0361・NW03オアシス
「ま、それはいいよ。それより最初の依頼を何にするかが重要。最初でケチの付く仕事だと、さっさと別の星に行った方がいいと思う。元々あんまりいい星じゃなさそうだし、三人も登録してドッグタグを作れたしね」
『ガドムランの手が回っているかとも思っていたが、それは無かったようだしな。まあ、公にはできんだろうし、公表したら問題が大きすぎるとは思うが……。誰かが起死回生の策としてやりそうな気もするな』
「起死回生となれば身内でしょうが、私はヴィルフィス帝国か、イェルハムラ聖国、もしくはパラデオン魔王国が流しそうな気がします。市井に噂が流れればガドムランにとっては大打撃でしょうから」
「まあ、欲から家臣の家を滅ぼして奪うのでは信用はされないでしょうね。場合によっては星国に従っている惑星が離反しかねないし、そういった星を他国に奪われかねない。それが分かっていても、欲を抑えられなかったと……」
「星王家は地盤が弱いのですが、その理由は富の少なさにあります。なので手っ取り早く手に入れようとしたのでしょうね。今までの星王はそれを思い止まってきましたが、今代は我慢出来なかった……」
「また話がズレてる。最初の依頼をどうするかの話だよ、依頼の話」
「あ、そうでしたね。最初の依頼……あの、私が決めてもいいですか? もし良いのであれば、オアシスの防衛がいいです。理由は、砂上船とか無くてもお金が稼げそうだからなのですが」
「うん、それでいいんじゃない? 決める理由なんて割と適当でいいんだよ。重要なのは決める事だからね。後は仕事をすればいいだけだよ。さて、食事も終わったし、そろそろ行こうか」
食堂での食事と話し合いが終わり、ミク達は大型の砂上船乗り場へと移動する。一人一万セムでNW03オアシスへと運んでくれるらしい。近くのオアシスの中で一番大きいらしいので、まずはそこに行って仕事をする。
ミク達は砂上船に乗り、移動していくのだった。
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現在、砂上船に乗って移動中のミク達。大型の砂上船は、ガレオン船のような形の物だった。もちろん船底は平らで、スキー板みたいになっているので違いはあるのだが。そんな砂の上を走るガレオン船の甲板の上で、ミク達は周囲を見ている。
その下ではボートのような小さな砂上船が群れのように並走しており、時折魔法銃を撃ってきている。ミクは甲板の左側で、ヴァルとレイラは甲板の右側で敵の攻撃を防いでいた。ちなみにミクと一緒に居るのはルーネとヘルだ。セイランはヴァルと離れる気は無いらしい。
ミク達が防いでるだけなのは、手の内を晒す気が無いからであり、その為に魔法銃すら使っていない。ルーナ、ヘル、セイランにも【魔力盾】の練習の為、魔法を使って砂賊の攻撃を防がせている。
おかげで余裕を持って大型船は反撃が出来ているようだ。大型船には【魔力盾】の魔道具も積んであるのだが、それは魔力消費が激しく使いたくないらしい。使うと船が動かせなくなる虞がある。
船を推進させる魔力と、【魔力盾】用の魔力は同じ物を使っているらしく、船の足が止まると狙い撃ちにされるだけなのだそうだ。横に居る船員がミクに細かく教えてくれている。
ルーナやヘルの近くにも居るが、ミクの周りが一番多い。これは女性がどうこう以上に、ミクの周囲が一番安全だからだ。船員達にもそれは分かっているので、ミクの近くで戦っている。まあ、ミクは自分の近く以外の攻撃も防いでいるのだが。
砂賊も多く殺され、こちらの船を止める事が出来ないと悟ったのか離れていった。砂上船に乗る客が沸き立つが、船長が近付いて感謝を述べてきた。
「いや、ありがとう! 助かった!! あの砂賊どもは最近出てきた勢力でな、こちらを無理矢理に止める為に様々な攻撃を強引にやってくるんだ。昔からの砂賊は駄目ならすぐに諦めるんだが……」
「それもおかしい話だね。何で砂漠の盗賊が簡単に諦めるのさ? それなら砂賊なんてやらないでしょ」
「ははははは! 言いたい事はよく分かる。だけどな。奴等とて失敗しなきゃ駄目なのさ。盗賊が毎回成功してたら誰も近寄らないだろ? そうなるとガドムランが出張ってくる。ここはガドムラン星国の統治下にあるからな、星国の軍が出てきたら砂賊も終わりなんだよ」
「成る程。砂賊としては適度に失敗しておかないと、軍を呼ばれてしまうし客も逃げてしまうと。だからこそ、古くからの砂賊は無理をしない。でも、新興の勢力は強引に事を進めようとする」
「ああ、お嬢ちゃんの言う通りだ。新興の奴等ってのは大抵強引なもんだが、奴等はやりすぎなんだよ。それに古くからの砂賊の連中が邪魔な新興なんて潰す筈なんだが……何故か奴等の活動は活発なまま。嫌な予感はしてるんだよ、こっちも」
「古くからの砂賊の中にも迎合する者が出てきている? または古くからの砂賊が新興勢力に負けている? ……どっちにしても面倒でしかありません。決着が着く前に軍が出て来ないといいのですが……」
「軍の力は強力だけど、必要なら焼け野原にするって聞くし、あまり良い事ではないでしょうね。それまでに沈静化してほしいところだわ。まあ、私達が沈静化させなきゃいけない傭兵なんだけども」
「なんだ、お前さん達は傭兵だったのか。通りで魔法が使えるエリートな訳だ。国に仕えてる奴等よりも傭兵やってるエリートの方が儲かるらしいからなぁ。その分、命の危険は格段に大きいだろうが」
そう言って船長は船の中に引っ込んで行った。中の客に無事な事をアピールしに行ったのだろう。船長が無事だと言えば落ち着くだろうし。それはともかく、新興の砂賊に関して少し考え込むミク。またぞろクーロンでは? という思いが拭えない。
思えば最初の戦場からクーロンと関わりがあるのだ。奴等はこの星系で悪事ばかりを手広くやっているのだろうか? それとも、ワザと争いを起こしているのだろうか? <間引き>という言葉も浮かぶが、早計に決めるべきじゃないと考えを消すミク。
今は一つずつ情報を得ていく時だろう。
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あれから半日、ようやくNW03オアシスに到着した。それなりに遠かったものの、砂上船の足も速かったので半日で着いたとも言える。ミク達は船を降り、まずは宿をとりに行く。町の人に聞き、大人数で泊まれる宿へと移動。
大きめの宿に着いたので、10泊を予定している事を伝えると少し割引してくれたようだ。それでも1泊8000セム、十日で8万セムだった。さっさと払い、ミク達は少し早い夕食に向かう事にする。
酒場に入り、美味しそうな物を注文していくメンバー。お金は気にしなくていいので、美味しい物を食べていく。ルーナ達はお酒も頼んだようだ。ここは砂漠のオアシスだが、庶民の酒はビールらしい。
何故かと聞くと、砂麦の一種である<デサンド麦>で作れるからだそうだ。<デサンド麦>に関してはセイランが詳しかったので聞く事にし、店員に「ありがとう」と言ってセイランから話を聞く。
「<デサンド麦>というのは今でこそポピュラーな砂麦ですが、かつては<奇跡の砂麦>と呼ばれたほど生命力に溢れた麦です。砂麦の中でも最も水が少なくても育つ品種で、更には収穫量も多い麦となります」
良い事ずくめな気がするが、あまり表情が良くないセイラン。ミクは急がせずに話を聞くのだった。




