0344・宇宙の盗賊
ミク達が朝焼けの綺麗な空気の中、軽快に魔導二輪を飛ばしていると目的の発着場が見えてきた。大きな翼の無い飛行機? みたいな物が見える。アレが宇宙を移動する為の宇宙船なのだろうか?。
あそこまで飛行機に似ている形というのは不思議だが、翼が無いので奇妙に見える。しかも飛行機の胴体に比べて横幅が広い為、ずんぐりむっくりに見えるのだ。首を傾げながらも、ミク達は発着場に近付く。
発着場横の建物の傍まで来たので魔導二輪から降りて仕舞い、発着場の中に入っていく。少々早すぎたのか警備員に止められたが、ドッグタグを出して遅れないように早めに来たと言うと納得された。
まだ空いてないので手続きの仕方とかを聞き出していると、どうやら発着場の業務が始まったようだ。警備員に感謝を言って中に入り、幾つかの星の説明が書かれた掲示板の前に行く。一つずつ確認していると、良い星を発見した。
その星は農業惑星AOM41というそうだ。農業の邪魔をする魔物を倒すなど、それなりの仕事があるようなので行く事に決める。とはいえミクにとっての一番は、惑星の中では食事が美味しいと書かれていたからである。
農業惑星では様々な物を作っているらしく、そういった作物も安く買えて美味しい物が揃っているらしい。食品の保存技術は発展しているようだが、採れたてが美味しい事に変わりは無い。だからこそ決めたともいう。
ミク達はさっさと受付に行き、一人17万セムを払うと搭乗ゲート前で時間を潰す事にした。農業惑星AOM41行きは一番早く出発する事も、ミクが行き先に決めた理由でもある。とにかく面倒臭いのはスルーして離れたかったのだ。
目を瞑り、寝ているフリをしながら会話をして時間を潰す。本体経由で話せる為、誰にも察知されずに会話をする事は三人だけならば可能だ。森で戦っていた時に意思疎通をしていたのも同じ方法だが、これだけは傍受する方法が無い。
【念話】の傍受というのは可能なのだが、本体空間で意志の疎通をしている為、本体空間を認識出来なければ傍受する事は不可能である。だが、本体空間の座標を特定する事自体が不可能なのだ。何故なら、ミクですら知らないのだから。
そうやって三人だけで会話をしていると搭乗時間になったので、宇宙船に乗り込んでいく。乗り込みさえすればこちらのものだし、早々に第四坑道の最奥まで行く事は不可能だろう。最奥の空間が見つかる前に、この星を離れられる。
宇宙船に乗り込んでゆっくりしていると、次々に乗客が乗り込んできて満席になった。この宇宙船は幾つかの星に行くのだが、一番先に行くのが農業惑星AOM41である。この惑星はヴィルフィス帝国最大の農業惑星であり、帝国の作物の6パーセントを作っている。
6パーセントと聞くと少ないように感じるが、星間国家の6パーセントというのはとんでもない量である。惑星の大きさもさる事ながら、星全体が農地の為に出来る事だ。ヤマトのあったネオガイアの全てが農地と考えれば莫大なのが分かる。
AOM41という惑星はネオガイアより大きいらしいので、その作物の総量というのはバカげている程である。そして農業機械を使っているとはいえ、その星で暮らしている農家もとんでもない数なのだ。
何故なら惑星で暮らしている90パーセントは農家であり、それだけの人数がいないと農業が成り立たないとも言える。どうも帝国では大規模農業はされているものの、なるべく人を多く使うようにしているらしい。
この辺りは雇用の問題であり、人を減らせば何でもいいとはならないのだ。コストを減らすには人を減らした方がいいが、減らしすぎて帝国民が路頭に迷うのは避けなければいけない。なので一次産業は多めに人を配しているようだ。
ネオガイアではそれぞれの国が国民に教育を施していたが、この宇宙の星間国家では教育が行き届いていない。星間国家として国が大きくなりすぎたのである。それ故に全てに目を配るのは不可能となった。
だからこそ、教育を受けている人とそうでない人の差が激しい。とはいえ、教育を受けていない者でも就ける職業がある。それが傭兵と一次産業だ。特に農業と漁業は専用の惑星があり、そこで働くならタダで送ってもらえる。
それが星間国家時代のセーフティネットらしい。国が大きくなればなる程に目が届かなくなり、秩序が崩壊していくのだろう。とどのつまり、国を大きくし過ぎたバカの所為だと言えるのかもしれない。
大きな国が出来れば、それに対抗する為に他の国も大きくなるだろう。秩序を崩壊させながらも大きく徒党を組まねばやっていけない。国が大きくなるのも憐れな結果にしかならないのかもしれないと思いながら、MASCを使うのを止めたミク。そろそろ離陸だ。
発進し、後方に押し付けられながらも飛び立つ宇宙船。飛行機は墜落の危険性があったが、宇宙船は宇宙まで出れば問題無い。そうすれば落ちる事も無いからである。AOM41は最初に着く惑星だが、それでも8時間ほどは掛かるらしい。
なので星に着くまで寝ていようと思うミクであった。ちなみにミクの席は窓際で、その隣にはレイラが座り、通路に面した席にはヴァルが座っている。ヴァルならば変な事はされないだろうという事で、こういう座り順にした。
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(おかしな奴は寄って来ないが、こちらに悪意を向けてくる奴はチョロチョロと居るな。流石に周りに人が多いからか、おかしな真似はしないようだが……。直ぐに動ける態勢を維持しているが面倒な事だ)
(それ以外にも他の方向へ悪意を向けている奴が居るわね。もしかしたら宇宙船を乗っ取ろうとしているのかしら? 人質にとって……とか考えている可能性は否定できないわ)
(それならそれで放っておけばいいよ。睡眠薬を散布して眠らせて捕縛すれば済むんだし。この宇宙船を破壊しない限りはどうにでも出来るよ。問題はどこかに突っ込ませて破壊しようとした時だね)
(しかし何処かへ連れて行かれた場合はどうする? 宙賊とでもいうのか? 宇宙の盗賊がいた場合、奴等の人質というか身代金目的に誘拐されるかもしれん)
そんな事を話していたらフラグになるという話を忘れたのだろうか? 話をしていた矢先にパイロットルームが制圧されたらしく、悪意を持っていた連中が魔法銃を向けながら乗客を脅している。
ミク達はアイテムバッグを本体に転送していたので、持っていたのは市販の魔法銃とチケットとお金だけである。宙賊がこちらに来て持ち物を全て出せというので、ミクは魔法銃とチケットとお金を渡した。
しかし、下卑た宙賊は「まだ持っているだろう?」と言ってミクの体をまさぐり始める。「また、コレか……」という呆れを隠そうともせずに表情に出したミク。流石にその表情に何かを思ったのか、すぐに体をまさぐるのを止めた。
そもそも盗賊なのだから止める必要が何処にあったのか分からないが、ミクは座れと言われたので素直に座る。その後、レイラも体をまさぐられたが、レイラもミクと同じ様に呆れた顔を向けるだけだった。
ヴァルは何故か念入りにまさぐられたが、まさぐっていたのは女性の宙賊であり、異様なほど鼻息が荒い。興奮しているのが丸分かりであり、男の宙賊に腕を引っ張られ連れて行かれるまで止める事はなかった。
こういうところを鑑みても、男と女は変わらないとしか思えないミク達。それは正しい答えである。




