0333・ガドムラン星国の基地
朝食後、ミク達は様々な傭兵やリーダーの<ワイルドドッグ>と共に出発し、攻勢を掛けていく。ただし昨日あれだけ派手に倒したからか、今日は明らかに傭兵の数が少ない。帝国は負けて後退させられたので、そこまで多くの兵を出せないらしいが……。
妙に正面からの圧力が少ない。なので<ワイルドドッグ>の指示の下、帝国軍の方を確認すると、星国やクリムゾンヴァルチャーはこちらを集中的に襲っていた。
今の内に拠点や基地を攻撃するのか、それとも帝国軍を攻めている連中の横っ腹を突くのか。どちらにするのか聞くと、悩む事無く横っ腹を突く事に決めた<ワイルドドッグ>。決まったなら戦闘開始である。
ヴィルフィス帝国軍に攻撃を仕掛けていたガドムラン星国とクリムゾンヴァルチャー。その敵の横っ腹を突く形で攻撃に出るブラックホーク。ミク達は大きく回り、敵の背後に突いて嫌らしい攻撃を繰り返す。
近接戦が出来るのにも関わらず、意図的に魔法銃でチクチク攻撃を続けるミク。まだ敵を外から削るくらいで良いだろう、突っ込むのは敵が崩れ始めてからだ。そうヴァルとレイラに話し、そのタイミングを待つ。
後ろを取られていて逃げ場が無いガドムラン星国とクリムゾンヴァルチャーは、少ない数のミク達を蹴散らして脱出しようと試みる。タイミングが来たと思ったミクは、ヴァルとレイラに指示を出し、短いエストックを持って突っ込んでいく。
いきなり突っ込んできたミクにビックリする敵。その驚きはミクに対して致命的な隙となる。一気に接近され首を貫かれた敵は、地面に倒れた後でもがき苦しむ。死体になる奴は捨て置き、どんどんと敵に接近しては容赦なく貫き殺害していく。
ヴァルとレイラも首か心臓狙いで突き刺していき、素早く抜いて移動しつつ次の獲物を殺していく。上手く突き刺しているのか、それとも怪物のパワーの御蔭かは分からないが、エストックが食い込んで抜けないという事は無かった。
ミク達が敵に突っ込んで蹂躙を始めた為、周りのブラックホークもより攻勢に出ていく。相手は乱戦状態になり混乱している。特に魔法銃がメインで近接戦闘をしないならパニックになるのは当然だ。反撃の手段が殆ど無いし、迂闊に攻撃出来ない。
ミク達は手当たり次第に攻撃できるが、相手はフレンドリーファイアの可能性が極めて高いのだ。派手に突っ込んだので敵は攻撃したくても出来ないジレンマを抱えている。その間にもミク達に殺されているのにだ。
結局、全体がパニックを起こして戦闘がまともに出来なくなるまでに時間はそこまで掛からなかった。その頃には帝国軍も持ち直し、今までの鬱憤を晴らすかの如く攻勢に出たので、多くの敵を殲滅する事が出来た。
この戦場での勝敗は殆ど決まったと言っていいだろう。その最後の仕上げの為にブラックホークはクリムゾンヴァルチャーのベースキャンプに行く。既に殆どが逃げたのだろう、先ほどの戦闘でも全て倒せた訳ではない。
逃げた連中がベースキャンプに知らせた可能性は十分にある。既にMAS04も無いので何処かへ持って行ったのだろう。遠くには行けてないと思うが、無理に追いかける必要は無い。それよりもガドムラン星国の基地を攻めるのが先だ。
ミク達は帝国軍と共にガドムラン星国の基地へと進軍する。既に<ワイルドドッグ>との間で話はついたのか、ブラックホークが攻めて帝国軍は援護する形に決まったようだ。
「向こうさんも参加したっていう建前は必要なのさ。それもなきゃ大目玉どころか降格させられるかもしれねえしな。それよりも、お前さんら昨日と武器が違ってるな? 変なデカイ針みたいなので戦ってたが……」
「短いエストックだよ。本来は菱形の断面を持つ細長い剣なんだけど、傭兵の装備に合わせて針の形にしてあるんだ。剣にするよりも、針の形で突き刺した方が早いから。それにヘルメット相手にブン殴ってもね、殺すのが遅れるだけだし」
「お、おぅ……そっか………」
「それはともかく、その針みたいな武器ならアタシ達でも使えるんじゃないの? 軽そうだし、昨日の棍棒よりは使いやすそうだしさ」
『勘違いしているようだが、こちらの方が扱いは難しいぞ? メイスはブン殴るだけで済むが、このタイプは的確に急所を狙う必要がある。それが出来るなら構わんが、出来ないならメイスを持った方がマシだ』
「首を狙う、或いは脇から心臓を狙ったり、強引に心臓を貫いたりね。魔銀のプレートは薄いから貫けるけど、慣れてないとズレるわよ? まあ、ズレても肺を貫ければ呼吸が出来なくなって死ぬけど、出来れば両方貫きたいところね」
「「「「「………」」」」」
『そもそも魔法銃を使おうが使うまいが、人間種を殺すという事実に変わりは無い。単純に殺し方が違うだけだ。俺達は殺すという事実に最短で向かう為にはどうすればいいか、それを考えて実行しているに過ぎん』
「ま、まあ……そうなんだろうね」
周囲で聞いていた連中はドン引きしているが、ミク達にはどうでもいい事である。そもそも言っている事は間違ってないし、完全な事実でしかない。敵を殺すのに有効な手段をとっているに過ぎないのだ。だからこそ、魔法銃がある戦場で接近戦をやっている。
ガドムラン星国の基地に近付くと、固定砲台のような物から強力な【魔力弾】が飛んできた。回避は難しくないのだが、迂闊に近寄る事が出来ない。
「そういえば、何故【魔力弾】ばかりなんだろう? 【風弾】でも【魔力投槍】でも良いと思うんだけど……」
「昔は【風弾】を使ってたって聞くね。でも、威力が低くて使い勝手が悪かったってんで、【魔力弾】に変わったんじゃなかったかい?」
「確かそうだった筈。それと【魔力弾】の方が、魔力での威力増幅がしやすいって聞いた事がある。それと【魔力投槍】は一部の大型砲台で使われてたと思う」
「だがあれは魔力消費が激しく、まともに使える物ではなかった筈だ。魔石を多く用意せねばまともな運用は難しい。それほど魔力を喰う代物で、今のような基地攻めぐらいでしか使えんと聞く」
「そのうえ持ち運びが大変だと聞くね。台車に乗せて、魔導四輪5台くらいで引っ張らないと持っていけないんだっけ? 魔導装甲にでも乗せられたら楽なんだろうけどさ」
「そこまでの小型化にはせいこ………。もしかして、クーロンの連中のMAS06に積んであったのはそれか? 基地攻撃用の【魔力投槍】砲。もしそれのテストだったのなら……」
「急に撤退したのも分からなくはない……かい? そこんところ、どうだったか覚えてる?」
「確か……右と左の砲が違う物だったのは覚えてる。でも【魔力投槍】だったかは覚えてないね」
『俺は覚えている。片方は間違いなく【魔力投槍】だった。その時はそんな重要な事だとは知らずにスルー、おっと。危なかったな』
「あ、ああ……ありがとう」
「ありがとう、助かった」
基地の固定砲台から撃たれていたのだが、運悪く逸れずに真っ直ぐ来てしまった。それをヴァルが【魔力盾】で防いだ。……のだが、メイリョーズとカラマントの視線が怪しい。
今はブラックホークの攻撃が基地に飛んでいて、固定砲台の【魔力弾】もこちらの攻撃に当たって逸れるのだが、運悪く真っ直ぐ飛んできたのだ。それをヴァルが防いだ、のが事実なものの……。
どう見ても”男”を見る目をしている二人。そう言えばヴァルの声に反応していたなと、思い出すミクだった。




