0371・巨大船
サボテンの沢山生えている地帯をウロウロと動き続ける。途中で止まっては【土中探知】の魔法を使い、砂の下を調べていくミク。何処かに空間でもあるのかと思ったがそれはないようだ。やはりアジトの話は嘘だったのであろうか?。
このサボテン地帯に来てからというもの、パッタリと砂賊が出てこなくなった。これもまた、怪しいと言えば怪しい状況であり、ミク達は緊張感を持って周囲を探っている。グルグルと回っていると、再び砂賊が襲ってきた。
「レイラ、あいつらは【爆音衝撃】を使って気絶させて。捕まえて脳を操り、情報を仕入れる。何処にアジトがあるのか分からないから、お願いね」
「了解!!」
「気合いが入るのはいいけど、殺さないでよ。あいつらは情報源なんだから、殺すのは厳禁ね」
聞いているのか聞いていないのか分からないレイラに若干不安になりつつも、ミクは【強風】の魔法を使いつつ速度を調整する。レイラは砂賊が撃ってくる魔法銃を、【魔力盾】で逸らしつつ、すれ違い様に【爆音衝撃】を喰らわせた。
途端に船から落ちて倒れる砂賊。ミク達はUターンし落ちた砂賊の下に行く。ミクは近付き頭の上に掌を置くと、脳に触手を突き刺して砂賊から話を聞いていった。情報に寄ると、このサボテン群の更に西にアジトがあるらしい。
どうりでこの辺りには何も無い筈だ。そう思ったミク達はさっさと始末して身包みを剥ぎ、砂上船を破壊して西へと進む。すぐに砂賊が現れるようになったので、再びジャベリンバズーカを使って破壊していくレイラ。ちょっと楽しそうだ。
そうしていると、大きな船が見えてきた。最初にNW03オアシスに移動したガレオン船の5割ほど大きい船だ。幾らワンタオという組織だからといって、これだけの物をよく用意できたものだと関心する。
その巨大船の周りには多くの砂上船が走り回っており、それらが一斉にミク達に襲い掛かってきた。ミクは帆が耐えられる限界の速度を見極めながら、ヴァルに舵を任せ、レイラに攻撃を任せる。
レイラは敵の砂上船もろともジャベリンバズーカで破壊しているが、段々と高火力のバズーカを気に入ってきたようだ。鼻歌を歌いながら、敵船にブチ込んでいる。残りの三人娘は魔法銃を撃ち、砂賊を撃ち殺していく。
巨大船から時々砲撃が飛んでくるがミク達には当たらない。そもそも巨大船の砲は連射できないらしく散発的にしか飛んでこないうえ、巨大船に乗る砂賊からの魔法銃の攻撃はミクとヴァルが完全に防いでいる。よってミク達が止まる事は無い。
縦横無尽に動きつつ、敵の砂上船をどんどん破壊していくミク達。ついに巨大船が動き始めたが、始動するのにも時間が掛かるようである。そのうえ動きがもっさりしているというか、非常にトロい。
ミク達の砂上ヨットの方が遥かに速いとさえ言える。何故こんな物を拠点にしたのかが理解出来ないが、何かしら理由があるのだろう。大きければ敵がビビるだろうという単純なものではないと思う。
しかしこれだけの巨大船を壊すか手に入れるか。散々迷ったが、ミクは手に入れる事に決める。帆に【強風】の魔法を当てていたミクは、斜め下からの風に切り替え、速度を落とさずに砂上ヨットを浮かせる。
そのまま吹き上げて空中を舞い、【魔縄鞭】の魔法を使って強引に巨大船の甲板に着地した。既に全員に戦闘準備をさせていたミクは砂上ヨットから下りさせ、一斉に甲板上の砂賊と乱戦を始める。
敵の砂賊もまさかミク達が空を飛んで強襲してくるとは思っておらず、完全にパニック状態だ。そんな中で素早く接近して砂賊を殺し、死体を外へと放り捨てる。それを繰り返して甲板上を鎮圧するのに10分も掛からなかった。
甲板を鎮圧したミク達は巨大船の内部に入っていく。中には早速とばかりに砂賊が居て撃ってくるが、【魔力盾】で防ぎつつ前進、敵の喉下にナイフを突き刺し、鉈で敵の首を切り裂く。
汚れを【超位清潔】で綺麗にしつつ、死体は邪魔にならないようアイテムバッグに回収する。そうやって進んでいき、徹底的に砂賊を殺して収納。巨大船の中から一掃していく。この船から逃げようとしている奴はまだ居ない。
ミクは巨大船に近付いた時から、ずっと感知系のスキルを使い続けている。そのミクの感知から逃げられる者はいないし、この船から逃げ出した者も居ない。形勢が不利になっているにも関わらず逃げる者が居ないのは奇妙だが、ミク達は順当に始末し続けていった。
時折殺さずにおき、脳を操って情報を得ながら進み、現在は船の下部にある船長室の前だ。この中に三人居るのは分かっているのだが、何故か逃げようとしていない。とりあえず聞けば分かるかと思い、ミク、ヴァル、レイラで取り押さえる事を決める。
お互いにやるべき事を確認したら一気に踏み込み、【魔力盾】を使って接近したら左手首を切り落とす。素早く【高位治癒】を使って治療し、足も切り落として治療する。
これで右手しか使えない状態になった。どのみち処刑される連中だから気にしなくていいだろう。ミク達を睨みつけてくる三人に対し言葉を発さず、部屋の中に睡眠薬を散布する。三人娘も寝てしまったが、そこは気にしなくてもいい。
ミクは一番偉そうな男の脳を操ると話を聞き始めた。
「お前は<大鴉>のトップで間違いない? それとこの巨大船は何処で手に入れた?」
「ああ。オレは<大鴉>というより<ワンタオ>の幹部であるフィズダンダ。この巨大船は<クーロン>からの物だ。<大鴉>が<クーロン>から奪った物だが、奴等は今も気付いてねえよ。気付きそうな奴等は殺したからな」
「なるほどね。NW09オアシスを乗っ取ってたみたいだけど、あの町の主要構成員を教えろ」
「商店のアンタージュ、ゴルデンタ、サンポミク、エロンタル、ウェロンズ、サクチロ、ルルトバナ、メソコルト……」
『どうやらギルドの所長の名前は無いな。となると本当に白だったらしい。それはそれで疑いが晴れたから良かったが、こいつらをNW09オアシスに連れて行ったら終わりか?』
「どうかしら。まだ船の中に残っている者も居るし、この巨大船を動かす魔石。つまりゴーレムコアは2つ必要みたいね。一つはここにあるけど……」
「もう一つのゴーレムコアはビカンタスの奴が持っている筈だ。船を動かすなら一つで動くが、もう一つがないと砲も使えねえしシールドも張れねえ。動くだけのハリボテだ」
『象徴にはなるだろうが、その分狙われやすいしで何とも言えんな。この船は。とりあえず船の中のザコを全て始末してくる。主はここで尋問を頼む』
「分かった。大丈夫だろうけど、気をつけるんだよ」
「ええ、大丈夫よ! 任せて頂戴!」
『ほら、行くぞ』
そう言ってヴァルがレイラを引っ張っていった。兄妹みたいな二人だが、強ち間違っていないイメージだなと思いつつ、ミクは尋問を再び行っていくのだった。出来得る限りの情報を仕入れたら三人娘を起こし、幹部三人を連れて甲板へと上がっていく。
甲板に上がったミクは、【魔力投槍】や【疾風強撃】に【砂弾】で周囲の砂賊を倒していく。巨大船の周囲に居る連中も、船には手出し出来ないらしい。
もし壊せば間違いなく<ワンタオ>に命を狙われてしまう。それが恐いのだろうが、三人娘は「なら逃げればいいのに……」と思いながら、砂賊が殺されていくのを見ていた。




