0368・NW09オアシス
ミクが部屋の中にほぼ無音で入ると、中に居る四人はMASCを使っているようだった。どうやら、わざわざMASCを使って聞かれないようにしているらしい。MASCを調べられたら情報を全て奪われるのだが、コイツらはバカなんだろうか?。
ミクは呆れつつ麻痺毒を噴霧し一気に部屋の中の四人を麻痺させる。それが終われば一人一人脳を操って聞いていくのだが、特に大した情報も持っていなかった。所詮は<黄金の仮面>であり、<大鴉>に押し負ける程度の連中だ。
もともと追い込まれている連中である以上、大した情報は持っていなかった。特に気にする事なく脳を貪って転送したミクは、レイラと協力し足が付きそうな物以外の全てを回収してアジトを後にした。お金以外はあまり役に立ちそうもない。
チーズや干し肉くらいだろうか、手に入れて良かったのは。そう思いつつも宿へと戻り、<女性形態>へと戻ったら分体を停止するミクとレイラ。情報の整理が終わったら手に入れた物を弄って遊ぶようだ。
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翌日。分体を起動したミクは手分けしてさっさと起こし、宿を出る。朝起きると【超位清潔】をミクが使っているので、一行は綺麗なままである。それはともかく、酒場へ行きお金を払って普通の食事をしたら、さっさとNW06オアシスを後にするミク達。
<黄金の仮面>をブッ潰したので、その事で騒ぎが起きる前に脱出したかったのだ。その事を話すとジト目を受けたが、ミク達にとっては悪人を喰らっただけである。それが神の命である以上、何も問題の無い行為なのだ。
「そういえば、そうでした。お姉様方は神様より、悪人を喰い殺せという命を受けていらっしゃったのでしたね。お金を強奪するのはアレですけど、有効利用を思えばおかしな事ではありませんか。それに、悪人が野放しになるよりは……」
「悪をもって悪を征するというか、劇薬ですねミクさん達は。ただ、その劇薬が投入される前に私達が何とか出来れば良かったのですが……出来なかったのが、この宇宙の限界なのでしょう」
「そして人間種では無理だと神々が判断され、劇薬が投入された……と。私としては劇薬が投入されないとヴァル殿に御会い出来なかったので、投入されて良かったと思います。悪人? 彼らは悪なのですから、どうでもいいです」
「まあ、それは確かにそうです。悪人どもがどうなろうと、そんな事はどうでもいい事であり、私達の事の方がよほど大事です。お姉様方に御会い出来なかった事を考えると、腐っていて良かったとも言えますね」
「一応言っておくけれど、多かれ少なかれ”こう”なるわよ? それは何処の宇宙でも変わらない事。人間種というより知的生命体が居る以上は、こうやって腐った社会が形成されるの。それが自然な事だと言えるわね」
「「「………」」」
『つまり、主や俺達が現れたのは必然だと言える訳だ。神が何処に行くかを決めているのだから、お前達にとって大事なのは自分達の時間軸に俺達が召喚された事だ。時間がズレている場合もあったんだからな』
「成る程、それは確かにそうですね……っと。アレがNW07オアシスですか。このまま一気に行ってしまいますか? それとも休憩していきますか?」
「この辺りは発着場。つまり中心から遠いから治安も良くないし、一気に行ってしまおう。いちいち面倒な揉め事は要らないよ」
ミクがそう言うので、そのまま進んで行く砂上ヨット。何度か砂賊に襲われたものの、その全てを返り討ちにしていった。その甲斐もあり、昼を過ぎたもののNW09オアシスに辿り着いた一行は、すぐに町に入り食堂に行く。
普通の食事を注文し一息吐くと、食堂の雰囲気が良くない事に気付く。店員もどことなく暗い顔をしており、やる気が感じられなかった。もしかしたら砂賊に相当やられているのかもしれない。
「それにしたって沈み過ぎの気はするけれど? 幾らなんでも客相手にあんな顔はどうなのかしら? これ以上先にオアシスが無いにしたってねえ……すぐに客が出て行きそうな雰囲気よ、ここ」
「確かにそうですね。幾らなんでも客商売でコレは無いです。愛想をふり撒けとは言いませんが、もう少しマシにはならないものですかね? 客の気分を悪くしてどうするんでしょうか」
そんな雰囲気の良くない食堂で食事をとった後、ブラックホークの出張所に行く。中は閑散としており、人っ子一人いない状態だった。というより、受付嬢も居ないので明らかにおかしい。
ミク達は気配のする二階へと上がり、ドアをノックする。すると、中から返事があったので開けた。中にはヒョロっとした体の優男が居たが、目の下の隈が酷く、寝ていないのがよく分かる風貌をしていた。
「君達は傭兵かい? 早くこのオアシスから逃げた方がいい。私は所長だから最後まで残らなきゃいけないけど、他の者達は皆逃がしたよ。君達も<大鴉>が来るまでに逃げた方がいい」
「<大鴉>に押し込まれてるっていうのは本当みたいだね。私達はNW03オアシスの所長から、ここに応援に行ってくれと言われて来たの。申し訳ないんだけど、勝手に始めさせてもらうよ」
「………そうか。勝てるとは思えないけど、好きにしてくれ。……それと、逃げるなら早めにね。遅れると何をされるか分からないよ」
そんな話の後、ミク達は所長室を出た。先ほどの所長の態度にヘルが怒っているが、他のメンバーは特に気にしていない。ルーナが怒るかと思ったが、彼女は所長の決意と覚悟を理解していた。
「あの所長は自分が殺されても、他の受付嬢やスタッフは守ろうとしたのでしょうね。だからこそ私達にも逃げろと言ったのです。最後まで居て心中するのは自分だけでいいと。滅多にいないような立派な方ですよ」
「そうだね。ああいう人は死なせちゃいけない。私達は私達のやるべき事をやろうか? といっても砂賊を襲うお仕事だけど、ここには沢山居そうじゃない?」
ミクが「ニヤッ」とすると、他のメンバーも「ニヤッ」とする。何だかんだといってノリの良い連中であった。
砂上ヨットに乗り込み、NW09オアシスの周りを周回する。すぐに砂賊と思わしき奴等がミク達の砂上ヨットを攻撃してきたが、直撃するような攻撃は一切無い。
全て逸らされて終わりであり、的確に反撃をうけて殺される砂賊。裸に剥かれてポイ捨てされて終わりである。
砂賊の乗っていた砂上船はNW09オアシスに持って行き売る。それを少しの間繰り返し、今日の仕事は終了だ。NW09オアシスに戻り宿をとったら、辛気臭い食堂へと行く。
普通の食事を頼んで食べ、終わったらさっさと宿に戻る。この町は暗く沈んでいるので、外を出歩く意味も無い。まあ、もともと夜の性活が楽しみで、外を出歩かない女性ばかりなのだが。
今日も愛し愛されようとイロイロな準備を始めた三人娘。それを見て若干呆れているミク達。そんなミク達の部屋に忍び寄る野暮な連中。ミク、ヴァル、レイラは気付いているが、三人娘は気付いて居ない。そんな事で大丈夫なのだろうか?。
そう思うも、ドアの横に立ったミクは、いきなり強襲してきた相手を即座に殺す。理由は、外にも結構な数の砂賊が居るからだ。どうやらNW09オアシス自体が既に乗っ取られていたらしい。
強襲してきた砂賊を殺し、その説明をするミク。だが、その説明を半分も聞いていない三人娘。何故なら逢瀬の邪魔をされてキレているからだ。
こいつらもう敵に放り込むかと、説明を諦めるミクだった。




