表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
38/500

0037・ロディアスとゼルダ




 王都の中央ギルドにあるギルドマスター執務室。そこではギルドマスターこと<暴風のロディアス>が、ミクに対して威圧していた。殺気と殺意も乗せているが、残念ながらミクにとっては微風にもならない。


 逆にミクから凄まじいまでの圧が放たれる。それは一瞬にして体を剛力で押さえつけられたかのような、深淵に引きずり込まれるかのような圧だった。殺気も殺意も無い、されど常人では絶対に出せない圧が放たれている。


 ロディアスはすぐに理解した。かつてのドラゴンよりも、目の前の美女の方が遥かに強いと。戦えば全盛期のパーティーでも殺されるしかない。その未来”しか”見えないのだ。自分は手を出してはいけない相手に手を出した。


 そう思った瞬間、ギルドマスターの執務室の扉を誰かが開け、その人物は魔法を放とうとして停止する。しかしミクの圧は無くなっていたので、ロディアスは胸を撫で下ろした。



 「ゴメン。そしてありがとう、助かったよ。不用意な事をした俺が悪いんだけど、危うく殺されるところだった」


 「………はぁ。ロディアス、貴方いったい何をやっているの? ミクに手を出せば殺されるだけよ? 私や<黄昏>でさえ絶対に勝てないっていうのに、貴方が一人で勝てる訳がないでしょう。そもそも貴方は個人ではそこまでなんだし」


 「酷いな。いや、事実なんだけどさ。それでも、エスティオル卿の言葉を鵜呑みにする訳にはいかないんだよ。こう見えても一応ギルドマスターなんだし。試験の前の試験。いつもの事だろう? 俺達だってやられたし」


 「まあ、そうだけど……。はぁ、ミク? 申し訳ないんだけど、そういう事で矛を収めてくれる?」


 「理由があったみたいだから良い。無ければ殺してる。それだけ」


 「相変わらずねー。まあ、それこそがミクなんだけど……って、その毛皮は何? 随分綺麗な毛皮だけど、そんなの着てた? それにしても毛皮を着ているのに美しいって、もはや反則よねえ……」


 「これ? これはネメアルの毛皮。割と強くてちょっと驚いたけど、首を圧し折って殺して剥いだんだよ。メイスも鉈も効かなくてさ、カレンに聞いた通りの皮だったね」


 「「………」」



 ネメアルの毛皮と聞いて、思考が停止するロディアスとゼルダだった。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 少し時間が経った後、気絶していた受付嬢も意識を取り戻し、ロディアスとゼルダも正気に戻る。受付嬢は一旦退出し、お菓子と紅茶を持って来て部屋を出た。この部屋には居たくないようだ。気持ちはよく分かる。



 「………ふぅ。おそらくだけど、ネメアルの毛皮で間違いないと思う。これは上半身の毛皮ね。下半身のはどうしたの?」


 「下半身のは別にあるけど……それはヴァルの装備になってる」


 「ロディアスは大丈夫よ。コイツは何だかんだと言って長い物には巻かれるタイプだから。ミクの事を知ったら墓まで持って行ってくれるわ」


 「何だか急に聞きたくなくなったんだけど、俺の気のせいかな……?」


 「反応が宿のオッサンと同じだから大丈夫そうだね。ヴァル、一度戻って出てきてくれる?」


 『了解だ』


 「!!!」



 ヴァルの声を久しぶりに聞いたからだろう。またもやゼルダは顔を赤くして反応している。仕方がないのだろうが、<魅惑の声>の威力が高すぎる気もする。何処かで男神二柱がハイタッチしているが、きっと気のせいだ。


 ちなみに、音の神と性愛の神はどちらも男性の姿の神である。どうでもいい事だが、念の為。



 「久しぶりに聞いたけど、止めてほしいわね。<黄昏>が唯の女にされるっていうのも分かるわ。自分の中の”メス”が騒ぎ出すのよ」


 『いつもの姿で現れたが、ゼルダはまた声でヤられているのか? 文句は主が言う通り神に言うべきだ。俺や主に言われても、こればっかりはどうする事も出来ん。使わねば神から文句を言われる』


 「あー……んー……。そうね、私も神々に怒られるなんて御免被るから、我慢するわ。それにしても神様方はいったい何を考えておられるのかしら? 女性の姿は美の化身で、男性の姿は声で駄目にする。ある意味で本当の夢魔かしら?」


 「何て言うか、聞いちゃいけない単語が山ほど聞こえた気がするんだけどね。嫌な予感しかしないから、もう家に帰っていいかな?」


 「いい訳がないでしょうが、さっさと聞きなさい。そしてガルディアスと同じ目に遭うのよ!」



 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 まさか、そんな馬鹿なという思いは今でもある。しかし、それにしたって滅茶苦茶だろう。目の前の美女が唯の肉の塊で、人間種だろうが魔物だろうが喰う存在だなんてさぁ。


 そもそも神は優しい存在ではない。そう散々ローネから聞いてきたっていうのに、全く信じていなかったんだなぁ……俺。


 ローネは闇半神族。極めて珍しい<デック・アールヴ>と呼ばれる種族だ。何でも<黒耳族ダークエルフ>の祖先らしく、初めて聞いた時にはビックリしたっけ? 耳が尖ってないって言ったら、ダークエルフ如きと一緒にするなって殴られたなぁ。


 他にも<白耳族エルフ>の祖先である、光半神族の<リョース・アールヴ>と呼ばれる人達も居るらしい。こっちも極めて珍しいらしく、ローネでさえ見た事が無いって言ってた。


 そう、神に関わる人達が居るっていうのに、神様が何もしないって思い込んでた。……いや、それすら考えなかったな。だからこそ、神様は激怒して送り込んできたんだろう。<神聖国>にブチギレてるらしいし。


 正直、王国じゃなくて良かったと胸を撫で下ろしたよ。絶対に守らなきゃいけない最愛の妻が居るんだ。神の怒りで滅ぶなんて御免被る。それでも知らないままよりは良かった……のかなぁ?。



 ☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆☆



 「それにしても、何でキミのようなのが試験を受けに来たんだい? 別にどうこうと文句を言う訳じゃなくて、キミの目的の為なら、ランク9で十分だと思うんだけど……」


 「いえ、それでは足りないわ。ランク10を超えて有名になれば、必ずや裏組織の奴等が接触してくる。私達だって散々あった事でしょう? 今でもたまにあるけど……。それはミクにとって都合が良いのよ。喰えるから」


 「ああ、そういう事。つまり裏組織のクズどもを彼女に喰わせる為って事か。更に言えば、ランク10から上は一騎当千扱いをされる奴も居る。一人で裏組織を潰しても怪しまれる事はない」


 「どういう事?」


 「ランク10から上は実力差がバラバラなの。ランク10でも怖ろしく強い奴も居れば、ランク14なのに大した事が無い奴も……。まあ、ロディアスの場合は指揮専門だったから、ある意味では当然なんだけど」


 「それでも普通の冒険者よりは強いんだけどね。<魔女>や<黄昏>のような規格外と一緒にされても困るよ。ランク10から上はそれほど実力に差があってね、<魔窟>とも呼ばれているくらいさ」


 「そして、ランクでは全く計れないアンノウンが目の前に居るのよ。たった一人で国すら滅ぼせる怪物が……」


 「………」



 ロディアスもゼルダも遠い目をしているが、怪物にとっては難しくも何ともない事である。所詮、目の前に居るのは分体でしかないうえ、その分体を倒すまでにどれだけ喰われるか分からないのだ。


 本体の肉が増える方が速いだろうと思われる。そんな相手を前にして、戦いを挑んでも意味など無いのだ。無意味に死ぬだけでしかない。


 ロディアスもゼルダも痛いほどに分かっている事だった。本物の暴虐の前には逃げる事しか出来ないのだと。


評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

この作品はリンクフリーです。ご自由にリンク(紹介)してください。
この作品はスマートフォン対応です。スマートフォンかパソコンかを自動で判別し、適切なページを表示します。

↑ページトップへ