0365・色々な報告
ブラックホークの大型砂上船に乗り、NW03オアシスへと戻る。面倒ではあるものの仕方がないとして、ミク達はブラックホークの出張所へと移動。事務所と言える大型の建物は大きな町にしかないそうだ。ここは大型のオアシスなのだが、何故か出張所らしい。
「それはオアシスだからだよ。大型であろうがオアシスの場合、不意の何かで撤退する可能性がある。地盤として強く維持できないから出張所なのさ。この星で事務所なのは発着場の近くだけだね」
所長の部屋に案内されたが、ここの所長は華奢な優男だった。まあ、現場の統括でもない限り、必要なのは武力じゃなく事務能力だ。なので見た目の強さは必要ないのだろう。そもそもこの所長弱くないし。
「おやおや、侮ってはもらえないらしいね。流石はCB27でクーロンからMAS06を強奪しただけはある。今まで何処に居たのかは知らないけど、急にこのSOW264に現れるなんてね。まあ、傭兵が何処で仕事をしようが傭兵の勝手だけどさ」
どうやらミク達の事をある程度理解しているらしい。スマコンならぬMASCもあるんだし、情報のやりとりは出来て当然か。そう思いつつ、レイラが報告してくれる横で適当に補足を入れていく。それはヴァルも同じだ。
クーロンとワンタオと聞いた時に所長の頬がピクッと動いたが、それ以外は表情を変えずに聞いている。ここの所長もなかなかに優秀らしい。ミクは目の前の所長の評価を上方修正する。相手がこちらを見定めて居るが、こちらも向こうを見定める。当たり前の事だ。
「しかしクーロンにワンタオか。ここ最近出てきた<大鴉>が、まさか幹部の暴走で出来た組織だとはね。クーロンも一枚岩でないのは知っているし、下部組織がおかしな事をするのも今に始まったことじゃないけども……」
所長に聞くとクーロンの下部組織として有名なのはワンタオだが、それ以外にもシーリンやウェイレンなど様々な組織があるらしい。その中でも狂犬と言われているのがワンタオなんだそうだ。
そんな話を聞きつつも所長はチラチラとルーナ達を見ている。当然だが見惚れている訳ではなく、ルーナ達を見定めようという事だろう。居心地悪そうにしているし、面倒だったのでミクがぶっちゃけた。
「彼女はルーナシェーラ。その右に居るのがヘルで、左に居るのがセイラン。居心地悪そうにしてるから止めてくれる? 後、彼女達は偽名ね。偽名の理由は、バレると星国から命を狙われるから」
「……それは言っても良かったのかね? 彼女達は愕然とした顔をしているようだが……」
「聞けば所長も巻き添え。彼女達は農業惑星GEMA915で囚われていた。あそこはガドムラン星国の農業惑星だけど、クーロンの売春惑星でもある。私達はそこに囚われていた。あっ、脱出方法は聞かれても答えないよ。使われると困るから」
「………頭が痛くなってきたのだが? ……まあいい、続きを頼む」
「宙賊の中にクーロンと関わりがある奴等が居て、そいつらが売春惑星に捕まえた人達を売っている。で、その売春惑星に五年も居たのが三人。ガドムランの貴族が裏についていたりするから、助けたりは無理だろうけどね」
「まあ、それが事実ならそうだろうな。我がブラックホークの傭兵の中にも捕まった者は居そうだし、それにそういう売春惑星は君達には悪いが他にもある。GEMA915の事は知らなかったがな。そこも手が出せんのが正直なところだ」
『それは仕方ないだろう。幾ら星系最大の傭兵組織とはいえ、所詮は民間組織だ。星間国家の軍と比べるとな……それに傭兵組織にとってもスポンサーだ。どうにもなるまい』
「腹立たしい話だがね、それが現実というものだ。我々にも出来る事と出来ない事があり、出来る事をやるしかない。世の中とは往々にしてそういうものなのだ。理想論のマヌケならば「助け出せ!」とか言い出すのだろうがな」
「それは悪手ね。やったところでブラックホークの傭兵が不利益を被るだけ。理想論のゴミだけが不利益を被るのならいいけど、他の者達は関係が無いわ。それに理想論のマヌケほど無責任なのよねえ」
「まったくだ。ところで、この星で仕事をするなら砂上船を買っておいた方がいいぞ? 大型船に乗ってくれるのはありがたいが、あれでは君達の強さは活かせまい。お勧めはボート型の物だ。ヨット型の物は風を捕まえられないと上手く移動できん。代わりに安いがな」
「そうなの? まあ、分かった。砂賊を追っかけ回すのにも砂上船があった方がいいし、それを期待するって事でしょ?」
「そういう事だ。君達ほどの実力者であれば、<大鴉>をどうにかしてくれるかもしれんからな。我々としては君達に期待する「その子達なら大丈夫だよ」しかないのが現状なのだ」
「アタシの目の前で<大鴉>の連中をごうも、尋問してたからねえ。情報をとったら八つ裂きにして船からポイッと捨てるんだよ。むしろ任せた方がいい。……チュッ、ただいま」
「うむ、おかえり。それはそうと急にどうした? いつもなら嫌がるだろうに」
「チュッ! ……そうなんだけどねぇ、この子達も人前で関係なくチュッチュしてるしさ。恥ずかしがってるのがバカバカしくなってきたんだよ。それで………ね///」
「そうか! 君達、重ねてありがとう! もう少しで妻が体を売る羽目になっていたのだ。その事も含めて、ありがとう!!」
そこまでは良かったのだが、その後はダダ甘な世界に入り込み、ミク達の前で愛を語りながらチュッチュする二人。「ダメだこりゃ」と思ったミク達は、報告も終わったのでさっさと出張所を出るのだった。
ブラックホークの出張所を出たミク達は、その足で砂上船を買いに店まで行く。ボート型の物は後ろに筒型の魔道具がついており、大型船と同じく風を吹いて前へと推進するようだ。
ヨット型の物は、帆に風を受けて自然の風を捕まえて走る物と、帆に魔道具で風を当てて進む物とあった。ヨット型の物は基本的に古い物らしく、最新の物はみんなボート型らしい。まあ、帆が邪魔なので当然だろうとは思うが。
ただし値段が大きく違う。自然の風を受けるヨット型と、最新のボート型では値段に20倍もの開きがある。というか、自然の風を捕まえるヨットは安すぎるとも言え、値段はたったの13万セムだった。まさかのMASC以下である。
ミクはそれを購入した後で別の店に行き、三人のMASCもついでに購入するのだった。かつてルーナが持っていたMASCは200万セムもする、超高性能タイプだったらしい。それでこの宇宙の情報を手当たり次第に調べていたそうだ。
「あの頃は右も左も分からず、どうしていいかも分かりませんでした。だからこそ必死に調べていたのです。それを繰り返して、やっと別世界なんだと納得できました。まさか別の宇宙だったとは思いませんでしたけど……」
「過去の記憶があるというのも難儀なものだろうからねえ。エイジ達みたいに、何の因果か別の星に複製されて、そして元の星に戻る事になるのも居るしさ。生きていると何が起こるか分からないものだよ?」
「永劫に生きるミク殿が仰ると説得力がありますね。まあ、私達も千年は生きるのですが……」
「これから千年を考えると……確かに子供は要らないですかね? 何だか欲しいような、それでいて面倒臭そうな……。子育ての大変さも聞きますし、難しいところです」
「オーロが居れば少しは楽なんだろうけど、居ないしね。……オーロ? 牛人族の女性だよ。神の加護で【魔乳】っていう、魔力の豊富な母乳が出るようになったの。いつでも母乳の出る種族だから、居てくれると楽だと思ってさ」
「いつでも母乳プレイの出来る種族ですか!?」
茨木吾郎………お前……。




