0373・NW09オアシスのクーロン壊滅
ミクは部屋の中の者を貪りつつ本体空間を通して二人に連絡を入れる。どちらかに来てもらう必要があると判断しての事なのだが、ここ最近レイラに任せる事が多いので、今回はヴァルに任せレイラには留守番を頼む。
ヴァルが来るまでにもムカデになり、酒場の内部に麻痺毒をドンドンと散布していく。中の人間種が全て麻痺したら素早く喰らっていき、終わったら別の場所に居る人間種の下へと移動する。
すると近くまで来たらしくヴァルから連絡があった。ミクはこのオアシスに居る全てがクーロンの構成員なので全員喰らうように指示する。それと金目の物や良さ気な物があれば、全て肉を通して本体へ送る事も合わせて。
やろうとしている事はまるで盗賊だが、こいつらも盗賊なので何の問題も無い。そもそもNW09オアシスを乗っ取った連中なのだ、慈悲や情けを掛けてやる必要など何処にも無い相手である。
人間種の反応を感知系のスキルで探りつつ、手当たり次第に貪り喰い殺していく二人。金目の物や役に立ちそうな物、または武具などを回収していると、ふとしたヴァルの質問で気付く。このオアシスに夫婦や恋人を装った者達は居るが、子供が一人も居ない事に。
(ヴァルが子供の事を話題に出してくれて良かったよ。どこを調べても、このオアシスには子供が居ない。徹頭徹尾クーロンの連中で構成されているから、足手纏いとなる子供は居ないみたいだね)
(元々居た夫婦や子供がどうなったのかは、考えるまでも無いだろうな。クーロンの連中やワンタオの連中だ、殺して何処かに捨てたに違いない。このオアシスがクーロンの支配下にある事すら知られていないのだ、何処かの時点でごっそり入れ替わっているぞ)
(だろうね。………さて、どうしたものか。バカ正直にNW09オアシスの事を報告する訳にはいかない。かと言って、今さら喰わないという選択肢は無い。でも、まともな説明は出来ない……と)
(一番良いのは知らんフリをする事じゃないか? 俺達が離れてから突然居なくなったとか……。クーロンの物と分かる何かを置いておけば、クーロンの支配下にあったと証明できるだろうし。綺麗にして証拠隠滅はしているだろう? 主なら)
(まあ、してるけど……。そうだね、それが一番良いか。クーロンの奴等が夜逃げした形にしておこう、撤退でもどっちでもいいんだけどさ。丸ごとゴッソリ居なくなっても不自然じゃないように装っておこうか)
(それがいい。どうせブラックホークは定期報告か何かをさせている筈だ。それが無いとなれば確実に怪しむし、そこから発覚するだろう。ついでに憎しみはクーロンに向く。奴等は散々悪行をやっているのだ、既にこの世に居なくとも構うまい。どうせ犯罪組織なのだ)
(表は傭兵組織、裏は複数の国のスポンサーが付いている犯罪組織だからねえ。兵器実験、売春惑星、そして砂賊を装った犯罪行為。本当にどこでも犯罪をやっている連中だよ。碌なものじゃないね)
(そもそも最初の星で、クーロンは薬を使って兵士を洗脳すると聞いてるじゃないか。まあ、殺人などを忌避しなくなるとか、そう言った洗脳みたいだがな。………そういえば、シェプリムは段々マシになっていた気がするぞ?)
(そういえば、そうだね。結構ヤってやったからかな? 初めて会った頃に比べれば、情緒が安定してたのは確かだよ。クーロンが使っている薬は、そこまで強力な物じゃない?)
(だろうな。というより、強力な薬を使うと人形が出来上がるんじゃないか? いちいち命令しないと動けない人形。それは兵士として失格なんだと思う。そんな兵士は戦場で役に立たんしな)
(成る程、それで程々のバランスになる量で抑えていると。まあ、兵士として役に立つのが第一で、薬物中毒者を作りたい訳じゃないだろうしね。薬がなければ戦えないっていうのも話にならないだろうし)
(………良し! これで大体の場所が終わったのと主が欲しい物は確保しておいたぞ。それにしても小さいオアシスとはいえ何百人居たんだ? 結構大変だったが……)
(多分600人近く居たんじゃないかな? 砂上船のパーツも沢山手に入ったし、魔道具や魔法銃に近接武器も手に入った。私達のは横に置いておくとして、これで色々遊べるね。折角だから、武器と魔道具を組み合わせた玩具を作ろう)
(まあ、好きにしてくれ。全て終わったようだし、そろそろ戻るか。アイテムバッグも結構あったしな。三人娘のお土産に良かろう)
600人程度を殺して喰らってきたとは思えないほど暢気な会話をしつつ、無人になったNW09オアシスを飛び立つ二羽の鳥。それが巨大船へと戻ったのは朝日が昇る少し前だった。
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巨大船に戻ったミクは底部ドックへ行き、砂上ヨットを回収して新たなヨットをそこに出す。帆は二重になって厚みを増した代わりに、ミクの【強風】にかなり耐えられるようになった。更に二回り大きくし、皆が乗りやすいように過ごしやすいように改良。
そして最大の違いは、本体部分に【閃光】の魔道具を埋め込んだ事だ。これは外からは見えなくなっているので、盗もうとする奴も分からないだろう。またその魔道具とは別に、ミクの魔力を極弱く発信する骨も中に埋め込んである。
これの御蔭で盗まれても探し出す事が容易になった。おそらくは盗む奴は居ないと思われるが、それでも対策をしておくに越した事は無い。
朝日が昇ってきて地平線を照らしていく、そんな光景を見ながら三人でゆっくりしているとルーナ達が起きたようだ。
「おはようございます、お姉様。昨晩はとっても素敵な一夜でした///。思い出すだけでも幸せになれますが、是非今晩もお願い致します///」
「「お願い致します///」」
こいつらには、この綺麗な朝日が見えないのだろうか? 何故この朝日の中で頭が茹だっているのか、欠片も理解できないミク達であった。
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本体が作った朝食を食べながら、昨日の夜の事を聞いていく三人娘。NW09オアシスがクーロンの連中に乗っ取られており、あの所長もクーロンの構成員だった事に怒りを露にする。
「何て酷い奴等なんでしょうか!! お姉様が仰る通り、どこかでごっそりと入れ変わっている筈です。その時に居た子供達がどうなってしまったかを考えると……。そんな連中は殺されて当然でしょう!!」
「まったくもってルーナの言う通りです! ミクさんやヴァルさんが奪ってきたのはどうかと思いますが、それでも奴等の非道が無くなる訳ではありません!!」
「奪ってくるのも特に問題無いと私は思いますよ? 放っておいてもクーロンの連中に持っていかれるだけでしょうし、元はNW09オアシスの人達のお金かもしれませんしね。だったら、こちらで持って行ってしまうべきです」
「犯罪かどうかは別にして、神連中が文句を言ってこない時点でセーフって事。別に良い事とは思ってないけど、盗賊の物を奪っただけだしね。それに盗賊以外からは奪わないし」
「まあ、それはそうですね。元々連中の盗賊行為ありきですから、盗賊行為が無ければ奪ったりしません。それはそうと、朝食も終わりましたし、NW03オアシスへ急ぎましょうか」
『そうだな。主もヨットを改良したし、早くこの船を売り払って金に換えるとしよう。船速が遅い割に魔力を使うので鬱陶しいし、この遅さは若干イライラする。巨大な船はともかく、船速が合っていない』
「とりあえず大きいのを作ってみましたって感じよね、この船。そもそもこれを作る前に強力な推進機の開発が先でしょうに、いったい何を考えて作ったのかしら?」
「大きいイコール強い! とでも思っていたのだと思いますよ? ですが大きいだけでは……」
「ただの的ですね」
ヘルが辛辣な一言で締めたが、ただの事実である。




