0363・砂賊<大鴉>
町の北に向かって歩いていると、既に大きな船が見えている。アレがブラックホークの大型船なのだろう。周りの建物は大きくても2階建てで、更には白い外壁の日光を反射する建物だ。ミク達は船に乗る前に頭用の防護布を買いに行く。
道行く町の人も頭に白い布を巻き、頭の後ろと左右から垂らす形で守っている。日光はそれぐらい砂漠では強敵なのだろう。ミク達であれば何の問題も無いのだが、していないと怪しまれる。その為、防護布を買って巻く。
店の人が巻き方を教えてくれたので、そこまで苦労する事も無く身に着けて大型船へ。ブラックホークのドッグタグを見せ、仕事に来た事を知らせる。ミク達のドッグタグを調べた奴が「ランクの高い奴は大歓迎だ!」と言い出す。
どういう事かと聞いたら「ランク6なら十分高ランクだろ?」と訝しがられた。なので、「ワイルドドッグはランク12だった」と言って誤魔化しておいた。ミクは自分がランク6だという事を知っているが、それがブラックホーク内でどの程度の実力なのか分かっていない。
ランク6でも新人や若手からすれば高ランクになるようだ。そんな会話を本体空間を通してヴァルやレイラとしつつ、大型船に乗り込んでいく。若手……というには厳つい顔の連中も乗っているが、年齢相応の若い奴も居る。
そんな中で船の縁に寄り、下を見るとなかなかの高さであった。NW03オアシスまで運んでくれたガレオン船ほど大きくはないが、なかなかの船をブラックホークも持っているらしい。
時間が来たので受付を締め切られ、ブラックホークの船はNW03オアシスから出発した。
出発したものの特に何かがある訳でもなく、ダラダラとした空気が甲板に広がる。何と言うか、見回り業務みたいな感じで真剣味が感じられない。恐らくは敵がブラックホークの大型船を攻めてくる事も殆ど無いのだろう。
だからか物凄く暢気に談笑している有様だ。もちろん船の連中が周囲を警戒してくれているが、これはベテランを募集する筈だ。大型船に万が一があったらブラックホークは大損なのだから当たり前である。
周りの連中の危機感の無さに呆れてくるが、厳つい顔の新人連中がおかしな動きをしている。「この連中、もしかして……」ミクがそう思っていると、突如魔法銃を抜いて空に向けて発射。他の仲間と思われる連中は、気を抜いていた新人たちに魔法銃を向ける。
「星系最大の傭兵組織がマヌケで助かるぜ。俺達は砂賊<大鴉>のモンだ。大人しくしてもらおうか。大人しくしてりゃ、船から優しく下ろしてやる。楯突くなら容赦はしねえがな」
「何を言ってるんだよ、お前ら。こんな事したらドッグタグをはくだ……!!」
事態を飲み込めていない新人が冗談だと思ったのだろう。即座に頭を撃たれて殺される。周囲から「うわぁー!」や「キャー!」という声が聞こえるが、新人は死ぬ覚悟もなく船に乗っていたのだろうか?。
ミクはそんな事を考えつつも、【念話】と本体空間を通しての話し合いで大凡の戦い方を決める。敵は全部で13人。その敵を全て伝え、それでも他に居るかもしれないので気を抜かないように言い、戦闘を開始する。
「チッ!! 動くなっつってんだろうが!!」
そう言ってミクに魔法銃を撃ってくるが、【魔力盾】で防ぎつつ接近していく。喋っていたリーダーっぽい奴は隙無く構えていたが、他の連中は男や女の品定めをしていたらしく反応が遅れた。
その反応が遅れた相手に対し、ルーナは素早く抜いて一閃。相手が撃つよりも速く、魔法銃を持つ腕を斬り飛ばす。ヘルもまた【魔力盾】で防ぎつつ、胡蝶剣で敵の手首を切り裂き武器を使えなくしていく。
セイランは【魔力盾】を使って防ぎ、盾を使って体当たりをしたり、柳葉刀を手首に振り下ろして切り落としたりしている。セイランの盾は魔鉄で被覆しているので、魔法銃如きは魔力を流すだけで防げるのだが魔法で防いだようだ。
ヴァルは魔法銃を避けながら接近し、相手の腕を持って逆側へと圧し折る。それだけで相手は魔法銃を落としたので拾って収納しつつ、別の敵に向かう。レイラも攻撃を避けつつ敵に近付き、紫魔鉄のナイフで敵の魔法銃を持つ指を切り飛ばしていく。
あっと言う間に倒されて行くが、リーダー格の奴は逃げる算段を用意しているのか冷静だ。ミクが不思議に思っていると中から人質を連れた奴が出てきた。どうやら船長らしい。女性だが、あれで人質のつもりだろうか?。
「おいおい、お前ら簡単にやられるんじゃねえよ。それより、見りゃ分かるだろ? この船の船長の命を助けてほしけりゃさっさ……」
ミクは船長の方を見て、即座に船長に対しナイフを投げる。それは狙いを違わず船長の胸に突き刺さった。船長は膝から崩れ落ちて倒れ、それを見た者達は全員言葉も無く立ち尽くす。リーダー格の奴も声が出ないらしい。
「で? 人質は居なくなったけど、どうするの? ああ、心配しなくてもいいよ。船長は<大鴉>とかいう奴等に殺されたからね。砂賊の奴等は本当に卑劣だよ。許せないね!」
「……てっ、てめぇ!!! オレ達に罪を擦りつける気か!!? ふざけやがって、クソがーっ!!!」
船長を連れてきた奴とリーダー格の男は一斉にミクに対して魔法銃を撃つが、ミクには全く効かず【魔力盾】で全て防がれる。その間に一気に接近したミクは、船長を連れてきた奴の足を前蹴りで圧し折り、顎を掌底でカチ上げた。
それだけで気絶し倒れる砂賊。リーダー格の方はヴァルに横から蹴られて左足が折れ曲がり、レイラが一気に接近して首を絞め、そのまま覆いかぶさり気を失うまで絞め続けた。
ミクは素早く船長を仰向けにすると、<天生快癒薬>を飲ませてから【超位回復】を使いつつナイフをゆっくり抜く。船長の体は傷など無かったかのようにあっさりと回復。傷跡も残らずに終わった。
「いやー、ありがとう。助かったよ。いきなり頭の中に声が聞こえてさ、私の頭がおかしくなったのかと思ったら、【念話】なんてスキルがあるんだね。初めて知ったよ。そのうえ後で治療するからナイフを投げさせてくれって、面白い事を言うものさ!」
「そんな事を言われて、あっさりOKを出す貴女も相当だと思うけど?」
「ハッハッハッハッハッ! 私の場合は船を盗られたら終わりだからね。仮に命が助かっても、私が一生体を売り続けて返済できるかどうかさ。それなら殺されるかもしれない手に乗った方がマシだよ。色々な意味で助かる可能性は高い」
「流石に死んだヤツから負債の回収はできないだろうからね。一人死んだけど、コイツは自業自得だ。砂賊が船を乗っ取ろうとしているにも関わらず、緊張感の欠片も無く冗談だと思って聞き返すなんてね」
「そんなことしたのかい? そりゃ殺されても仕方ないねえ。そもそも傭兵なんだから、見回りでも何が起こるか分からないんだ。緊張感持って仕事しなきゃいけないに決まってるだろうに」
「それが分からないから、こんなところで死ぬんでしょう? 死ぬ奴とそうでない奴は、こういうところで分かれていくものよ」
『そうだな。死ぬ奴は大抵どこかが甘いのだ。だから死ぬ。死なない奴との差はその程度だが、その程度で生死が分かれるのが戦いであり、殺し合いだ』
殺された奴の仲間が何か言いたそうにしていたが、レイラとヴァルの言葉に黙った。下らない事をしなければ死ななかったのは確かであろう。真剣に受け止めないから死ぬのだ。




