0359・砂漠惑星SOW264
「色々考えてみたんだけどさ。結局のところ、この売春惑星に居る限りは安全なんだよね。特にどうこうという事も無いし、ここは買う奴しか来ない。それも大半はガドムランの貴族。そのうえ、多分だけど誰も王に情報を上げていない」
『もし情報を上げていれば、とっくにファイレーセ達は消されている筈だ。同情心からか何からかは分からないが、実に都合が良い。バレていない間に準備を整えて脱出しよう。偽名を使って傭兵になればいい』
「そうね。私達も傭兵だし、折角だから家名も捨てて名前だけになった方がいいわ。もちろん忘れろとは言わないけれど、公式に名乗ると碌な事にならないでしょう。狙われ続ける生活になるわ」
「そう……ですね。シュネもホリーもそれで良いかしら? ……ええ、私達は一蓮托生。五年もの間ともに生きてきたんですもの、今さら離れ離れというのはね」
「ええ。私もでございます、御嬢様。特に過ごした時が私達の絆であり、これから生きていくうえでの大事な繋がりです。ええ、もちろんミクさん達との繋がりも」
「私もそうです。御嬢様とシュネとの絆もあり、そしてミク殿やレイラ殿との繋がりも、そして何よりヴァル殿への愛がありますから///」
「「………」」
そんな話の横でミクは、ベッドなどに【超位清潔】を使った後、イヘルジャラ伯爵を寝かせ洗脳を行っている。ここで喋った事を忘れ、性欲を食欲にすり替え、最後に脳を操って強制的に精を搾り出しておく。
ファイレーセ達から白い目で見られているが、脳を直接に操った快楽である。あらゆる全ての快楽に勝る、意識を失っていないと精神が崩壊する程の危険さだ。それを知ったファイレーセ達は顔が真っ青になっているが、それも当然であろう。
全ての始末を終えたミク達は、特別室から出て職員に声をかける。いつもよりも遥かに早く終わった事を訝しんだものの、派手に精がブチ撒けられた部屋を見て理解した職員は応援の手を呼びに行ってしまった。
ミク達は仕方なく職員が戻ってくるまで待ち、所長が来たものの部屋の惨状を見て理解する。所長が指示をして気絶した貴族を別の部屋に移し、特別室を掃除していくのだった。尚、ミク達も手伝わされたが、その御蔭か早く終わったので職員には喜ばれた。
その後、仕事も終わりという事で、ミク達はいつもの湖へと体と服を洗いに行く。当然のようにファイレーセ達もついてくるのだった。
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あれから半年ほど経った。未だにファイレーセ達の居所はバレてないが、この惑星から脱出する準備は整っている。魔物を殺して肉を手に入れ、更には森の中の野草なども入手。食料の準備は完了した。
ファイレーセ達を本体空間に置いて時間の進み方を変える。現実よりもゆっくりにする事で、現実時間の方を早める形にする。これで一日~二日ほど我慢すれば別の星に行けるだろう。後はそこで傭兵登録をすればいいだけだ。
そしてその作戦を決行する日が来た。多くの者が寝静まった夜。ミクはムカデに姿を変えて1号宿舎へと行き、ファイレーセ達を確保して本体空間へと送った。その後、ムカデの姿をとり外へ。
外へ出たら鳥の姿になり一気に飛んで他の島へ。実は売春をしていた場所は大きな島だったのだ。そこと通常の農業をしている場所は別れており、遠く離れている為に移動は不可能となっている。普通は。
肉塊ならばさっさと飛んでいけば済む為、大した距離でもない。そして今日は農業惑星GEMA915から宇宙船が発進する日なのだ。なので鳥の姿で飛んでいき、宇宙船の貨物部分に潜りこむ。
この星から出れば、後はどうにでも出来るだろう。そんな思いと共にミクは宇宙船に近付き、貨物部分の隙間を探す。見つけたので外から小さな穴を空けて侵入、その穴を中から綺麗に塞いだ。【錬成術】を使ったが、見られてないのでセーフだろう。
流石に脱出の為だし、神々も文句は言うまい。これがダメなら人間種にくっついて乗り込む事になる。そちらはバレる危険性が多少なりともあるのだ。今は出来るだけ見つかりたくなかった。
本体空間で暇を潰していると宇宙船が発進、農業惑星GEMA915から離れていく。この星でも色々あったが、次の惑星では一息吐けるといいなと思いつつ待つのだった。
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宇宙船に乗り込んでから五日、本体空間では一日半。そろそろ次の惑星には着くだろう。さすがに肉と野草の食事に飽きているファイレーセ達が文句を言っている。とはいえ、あそこでは魔物肉と野草以外は盗むしかない。それをしろという事か? そう言うと黙った。
ファイレーセ達の私物は沢山持って来ているが、あそこは食事関係が無い。高いお金を出せばお菓子ぐらいなら手に入れられたのだが、それをすると怪しまれてしまう。結局、服などしか持ち出す事は叶わなかったのだ。
宇宙船が着陸し、そして停止した。様々な乗客が降りていくと同時に貨物室が開く。ミクは素早く外に出て、一気に移動していく。宇宙船の貨物室から出た小さな小さなムカデなど、誰も見なかったし気づく者も居なかった。
ミクは発着場から出ると、ある程度移動してから<女性形態>に変化する。今は発着場から見えない丘の向こうで服を着ている最中だ。ファイレーセ達が半年の間に準備してくれた普通の服であり、着ていても怪しまれない服となる。
流石にシャツとズボンだけでは怪しまれるので、ファイレーセ達に購入してもらっていたのだ。ミク達はイヘルジャラ伯爵以降、性欲と食欲をすり替えていたが、平民相手にはしていない。
あの売春所を利用するのは、何も貴族だけではなかったので客が減る事はなかった。単に単価の高い、貴族客が来なくなっただけである。なので存続はするだろうが、薄利多売の売春所になるだろう。
それはともかく、あそこには内部にランクという査定があり、高ランクでないと買えない商品も沢山あった。ミク達は利用した事が殆どなく、サンダルなどを買ったくらいであるが、ファイレーセ達は結構利用していたらしい。それぐらいしか娯楽がなかったと言っていた。
その服を着込み、更にはブーツを履く。それはいいのだが、見渡す限り一面の砂漠である。ここは砂の惑星であろうか? とりあえず準備は整ったのでヴァルやレイラにファイレーセ達を呼ぶミク。
肉を通して出てきたファイレーセ達は、熱い陽射しを浴びて「うっ」と声を出した。
「ここは……どう見ても一面砂漠ですね。砂漠の惑星……映画に出てきそうな惑星ですが、何処かで聞いたような? 何処でしたっけ?」
「御嬢さ……いえ、ルーナ。おそらくここは砂漠惑星SOW264だと思います。別名<砂金と死体の惑星>と呼ばれる、常に争いの絶えない危険な星です」
「ああ、あの砂金の取り合いをする星ですか。確か砂上船という船で移動する星だった筈で、まともな生き物は生きていけないという過酷な星であった筈。魔物の肉以外は栄養補助食品に頼る事になりそうですね」
「でも、確かオアシスは点々とあって、そこで農業をしているんじゃなかった?」
「そうですけど、確か瑞々しい野菜は高級品だったような……」
新たに傭兵として生きる事にした三人は名前を変えている。ファイレーセはルーナシェーラ。シュネはヘル。ホリーはセイランという名前に決めた。今後三人はこの名前で生きていく事になる。
それはさておき、脱出できたものの厄介そうな星である。そんな事を思いつつ、アイテムバッグと魔導二輪を出すミク。
それぞれの後ろに三人を乗せて、ミク達は道路に出ると町へと移動するのだった。




