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0035・マリオ町の宿にて




 食事を終えて宿の一室に入るミクとヴァル。そこでようやく視線が無くなったので、二人で話していく。ただし【念話】で話す為、誰かに聞かれる心配は無い。



 『貴族の娘? お嬢? とか呼ばれてた女の部屋に色々な物があったけど、お金はともかく、ここの代官をしている男爵の手紙があったね。本体が確認したけど、言ってた通りに裏切る予定だったみたい』


 『ああ。俺の予想では嫌がらせの件も含めてやっているかと思ったが、そっちは唯の私怨らしいな。いや、嫉妬という方が正しいのか? 「成り上がり」を潰してしまえ、なんて書くとはな』


 『<血塗れ鎧のクレベス>って言ってたし、その戦争とやらで活躍したんじゃない? それで自分の領地を与えられ、それに嫉妬した奴が嫌がらせをしていた。そんな感じじゃないかな。嫉妬とかは分かりやすくていいね』


 『そういう感情ばかり分かるようになるのも、どうかと思うが……。それより娘をブチ殺して喰ったが、貴族の方はどうするんだ? 貴族も喰うとなると、何がしかの揉め事を引き起こすかもしれん』


 『ちょっと前にも言ったけど、今は喰えてるから無理に食べたりはしないよ。こっちに関わってこないなら放っておく。あの村から情報が伝わって私のほうに来そうだけど、その時に考えればいい』


 『まあ、主なら遅れてもどうにでも出来るだろうからな。そこは心配していない。ならば今日は適当に過ごし、明日の朝早く、さっさとこの町を出て行くべきだな。次は北に進むんだったか』


 『そうだね。ゼルダはバルクスの町に来るのに時間が無駄に掛かったって言ってたから、本来ならそこまで時間は掛からなかったんだと思うよ。だから次の町まで一日で良いんじゃないかな?』


 『まあ、そうだな。ゼルダも「本来なら五日で来れていた筈」と言っていた。こちらが五日で行っても、不思議に思われたりはしないだろう。ゼルダのように、冒険者ギルドで調剤などを求められはしないだろうしな』



 ゼルダは雑貨屋のような店を経営しているが、実際には王国に居住する凄腕の薬師でもあった。魔女というのは様々な事を生業にしている者が多いが、その中でもゼルダは薬の一派に属している。


 他にも魔道具の一派や、魔法の研究の一派もあり、永遠の寿命を使って好きな事をしているのが魔女だ。セルダのように店を経営している魔女というのは、かなり珍しい部類に入る。


 普通の魔女は高額で売れる何かを幾つか売り、その収入で一年を過ごしている者が大半なのだ。それが薬であったり魔道具であったり、魔法用の触媒であったりと違うだけで、継続して経営し続けるという暇人は少ない。


 他の魔女からすれば、莫大な値で売れる物が作れるのに、どうして小額の物をセコセコ作らねばならないのか? となる。ゼルダからすれば、お前達の所為で魔女の印象が<強欲>になってるんだ! と言いたいだろう。


 ちなみに、そこにはゼルダの師匠も含まれる。いや、彼女の師匠が一番強欲だとすら思われている。………魔女仲間からも。


 そんな裏話を何となく思い出しながら、本体が調べている男爵の娘の持ち物を把握していると、奇妙な物が出てきた。それは呪いを持つ道具、すなわち呪具なのだが、何故か本体を呪おうとしない。


 ミクには呪いなど効かないのだが、それにしても変である。ここまで強い呪具ならば呪いを振り撒いて当然なのだ。にも関わらず、何故か一切呪いを撒き散らさない。不思議に思っていると、呪いの神が本体の元に現れた。


 そして呪具を見るや、ミクにこう言った。「それは所持者の悪意を増幅させる物だ。貴族の娘が使っていたという事は、着けた誰かが居るのだろう」そう言って、去って行く神。後は好きにしろという事だろう。


 なのでミクは呪いを喰った。しかし大した力にもならなかったのが悲しい結果である。呪いとして対した事が無いのか、ミクにとってははしたな存在でしかないのか、それは分からないが、あっと言う間に喰われて終わった。


 残ったのは金のリングだけだ。大した量の金でもない為、適当に変えてピアスにした。分体の左耳に着けて終了である。誰が呪いのリングなどを渡したのか知らないが、確かにアレは男爵の娘が着けていた物だ。


 謎が残ったが、夜も遅い。他には特に目を引く物は無かったので、ミクは分体を停止する事にした。既にヴァルは大元に戻っている。



 ◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆



 次の日の朝、襲われなかった事を残念に思いつつ、ミクは分体を起動し起き上がる。ヴァルも出てきて周りを警戒するも、特に然したる敵もいない。それを確認した後、ミクと共に部屋を出る。


 顔を洗ったり、口をすすいだりしてから食堂に行くと、冒険者が数人起きて食事をしていた。ミクも大銅貨2枚を支払い食事をしていると、町の人が大慌てで宿に入ってきて店主の髭モジャに話しかける。



 「おやっさん、大変だ! 男爵の娘さんが魔物に喰われて殺されたらしい! 何でも盗賊に攫われたらしいんだが、それを救出に行った兵士も魔物に喰われちまったんだと」


 「そりゃ、また……。他のトコにも伝えに行くなら気をつけてな。兵士に聞かれると、しょっ引かれるかもしれん」


 「分かってる! それじゃあ俺は他のトコにも伝えに行くよ!」



 そう言って青年は宿を出て行った。髭モジャは驚いた顔をしていたが、その表情を即座に消して思案顔になる。



 「おかしいのー。確か男爵の娘は盗賊と共に悪さをしとった筈だぞ。何で攫われた事になっとるんだ? そのうえ魔物に殺されましただと? ……盗賊と繋がっとる事を隠蔽する為に殺したのか?」


 「さてな。おやっさんの予想が当たってそうだけど、それじゃあ兵士まで喰われた事に説明がつかないぜ? 流石に生きている兵士を死んだ事にはせんだろ。そこまで大規模にしたら余計にボロが出る」


 「そうだの。だが、男爵の娘が盗賊どもの味方だった事は確定しとる。その後、何かあって魔物に強襲されたか? 盗賊と兵士と魔物の三つ巴になった可能性が高そうだが……。ま、後はどうでもいいか」


 「そりゃな。男爵は娘以外には跡取りは居ないし、どうすんのかねえ。弟しか継げないが、弟は確か犬猿の仲だろう? こーりゃ、面白い事になりそうだぜ。嫡男っていう理由だけで、運良く継げた奴だからなぁ」



 どうやら馬鹿はこれから骨肉の争いをするらしい。ならば放っておいて問題無しとして、ミクは食事後すぐに宿を出た。町の北門へ行き、登録証を見せて外に出る。


 朝早いのにも関わらず、数人ミクを追いかけてきた。しかしヴァルが大きくなった事で驚き、その間にミクは乗ってさっさと走って行く。今は肉が喰えているので、いちいち邪魔される方が鬱陶しかったミクであった。


 そのままドンドンと進み、ユゲ村とリラ村を越えて、サコロ町まで辿り着く。今日は昨日よりも早かったが、道中何も無かったからだろう。サコロ町に入ったミクは宿を探して町の人に聞く。


 見惚れている者達を正気に戻しながら話を聞き、一軒の宿に入った。中央通りの中心にある宿で、高そうではあったのだが料理の美味しい宿だと聞いたので入る。


 宿泊料は大銅貨5枚、食事は大銅貨3枚と高かったが支払い、テーブル席でゆっくり待つ。少々夕食には早いが他の客が居ない為、静かに食事が出来る。


 いちいち面倒な連中に絡まれたくないミクは、さっさと美味しい食事を食べて部屋に移動するのだった。


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