0033・王都への旅
領都クベリオに来た二人は中に入り、冒険者ギルドへと行く。ここに来た理由は地理を聞く為だ。冒険者が移動する際には、ギルドが町や村の場所を教えてくれる。その為、ミクは聞きに来たのだ。
バルクスの町でカレンに聞かなかったのは、一応ギルドマスターの邪魔をしない事と、ここの冒険者ギルドに顔を出す為だ。バカが引っ掛かってくれないかな? と思っていたりする。どうやら肉が喰いたいらしい。
「王都まで行く事になったんだけど、地理を教えてもらえる?」
「はい、かしこまりました。少々お待ち下さい」
受付嬢に頼むと、何故か受付嬢は裏に行ってしまった。どういう事だと思っていると、受付嬢は紙を持ってやってきた。どうやら王都までの簡易地図のようだ。こういう時代は地図自体が軍事に直結する為、非常に扱いが厳しい。
子供のお絵描きレベルの物さえ、書き写すのは禁止される程である。まあ、怪物は一目見れば覚えてしまうのだが……。その地図を元にして受付嬢は説明してくる。
クベリオから東に行くとソマ村、セテ村、マリオ町。そこから北にユゲ村、リラ村、サコロ町。そこから北西にスエ村、カロイ町。そして北東にエッセオ町があり、その先に王都ロンダがある。国名と王都の名前は同じらしい。
まずはクベリオから東だが、セテ村まで馬車で一日ほど掛かる。だから普通の商人はセテ村で休んだ後、マリオ町でも休むという道程みたいだ。休みが多いが、馬車を牽く生き物にも無理はさせられないから仕方ないのだろう。
ただ、怪物がそれに付き合う義理は無い。クベリオの町を出ると、大きくなったヴァルに乗って進んで行く。それはいいのだが、まさかこの肉塊は昼夜問わず走り続ける気だろうか? 普通の人間種を装いなさい、普通の人間種を。
『主、どこまで行くんだ? 流石に夜は休息する必要があるぞ。そうでなければ怪しまれる。ゼルダと同じか、それより少し速いくらいが限度だ』
『それでも十分速いよ。かつてなら徒歩の速度しか出せなかったんだからさ。それに比べればよっぽどマシ』
よほど徒歩でテクテク歩くのが嫌だったらしい。まあ、疲れが無い肉塊ならではの悩みと言えるだろうが、イスティアの前では走っていたような気がする。あの時は子爵からの依頼だったが、それにしても普通ではなかった。
そもそもバルクスの町からクベリオの町は遠い。それは<魔境>でスタンピードが起きた時の為に、意図的に距離をとって離してあるからだ。だからこそ、ミクの移動速度はカレンが疑問に思うくらいに早かった。
そんな事は知らないし、お構いなしに進んで行く二人。ヴァルの上で寝そべり、分体を停止させているくらいである。早急に剣帯やブーツは作ったものの、他の武器類が完成していない。出来たのは弓だけだ。
流石の本体も一つ一つの特性を掴みつつ、最良の物を作り上げるのに時間を掛けている。良い物を作る為には仕方ないのだが、遊んでいる部分も無いではない。そんな二人の前方には二つ目の村であるセテ村が見えてきた。
村の前には何人もが居て、こちらに気付くと槍の穂先を向けてくる。ヴァルも走るのを止めて、その場に停止した。ミクも起動し、槍を向けてくる村人を見ていると、その後ろから冒険者らしきオッサンが出てくる。
「すまん! そっちは冒険者か? オレはこのセテ村に常駐する冒険者で、ランク5のバンダンだ! そっちは!」
「私はランク9のミク。それで、何故こっちに槍を向けてくるの? 私は王都に行きたいだけだから、この村には何の用も無い。ヴァル、迂回して」
ヴァルがミクの命令に従い迂回しようとすると、バンダンという人物が慌てて前に出た。
「すまねえ、美人さん! 村の連中が槍を向けて悪かった、この通りだ! 実はな、ここセテ村と、マリオ町の間には盗賊が出やがるんだ。あまり報酬は多く出せないが、頼む!」
「………依頼は請けないよ。代わりに盗賊の持ち物などは、全部纏めて私の物ね。それなら始末してもいい」
「本当か!? ありがてえ! 頼む!! 盗賊はセテ村とマリオ町の中間ぐらい、その北にある森に拠点があるんじゃないかと言われてる。俺達はそれぐらいしか情報を出せないが、気をつけてくれ!」
「分かってる。油断はしないよ。それじゃ」
ミクはヴァルに指示を出し、ヴァルは村を迂回して進んで行く。肉が食べたい時に都合よく盗賊の話を聞くとは運が良い。そう思いながら、ヴァルの上で集中して【気配察知】を使うミク。
そのまま進んでいると、ある程度移動した辺りで複数の反応を北に発見。ミクとヴァルは北にある森に突っ込んでいく。その場面を目撃していた馬車や護衛は驚いていたが、肉が食べたい主従にはどうでもよかった。
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「頭は何だって? 何か新しい命令受けたんだろ? 俺達ゃ、お貴族様の馬鹿みたいな争いで稼げるからいいが、頭はいちいちペコペコしなきゃなんねえから大変だな」
「おい、それ頭の前でいうなよ。また癇癪起こすぞ。ただでさえ面倒な指示出してきてイライラしてるってのに、また追加で指示だぜ? そもそも嫌がらせ相手は、あのクレベスだろ。見つかったらシャレにならねえぞ」
「<血塗れ鎧のクレベス>か。十年ほど前の戦争で敵の騎士を殺しまくって、一人だけプレートアーマーが真っ赤に染まってたらしいからなぁ。怖ろしい事この上ないぜ」
ここは森の中にある洞窟前。盗賊と思しき連中が、洞窟の前で雑談していた。どうやら彼らは唯の盗賊ではなく、何処かから指示を受けている盗賊らしい。そんな彼らは暇なのか、話を続けるようだ。
「そういやあ、姉御が男娼を数人入れてるみたいだが、相変わらずか? 姉御も好き者だから何を言っても聞きやしねえが、無駄な金を使うのは止めてほしいぜ。あれで代官様の娘なんだからなぁ」
「代官様の娘だからだろ? 貴族なんて言ってても、ヤる事は平民と一緒だっての。たまにはオレ達の相手でもしてくれないもんかねぇ」
「んな事を目の前で言ってみろ、殺されっちまうぞ。男爵家の娘だからか、好き勝手しやがるからな。俺達のような平民の命なんて何とも思ってやしねえ」
そろそろ聞き飽きたミクは細めの骨を複数発射し、洞窟前の三人を殺した。素早く洞窟前から横に死体を運び、洞窟内から見えないようにする。後は肉を通して死体を本体に送るだけだ。
今回は音を立てない為、死体を喰うのは本体に任せる事にしたらしく、死体を直接肉の中に入れていた。持ち物も何もかも全て。
死体の転送を終えたミクは洞窟の中へと入っていく。【音無】を使って進んで行くと、途中で二股に分かれている分岐点があったのだが、ミクは耳を澄まして探る。すると、右から女の矯声が聞こえてきた。
ミクはそちらの方に進んで行く。すると三人の男娼と交わっている五人の女盗賊が居た。右手の人差し指を伸ばして中を探っていたミクは、両手の掌を前に向けて素早く侵入。狙いを外さず、骨を発射して頭に穴を穿った。
一人に対し三発、それで八人は一分も経たずに沈黙した。ミクはその死体を素早く肉の中に収納し、転送していく。更に部屋の中にある物も全て総浚いして出ると、先ほどの分岐路へ。
丁度分岐路に来た時、もう一つの方から複数の気配が向かってきた。どうやら盗賊の中に気配を探れる奴が居るらしく、殺した事がバレたようだ。




