0358・トルカント侯爵家滅亡の真実
所長の不満を解消してやった次の日、イヘルジャラ伯爵と貴族の相手をする仕事の日である。朝から仕事がある為、今日の農作業は免除されたミク達。同じ23号宿舎の者からはブーイングが出るが、これは仕方ない。ミク達がいれば午前中で終わるからだ。
とはいえ、そんな事に構うミク達ではないし、職員とてわざわざ聞いたりなどしない。そんな中、1号宿舎に移動したミク達はファイレーセ達と合流。その足でイヘルジャラ伯爵達が来るという特別ルームへ案内される。
そこには誰も来ていなかったが、この部屋で待つように指示されたので大人しく待つ。何故か直前になってヴァルも呼ばれたのがよく分からないが、向こうの要望なのだから仕方ない。ファイレーセ達は嫌な予感が拭えないでいた。
そんな嫌な時間を過ごしていると、ドカドカと部屋に入ってくる男達がおり、その中にイヘルジャラ伯爵というのが居たのだろう。ファイレーセ達は作り笑顔で迎えるが、それを見て「ニンマリ」している。……性格の悪い爺だ。
「いやいや、お久しぶりですなファイレーセ嬢。今日も楽しませてもらいますぞ? ……それと、そこの女が噂のあった者か。平民らしく大した事のなさそうな顔をしておる。まあ、ワシが相手をする訳ではないから如何様でもよいがの」
その言葉を聞いてミクはイヘルジャラ伯爵を上方修正した。本気で大した事がないと思っているようなのだ。ミクの容姿と体の造形は<美の女神>が監修したものである。それを”大した事がない”と言うのだから凄い事であろう。
それはそうと、イヘルジャラ伯爵以外にも自己紹介を受けたが、それは右から左へと流していく。他の連中はミクとレイラを見てニヤニヤしており、一部の奴はヴァルを見てヒソヒソ話している。
そんな貴族どもを見ていると、イヘルジャラ伯爵はファイレーセ達を連れて奥の別室へと移動してしまった。貴族達もさっさと服を脱ぎ始めたので、バカどもの相手が始まるようだ。ミクとヴァルとレイラは内心溜息を吐きながらも、作戦通りに動いていくのだった。
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ミクとレイラに搾り取られて気を失った貴族が9名。ヴァルに掘られてブチ撒けて気絶した貴族が3名。計12名から洗い浚い全てを聞いていく。その結果は下らない情報でしかなかった。政敵のスキャンダルらしき情報とか、そんなものばかりである。
これではダメだと思い、洗脳を終えると奥の部屋へと向かう。扉の極僅かな隙間から触手を入れると、中でファイレーセが相手をしていた。必死に嫌悪感と戦っている顔であり、それを見たミクは高速で睡眠薬を散布する。
それでも広い部屋なので時間は掛かるが、効いてきたのだろう。ゆっくりとした緩慢な動きになってきた。イヘルジャラ伯爵の方も眠る寸前のようになっており、このまま散布し続ければ寝るだろう。
……散布し続け寝たのを確認したら、触手を使って内側から鍵を開ける。極僅かでも隙間があれば触手を捻じ込むなど容易いのだ。内側から鍵を開けたミク達は部屋の中に入り、素早くイヘルジャラ伯爵の頭に手を乗せる。
そこから触手を突き刺して脳を支配、それからファイレーセ達を起こす。イヘルジャラ伯爵は脳を支配されている為、そもそも意識が無い。起きたファイレーセ達に事情を説明し、イヘルジャラ伯爵から聞いていく。
「お前は何故急に私達を呼んだ? そもそもお前の目的はファイレーセではなかったの? もしそうであれば、何故私達を呼ぶ必要があった?」
「お前達を呼んだのはトルカントの娘に絶望を味合わせる為だ。連れて来た連中がお前に薬を使って精神を破壊し、それをトルカントの娘に見せ付ける事で心を折るのが目的だ」
「そういえば事を始める前に、何かの成分が入った物を飲まされたわね。アレが精神を破壊する薬かしら? 主が再現出来るみたいだけど、再現する意味は無いわね。色々な意味で使えない薬よ」
『そうだな。あんな物は俺達には効かんし、仮にファイレーセ達に使われても<天生快癒薬>を飲ませれば治るからな。色々な理由で意味が無い』
「「「………」」」
ミク達の言葉に唖然とするファイレーセ達。自分達が適当に飲まされていた薬がとんでもない物だと、ようやく気が付いたようである。とはいえ、ミクにとっては無限に作り出せる物でしかないのだが……。
「お前は何故ファイレーセに執着する? そもそもトルカント侯爵家は伯爵家より上の家だろうに、何故トルカントと呼び捨てにしている? それとトルカント侯爵家はどうなった?」
「既にトルカント侯爵家は無い。ワシらが共謀して潰したからな。ファイレーセだけはワシの好みだったので売春惑星へと連れ込んだ。星王陛下の命では一族全員を皆殺しにする筈だったのだが、惜しかったのでな」
「「「星王陛下!?」」」
『何となくではあるが、星王というのはガドムラン星国の王の事か? ……やっぱりそうか。それはいいとして、何故ガドムランの王が侯爵家を亡き者にしようとする? 命令すれば済むだろうに』
「星王陛下が欲したのは惑星オリウムスだ。あそこはトルカント侯爵家の富の元だからな。それを手にせんと侯爵家を潰す事に決められた。ワシらはその”おこぼれ”を貰ったにすぎんよ」
「星王陛下が………そんな事を。ではトルカント侯爵家は潰れるべくして潰れたという事ですか。時の王に目を付けられて、準備をしたうえで事を起こされてはどうにもなりません。言葉は悪いですが、どんな事でも握り潰せるでしょう」
「トルカント侯爵家への仕打ちで、貴族は二分されてしまった。明日は我が身だからな、誰もそんな危険な王に忠義を尽くしたりなどせん。片棒を担いだワシらとて忠義からではない。御蔭で白い目で見られておるわ」
「それは自業自得でしょうに。それはともかく、ファイレーセはどうするの? この男の証言で、トルカント侯爵家を潰したのはガドムランの王だと分かったわ。惑星オリウムス欲しさ……って、オリウムス?」
「我が家の始祖の名が付いた惑星、そこはゴーレムが自然発生する惑星なのです。つまりゴーレムコアの産地。ですからこそ、星王陛下は欲したのでしょう。ガドムラン星国最大のゴーレム惑星である、オリウムスを」
「まあ、それはもう言っても仕方ないから横に置くとして、コイツはどうする? 今ならどうにでも出来るけど。ちなみに外の奴等は今までのと同じく、性欲を食欲にすり替えてやったよ」
「………外の者達と同じにして頂けますか? イヘルジャラ伯爵に仕返ししたとて父上や母上が帰ってこられる訳ではありません。それに、ここで何かをすれば私達が生きている事が星王陛下にバレてしまいます。その方がマズイでしょう」
「確かにそうだね。コイツも片棒を担いでいたヤツだけど、コイツの御蔭で命が助かったとも言える。なかなか面倒臭い真実だったね。まあ、得てして事実とはこういうものだけどさ」
「しかし………御嬢様、これから如何いたしますか? トルカント侯爵家が無くなっており、更には星王陛下が欲のままに潰されたとなれば、私達はガドムラン星国に帰る事はできません」
「そうですね。もし私達が生き残っている事が知られれば、確実に殺されてしまうでしょう。どうにかして逃げ出さねばなりませんし、思っている以上に立場が良くありません」
確かにこのままではマズイ。ミク達もどうすればいいか、思案するのだった。




