0034・盗賊と兵士とマリオ町
片方の通路から向かってくる者が居るので、分岐路よりも少し外に向けて移動する。前方から襲われるだけの方が対処しやすいのは当たり前であり、それ故にミクは洞窟の入り口側を背に戦う事にしたようだ。
こちらに数人向かってきたが、後の奴等は先ほどの女盗賊が居た方向へと向かった。何故そっちに行ったのか分からないが、ミクは素早く武器を持つ。右手にはメイスを持ち、左手にはスティレットを持っている。
既に武器の材質のアップグレードは完了しており、新しい強力な武器に変わっていた。そんなミクに対し、狭い洞窟で横に広がれない盗賊は二人がかりで突っ込んでくる。
とはいえ盗賊の攻撃は、ミクに綺麗にかわされて頭をカチ割られ、喉を突き刺される結果となったが。狭い洞窟の通路であり、無理に横に二人並んだら動き辛いに決まっている。そこを狙われて殺された盗賊。
次の者は動きやすい一人で来たものの、スティレットで流され頭をカチ割られて終わった。それを見ていた盗賊どもは迂闊に攻めて来なくなる。少しの間対峙していると、片方の部屋に行った奴等が戻ってきて叫ぶ。
「その女ぁ、絶対に逃がすな! お嬢の持ってた金や宝石も持ってるぞ!! いいか、その女をブッ殺して逃亡だ!! 急げ急げ、兵どもがやって来るぞ!!」
「どういう事ですかい、頭!!!」
「どうもこうもあるか! お嬢が裏切りやがった。いや、奴等ぁ最初からこうする気だったってだけだ! 俺達に盗賊業をやらせて、溜め込んだもんを奪おうと思ってやがったんだよ!! さっさと殺せ!!」
「「「「「「「「おうっ!!」」」」」」」」
そうやって気合いを入れるも、ミクを突破出来ない盗賊達。次々と殺されていき、残ったのは盗賊の首魁一人だけだった。そいつも半狂乱で向かって来たものの、あっさりとミクに殺される。結局は唯のザコだったようだ。
盗賊どもの死体を二人で喰っていると、洞窟の外から何やら多くの気配が近付いてきた。どうやら先ほど盗賊の首魁が言っていた兵士だろう。おそらくは盗賊どもを潰し、貴族の娘を助けるなどというシナリオだと思われる。
どうするか少しの間考えた二人だが、答えは「喰えばいい」だった。ミクとヴァルは一度本体に戻り、魔物の姿で出てきたようだ。ミクはハイゴブリン、ヴァルはハイフォレストウルフの姿で登場。後は喰い荒らすだけである。
ちなみにゴブリンも人間種の肉を喰う魔物なので、食べたところで違和感は持たれない。ついでに、先ほど盗賊の首魁がもっていた鉄製の片手剣を持っておく。それなりに長めだが、幅広で分厚い剣だ。
それを持って外に出たミクとヴァルは、準備をしていた兵達に突撃する。見張りが居なかったからか、洞窟前で暢気に準備をしていた兵達は反応出来ない。即座にミクに切られ、ヴァルに噛み千切られる。
殺されてようやく正気に戻ったのか、慌てて迎撃態勢をとろうとするが上手くいかない。当然だろう、先ほどまでは弛緩した空気なのだ。急に動いても慌てているだけに、転んだり、武器を取り落としたりしている。
そんな隙を見逃すミクではなく、指示を出した奴を真っ先に始末して統制を執れないようにした。こうなると烏合の衆である。後は適当に始末していくだけの、二人にとっては簡単なお仕事だ。
最後尾の下級兵や、監視をしていた兵は既に逃亡している。しかし今回、ミクは敢えて逃がしたのだ。それは、ここの連中が魔物に喰われた事にしたいからである。死体が無いのは怪しまれる元なので、だから魔物が喰った事にしようと決めた。
ついでに兵達を喰っても怪しまれないので一挙両得の作戦だ。そして、その作戦は今しがた終了した。逃がした兵以外は全滅となり、周りに人間種が居ない事を確認したミクは全身を肉塊に変えて貪る。
普通は一般兵など殺すべきではないのだが、奴等はクソみたいな代官から派遣されてきた証拠隠滅部隊だ。そもそも後ろ暗い事をする部隊であり、そのうえここは森の中。魔物に襲われても唯の自然現象である。
弱肉強食という、自然の摂理を説けば終わる話でしかない。そんな自然の暴虐とも言える二人は死体を喰らい終え、森の中に入って姿を元に戻した。思っているよりも喰えた寄り道に、機嫌を良くしながらも町へと進む。
森を東に進んで行き抜けると、マリオ町が近くに見えた。そのまま真っ直ぐ進み、ミク達はマリオ町の北から近付く。門の前でヴァルから降り、小さくなったヴァルと共に門番に登録証を出す。
片方の門番はミクに槍を突きつけていたが、もう片方の門番がランク9と言うと、直ぐに槍を縦に持ち直した。登録証を見た後はあっさり通され、ミクは宿を探して町の人に聞く。もうすぐ夕日が出てきそうな為、早く宿を確保したい。
そう思って聞いていると、近くに寄ってきた少女が「ウチの宿に来て」というのでついて行く。少女は背中に布のリュックを背負い、更には重そうな布のバッグを両手に一つずつ持って歩いている。ミクは両手のバッグを持ってやった。
「お客さんゴメンね。今日お野菜が安くてさ、ちょっと何時もより多いの。その所為で大変で……あっ、こっちこっち。ここがウチの宿!」
そう言って宿の玄関を開けて入っていく少女。後ろについて行き中に入ると、既に酒を飲んで騒いでいる連中が居る酒場だった。……宿もしているんだろうが、ガラが悪そうな冒険者が多い。肉にとっては嬉しいだろうが。
「とりあえずバッグを受け取って……と。ちょっと裏に置きに行ってくるから待ってて。すぐに戻ってくるから!」
そう言って少女は、カウンターの裏にある扉を開いて行ってしまった。ミクは言われた通り待っているものの、先ほどまでとは違い酒場が静かになっている事に気付く。気になって見てみると、全員がこっちを向いてポカーンとしていた。
『客どもは主に見惚れているらしいな。男も女もであるところなど、流石は主と言うべきか。……それはともかく、悪意に変わった連中が何人か居るな。どうするんだ、主?』
『どうもしないよ。宿の部屋に押し入ってきて、手を出してきたら喰らう。ある程度の肉を喰えたからか、今は積極的に襲う気は無いね。むしろ王都近くにあるダンジョンの方に期待が向いてる』
『それは良い事だ。イライラが溜まると俺も困るんでな。主が正常でないと受ける影響が大きすぎる。出来れば平穏でいたい』
そんな事を【念話】で話していると、少女ではなく厳つい髭モジャが現れた。背が低い髭モジャなので、おそらく山髭族という種族だろう。この種族は不思議と背が低く、男女両方髭が生える。
変わった種族ではあるものの、手先が器用で力が強いという。そんな厳つい髭モジャは開口一番、こう言った。
「確かに驚く程の美人だが、女に娘はやらんぞ!!」
いきなり何を言っているのか……完全に理解不能である。ミクも訳が分からず困惑していると、少女が裏の扉から現れて頭を叩いた。
「何言ってんのよ! この美人さんはウチのお客! お客様に無礼な事してどうすんのよ。それと荷物は気を利かせて持ってくれただけ!」
「ぬ……それならそうと早く言わんか。説明が無いから早とちりしたぞ」
「私が美人さんに貰われるって、いったいどんな早とちりよ!」
この親子はなかなか良いコンビに見えてくる。そんな親子の父親の方に、大銅貨3枚を支払って一人部屋をとると、大銅貨2枚を渡して夕食も頼むミクだった。




