0376・NW03オアシスへと帰還
夜も巨大船を走らせていたが、追いかけてくる敵は居なかった。どうやら砂賊といっても勾配のある砂の海を夜に移動するという事はないらしい。まあ、砂上船は結構な速さで移動するので、場合によっては丘を超えて飛び上がってしまう。
上手く着地できればいいが、失敗すれば一度で砂上船が壊れてしまうだろう。そうなれば砂漠の魔物に襲われ殺されるのは考えなくても分かる。
かつての金属の星のように天然の魔物がほぼ駆逐されているような星ならいいが、この星では砂漠の砂の中に隠れているので駆逐するのは不可能だ。なので砂漠を歩くのは死を意味する。まあ、ミク達にとっては何の問題もない事なのだが……。
そんな事を考えていると、夜が明けてきた。日の光を浴びつつも監視をしていると、水平線の向こうにNW03オアシスが見えてくる。夜中も走らせただけあって、どうやら戻ってこれたようだ。少しホッとしたものの、気を引き締める。
NW03オアシスにもクーロンの手の者が居る可能性があるし、そいつらから襲撃される可能性も否定は出来ない。最悪はゴーレムコアだけ売って、船はバラして売り払おう。そう思いつつヴァルとレイラに伝え、そろそろ船を止めさせる。
レイラにはそのまま魔力を供給してもらうが、ヴァルには船を止めた後でヘルとセイランを甲板に連れて来てもらう。二人が来るまでにルーナを起こし、朝食を用意して待つ。
少し待っていると来たので、三人に朝食を食べさせつつ話し合いをする。といっても、三人娘とヴァルに町に行ってもらい事情を説明させるくらいだが。
「それは構いませんし、お兄様が居てくれればNW09オアシスの時のように良からぬ事をされても大丈夫でしょう。……いえ、私達も気を付けますけど、それでもお姉様方のようには無理ですよ」
「そうですね。私達としても日々努力はしますが、それでも何かをされてからしか分からないという事もあります。それに、何も効かないミクさん達と比べれば……ねえ?」
「まあ……何も効かないって、そもそも反則ですしね。何かをされたとしても、後で幾らでも引っ繰り返せるというのはズルいとは思います。とはいえ、だからこそ絶対に助けてもらえるとも思いますけど」
「そういう考え方もできるけど、同じ事をするのは無理だからね。私達も何かしらの対策は考えないと……。あ、ルーナは関係ないから」
「何でですか! 復活はしますけど、凄く痛い事に変わりはないんですよ!? 一度死んでみれば分かります!!」
「「謹んで御遠慮いたします」」
下らない話をしつつの食事を終えた三人娘は、ヴァルと共にNW03オアシスへと移動していった。今いる場所はNW03オアシスの北側で、目の前にはブラックホークの大型砂上船が見えている。というか見下ろしている。
そんな場所で周囲を警戒しながら待っていると、三人娘やヴァルと共に所長と船長がやってきた。そしてヴァルと三人娘が案内し、甲板まで上がってきて周囲を見回す所長と船長。目がキラキラしているが、子供かと思いつつ話し始める。
「NW08オアシスに行ってくれって話だったんだけど、NW06オアシスの<黄金の仮面>を拷問したらさ、<大鴉>のアジトがNW09方面にあるってゲロったの」
「ふーん……NW09方面ねえ? そっちから何かあった? 救援要請とかあった記憶が無いんだけど、アンタはある?」
「私も無いな……。NW09オアシスの者からも、そんな報告は上がってきていない筈だ。今の所長に代わったのは一年ほど前だったかな?」
「なら、その時だね。その時にNW09オアシスの者は丸ごとクーロンの連中に入れ替わってる。NW09オアシスは、クーロンの連中のアジトというか支配地になっていたよ」
「なにっ!?」 「なんだって!?」
『驚くのも分かるが事実だ。クーロンの連中のアジトのようになっており、NW09オアシスの者達は全員がクーロンの構成員だった。その証拠に子供が一切いなかったからな。おそらくは足手纏いだからだろうが……』
「何という事だ……! もしかして、我がブラックホークの情報も筒抜けだった訳か!? おのれ! クーロンの連中め!!!」
「何て事だい……。それって普通に暮らしてた子供達まで殺されちまったって事だろ? クソッタレの奴等め! 許しがたい蛮族だよ、クーロンの連中は!!」
「どうどう、抑えて下さい。お腹の赤ちゃんに良くありませんから。それよりも、この船を売るかどうにかしたいんですが……何とかなりますか?」
「この船をか? ………これだけ大きいと狙われるだろうし、これだけ大きいと速度も遅いだろう。何故<大鴉>の連中がこんなのを持っていたのか分からないが、難しいとしか言えないな」
「これは<大鴉>の連中がクーロンから奪った船だったよ。というより、<大鴉>はクーロンの下部組織であるワンタオが作った組織だった。連中はクーロンから隠して作ったつもりだったけど、クーロンの連中は知っていて知らないフリをしてたみたい」
「何だってそんな面倒臭い事をクーロンの連中はやったんだい?」
「さあ? <大鴉>、つまりワンタオの連中が奪ったにも関わらず、クーロンの連中は取り戻そうとしてなかったみたいだからね。私達にも分からないよ。その辺の話は聞き出してないし」
「まあ、分からないならしょうがないか。……で、<大鴉>の連中はどうなったんだい? 連中をどうにかしに行ったんだろう?」
「最初は<大鴉>がNW09オアシスを支配しているんだと思ってたんだけど、さっきも言った通り、本質はクーロンの支配下にあったの。で、それを知らずにNW09オアシスの<大鴉>を潰した後、そこの出張所の所長に言われて、西にあるっていうアジトに行ったんだよ。まさかアジトが巨大船だとは思わなかったけどね」
「成る程な。この船が<大鴉>のアジトだった訳か。どうりで連中の出没場所が一定しない筈だ。コイツでウロウロしながら砂上船荒らしをやられたんじゃ、こっちはどうにもならない。おまけに情報も奪われているとは……」
「相手の方が一枚も二枚も上手だったと思うしかないね。ただ、これが一ヶ所だけとは思いにくい。もしかしたら他にもクーロンに乗っ取られているオアシスがあるかもしれないから、徹底的に洗った方がいいね」
「うむ。この船についてなんだがな……すまないが、ウチでは無理だ。砂上船の商会でも、多分買い取ってはくれないと思う。バラす事前提で、素材の値段でなら買い取ってくれるだろう。ゴーレムコアも難しいかもしれん」
「持ってたらクーロンの連中に狙われ続けるからねえ。何処の商会も持ちたがらないだろうさ。こればっかりはしょうがないよ、流石に命あっての商売だ。命を無くす商売なんて誰も手は出さない」
「仕方ないね。素材と魔道具の値段で売っ払って、さっさと移動しようか。この大きさだし、それなりには儲かるでしょ。後、ゴーレムコアは私が貰っていこうっと。何かに使えるかもしれないし」
そう言って、ミクは本体空間を通し、レイラを魔力源にして巨大船を移動させる。三人娘とヴァルを行かせ、砂上船の商売人に船体と魔道具や砲塔を素材代と原価で売り払い、砂上船置き場に移動させる。
それが終わると底部デッキから砂上ヨットを外に出し、泊めると町中に出かける。食料などを多めに買い込み、調味料や香辛料を買い込んだらブラックホークの出張所へ。手続きをしてもらうとルーナ達はランク5へ、ミク達はランク8へと上がった。
随分一気にランクが上がったが、特に問題のある事でもないので何も言わずに出張所を出た。次はSE04オアシスだ。そちらも砂賊が暴れている。
今度は儲かるといいなと思いつつ、NW09オアシスで強奪したから十分に儲かっているミク。砂賊より盗賊をやっている自覚は無い。
ちなみにだが、NW09オアシスで得たお金も、巨大船を売って得たお金も山分けしているので、三人娘も同じ穴の狢である。




