしね。比べるにも基準が違い過ぎますよ。片や普通、片や自在に変更可能。その時点で反則過ぎますし、勝負になりません」
目の前を踊り子や男性達が通り過ぎたので、後ろについているマネージャーみたいな人が持っている箱にヴァルがお金を入れる。後ろについているマネージャーみたいな人は会釈しつつ通り過ぎていった。
ああいう仕事も大変だと思いつつ、ミク達は食事を終えて宿へと戻る。三人娘だけが飲んでいたが、飲み過ぎないようにしていたのか早速脱ぎ始める。「三人とも相変わらず好きだなー」と思いつつ、さっさと気絶させて寝かせるミク。
先ほどの踊り子達が気になっていたので、ヘルを寝かせたミクはムカデの姿になって窓から出た。今日は珍しくミクがヘルの相手をし、ヴァルはルーナの相手をしている。先ほど見たら、ヴァルに思いっきり啼かされていたので、今日はルーナシェーラの気分なのだろう。
宿の部屋を出たミクは踊り子達の反応を見つけ、小さな家の外まできた。窓は閉められており、中に入れる場所は無い。已む無く小さく穴を空け、そこから侵入していくムカデ。中に入って移動すると、すぐに話し声が聞こえてきた。
「あの六人組、クーロンの連中が目の敵にしている奴等で間違い無い。クーロンに知らせるか、それともオレ達で殺して手土産にする、または誘って睡眠薬かだ。オレとしては知らせるだけで良いと思う。関わり合いになっても碌な事はないだろうしな」
「オレ達<夜の砂影>は大きな組織でもないしな。中堅だし、仕事もこっちが本業に近い。まあ、元々はオアシスを守る賊が始まりの組織だ。他の連中と違ってオアシスを守る暴力がオレ達だからなぁ」
「そうですね。我々が暴力で守ってきたのがSE03オアシスです。これからもそれは変わりませんし、我々は砂賊を狩る砂賊ですからね。本来なら知らせる必要も無いのですが……」
「相手はクーロンだもんね。報せもしなかったら、間違いなくこっちを襲ってくるよ。あいつら碌な連中じゃないし。あっ!? そろそろお客さんの所に行かないと。私は決まったなら何でもいいから! じゃ、後は宜しく!!」
「ごめん! 私達もお客さんの所に行くね。私達も決まったら何でもいいから、おねがいしまーす!」
「私も同じ! ごめんだけど、後お願いね!」
口々にそう言って女性達は建物を出て行く。残ったのはマネージャーの男と筋骨隆々の男性、そしてジャグリングをしていた優男だ。こいつらは何処かに行ったりしないのだろうか?。
「お前達は今日はいいのか? 女性達は仕事に行ったが……」
「オレ達は今日じゃない、明日の朝だ。いつもの女性達だよ。何でか複数人数を好むんだよなー。それはともかく、どうする? クーロンに目を付けられない為には報せた方がいいが……」
「我々は顔を知らなかったで流せるとは思いますけどね。正直に言って、クーロンが目の敵にしている割には生きてるんですよ。それもコソコソとではなく、堂々と生きてるんです。そこがちょっと引っ掛かるところで……」
「もしかしてクーロンより上って事か? ……そんな事があるのか?」
「ブラックホークの知り合いに聞きましたけど、あの六人は全員がエリートなんだそうです。それも自力で【魔力盾】を使いながら、剣などで切り込むそうで……拷問も八つ裂きもするし、クーロンよりヤバい連中だと言ってました。……特にあの妙な服の美女が断トツでヤバイと」
「「………」」
モブみたいな顔のマネージャーと、筋骨隆々のマッチョは顔が引き攣っている。……が、ジャグリングをしていた優男は険しい顔をしたままだ。




