0364・クーロンとワンタオ
砂上船の上での戦いは終わり、今はごうも……尋問タイムだ。指先から切り刻まれ絶叫を上げているが尋問である。尋問だと多数決で決めたのだから、ミ「ギャー!」ク達が行っているのは尋問なのだ。周囲はドン引きしているが。
「で、その<大鴉>とやらの構成員は? 組織の人間ならそれぐらい知ってるよねえ、妄想の組織じゃなくて実在するならさあ!!」
「ギャー!! 止めて、止めてくれえ!!! 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛いーーーーーー!!!!」
指先を切り落とした後、ゆっくりとナイフの先で抉ったり、少しずつ切り刻むという事を繰り返している。ミク達からすれば高がこの程度でしかない。この程度で泣き叫ばれては困るというものだ。尋問しているのはミク達三人だが、ルーナたちは遠巻きに見ている。
痛い痛いというだけで喋らない為、内ポケットから取り出したに見せかけて小さなヤスリを肉を通して転送した。それを持ったミクは砂賊に対して「ニコリ」と笑顔を見せた後、傷口をヤスリがけしていく。今までの比ではないほどの絶叫を上げる砂賊。
それでもミクは情報を喋るまでヤスリがけを続けるのだった。足の指の全てを根元までヤスリがけされた砂賊は洗い浚い全てをブチ撒けた。
「<大鴉>っていうのは表の顔で、裏はクーロンの別部隊であるオレ達ワンタオの隠れ蓑だよ。ワンタオの幹部が金欲しさに立ち上げただけで、クーロン本部には知られてない。これで全部なんだ、もう許してくれ!!!」
「ふーん。本当みたいだね、ご苦労様。じゃあ、さようなら」
「は?」
ミクは容赦なく首を切り落とし、死体の腕と足も切り落としたら腹を掻っ捌き、全てを船から投げ捨てる。そして、「さーて、次の獲物は誰かな♪」と言い出して選んでいくのだった。
砂賊が恐怖で真っ青な顔をしているが、既に新人連中は全員が船の縁で吐いている。少ないベテランは顔を引き攣らせ、女性船長だけはニヤニヤしながらごうも、尋問を見ていた。
その後はヴァルもレイラもごう、尋問をしていき、多くの情報を入手する事が出来た。ただし、リーダー格の奴だけは頑なに口を割ろうとしない。しかし、そんな事は最初から分かっていた事だ。だからこそ、こうなる。
「これはね私が持ってる中でも一番ヤバい薬なんだよ。名前は<幸福薬>。注入されると幸福になり何でも喋っちゃうんだね。何でお前達の前でわざわざ八つ裂きにしてから捨てたと思う? この薬を持ってるからだよ。傷つけてたのは鬱憤晴らしだけでしかないの。分かった?」
「お、お前……! お前は悪魔だ!! お前のような奴は見た事ねえ!! 人間種の皮を被った悪魔め!!」
「別に私が悪魔でも問題ないね。私が悪魔のような事をするのはゴミ相手だけだ。私はね、やっていい奴にしかやらないんだよ? お前達みたいに他人を襲うようなゴミじゃないんだ。じゃあ、さっさと幸福になってもらおうか」
「い、いやだーー!! 助けて、誰か助けてくれーーー!! 廃人はイヤだーーーー!!!!」
注射器は本体が念の為に作っておいた物であり、予備もある。元々は<天生快癒薬>を直接注射しなければいけない程の事態に対処する為だったのだが、まさか幸福薬をブチ込む為に使う事になろうとは……。
血管に注射されたからかすぐに効き始め、あっと言う間に涎を垂らしてヘラヘラする廃人の出来上がりである。脳に触手を直接突き刺して洗脳するならまだしも、幸福薬をただブチ込んだだけではこうなるのだ。
面倒ではあるものの、誘導しながら聞いて行くと、コイツは<大鴉>の幹部の一人だった。ストーリーを作りその流れで聞くと簡単に喋っていく。幸福になっている所為で心の箍が外れている為、仲間だと認識すると簡単にペラペラ喋る。
それを利用しているのだが、遂に聞く事も無くなってしまった。最後にミクが任務を口にすると男はそれを了解し、”船の上から飛び降りる”という任務を果たした。ミクは敬礼をして見送ったが、ヴァルとレイラからジト目を貰っている。
「ほら……一応さ、任務だから。<大鴉>への新しい任務だからしょうがないね。奴は立派に任務を果たしに行ったよ、<大鴉>のアジトに特攻をかけるという任務を。必ずや果たしてくれると思う!!」
「戦友を見送るかのように言うの止めてちょうだいよ。絶対に滅茶苦茶だし、新人達だってベテランだってドン引きしてるわよ? 私達にとってみれば主がやる事だから気にしないけど、普通の人にとったら刺激が強いわ」
『そうだな。ちょっと刺激が強いだろうから、あまり人前ではやらない方がいい。俺達だけなら特にどうもこうも無いし、もっとエゲツない事もあったからな。それに比べれば遥かにマシだ』
((((((((((アレよりエゲツないって、何だよ!? 恐くて聞きたくないわ!!!))))))))))
「アレよりエゲツないって凄いですね。聞きたいような聞きたくないような……。お姉様方と居るには慣れた方が良いのでしょうが、私にはまだ難しいようです。最初は引いてしまいましたが、途中からは慣れましたね」
「アレに慣れるのは良い事だとは思えませんが、それでもアレ以上も覚悟しなくてはいけないのが傭兵でしょう。敵に容赦などしていたら殺される。私達もその覚悟はしなければ……」
「それでもルーナもヘルも上手く動けていたじゃありませんか。私は盾で体当たりしたのは良かったのですが、相手が魔法銃を落としていなくて焦ってしまいました。盾を使わない方が良い事もありますね」
「まあ、時と場合によるのでしょう。それでも魔法銃を防げる盾は大事ですよ。戦いの幅がグンと広がりますからね」
「いやー、それにしても見事だね。容赦の無さは人によるんだけど、アンタ達は満点だよ。敵に容赦は欠片もしちゃいけない。その結果、仲間や自分が死ぬ。そんな連中は山ほど見てきたからねえ。そんなバカどもに比べれば、本当に優秀だよ」
「それよりも、このまま見回りできそう?」
「いや、無理だね。一度NW03オアシスに戻って総点検さ。あいつらにおかしな物を付けられてる可能性がある。それにアンタ達も報告しなきゃならないだろ? <大鴉>の事をさ」
「えー、やっぱりしなきゃダメ? ……報告とか面倒臭いんだよねー。出来ればやりたくないなー、っと、そうだ! 良い事、思いついた!」
「別のお仕事で消えるとかは駄目よ、流石に怒られるわ。しょうがないんだし、ここチュッ!?」
「ん~チュッ! ねえ、レイラ。私の代わりに報告してくれる?」
「もちろんよ! 主が言うんですもの、私に全部任せてもらっていいわ! ええ! 私が全てしておくから、終わったら御褒美ちょうだいね!!」
「はいはい。レイラは可愛いねえ。ほら、ぎゅー」
「主///」
レイラはミクに抱き締められて至福の表情をしている。周りからは見えないのだが、それでも想像がつくほどミクに対して甘えた声を出しているレイラ。どちらかと言うと娘が母に甘えているだけなので、性的なものは感じない。
なので周りもそういう目ではなく、生温かい目で見ているだけである。三人を除いて。
セイランはレイラがミクを愛しているのを知っているので温かい目で、ヘルはレイラの事を羨ましそうに、そしてルーナは二人を見ながらミクの胸の感触を思い出していた。……どうやら、一人だけ茨木吾郎が出ている様だ。
都合よく何処かへ消えたと思ったら、こういう時には出てくるらしい。




