0332・装備更新
<ワイルドドッグ>の面々も走って移動し、森を抜けてベースキャンプまで戻る。最後まで気を抜かずにいるのは流石ベテランというところだろうか? 戻ってきた<ワイルドドッグ>を大声で出迎えるブラックホークの傭兵達。
統括も外へ出てきて讃え、さっそく簡易事務所へ入って報告を始める。
「オレ達ももう駄目だと思ったんだがな、新人達が来てくれて何とかってところだ。正直に言やあ、来なかったら多分全滅してたろうよ。こいつらおっそろしい戦い方をしやがるんでな。クリムゾンヴァルチャーの連中はすぐに逃げてたぜ」
「そうそう。腰に持ってる鉄の棍棒みたいなので殴るんだよ。ヘルメットの上からブン殴ってさ、相手が気を失ったところを撃つんだ。あれはエグかったね。とはいえ、その御蔭で助かったんだけどさ」
「近接戦、少し考えた方がいいかもしれん。出来る出来ないではなく、それっぽく見せるだけで相手は退く可能性がある。実際こいつらが襲いかかったら、クリムゾンヴァルチャーの連中はすぐに逃げた。クーロンの連中は無理だが……」
「他にもデスピエロやサンドウルフズとか、傭兵組織はそれなりに在るしね。あそこの連中だって接近戦するって聞いた事ないし、案外見せるのは良い方法かも。【魔力盾】を使って防げば、短い間なら耐えられると思う」
「うむ。よく<ワイルドドッグ>を助けてくれたな、ありがとう。高ランクのチームは替えが効かん者達ばかりだ。居なくなってしまったり瓦解したら、戦線が崩壊しかねん。本当に助かった!」
「まあ、向こうの戦線は既に崩壊してるけどね」
「ん? どういう事だ?」
「私は<ワイルドドッグ>を追い抜いて西に走って行ったんだけど、その向こうにあるガドムラン星国の基地に攻撃したの。結局、強固だったから無理だったけど、その後にクーロンのベースキャンプに行ったら……」
「行ったら……何かあったのか?」
「蛻のからだった。多分だけど撤退したんだと思う、人っ子一人居なかったよ。こっちに攻めて来てたのは囮だったのかもね。その後にクリムゾンヴァルチャーのベースキャンプに行ったら、そこには傭兵達が居たよ」
「………つまり、クーロンの連中はガドムランにもクリムゾンヴァルチャーにも何も言わず、彼らを囮にして逃げたという事か。相変わらずのクソみたいな連中だな。MAS06が鹵獲されたから慌てて撤収した?」
「もしそうなら、奴等が参戦していたのはMAS06の実験か何かか? もしかしたら新装備を積んでたのかもしれねえな。MAS06自体は新型だが、密かに試験しなきゃいけねえ物は無い筈だ。となると……壊れた砲塔か?」
「その可能性はある。何かしら効率を良くしたとか、威力を上げた砲だったのかもしれん。言葉は悪いが、ここは田舎の金属資源惑星でしかない。目立たんと言えば目立たんからな。可能性はある」
「とりあえず、これで一角を瓦解させたのは間違いねえ。二方面だったのが一方面に減ったんだ、奇襲をするにも都合がいい。クリムゾンヴァルチャーやガドムランの連中を攻めるチャンスだ」
「その事は帝国側にも言っておこう。我がブラックホークの活躍でクーロンが撤退したとな。かなりの味方がやられたのだ、報酬をふんだくらねば割に合うまい?」
「「「「「「「「「「うぉぉーーーっ!!!」」」」」」」」」」
喜ぶのは分かるが、いちいち五月蝿いと思いつつミク達は簡易事務所を出た。もう夜も近いので、そろそろ夕食が食べたかったのだ。食堂に行って普通の食事を注文して待っていると、<ワイルドドッグ>の面々もやってきた。
「おいおい、酷いんじゃねえか? 命を助けてもらったんだ、メシぐらい奢らせてくれ。それじゃあ足りねえけどよ、本当に感謝してるんだぜ?」
「それは分かるけど……まあ、いいか。何か適当なのを奢ってもらおうかな?」
そう言って幾つか追加で注文するミク。その後は<ワイルドドッグ>の話に付き合いつつ食事を終えると、簡易宿舎に行って部屋をとった。三人部屋の中に入ると、今日の戦闘の反省会を行う。
「正直に言って、思っているよりメイスが役に立たなかったね? 傭兵が使っているヘルメットの所為か一撃で殺せなくて無駄に一手間掛かってた。あれが無駄でしかないんだけど、どう改良しようか?」
『お勧めは突き刺す武器だろうな。頭部用のヘルメットだろうが、フルフェイス型のヘルメットだろうが首か心臓を突き刺せば終わる。スティレットは十分優秀な武器だった。それの補助は魔法銃で出来る』
「そうね、やはり隙間を突き刺す武器がベストかしら? 大型のナイフも、もうちょっと小型にした方が使い勝手も良いのかしらね? 短槍ならギリギリ片手に魔法銃を持てるけれど……そこまでするなら接近した方が早いわ」
「うーん……。この星は殆どの魔物が駆逐されたらしいけど、中には魔物が普通に居る星もあるらしいし。そういう所では普通の武器が役に立つんだろうね。とはいえ、この星じゃ役には立たないか。メイスは外すかな?」
『それがいいだろう。傭兵の装備が相手だと、そこまで斬撃武器は役に立たん。刺突系の武器となると釵やパタ、後は刺突に特化させたエストックとかか。そんな物を主がスマコンで見ていただろう?』
「そうだね、エストックにしようか。切る事は考えなくていいから針のような形状にして、刺突に完全に特化させれば使えるね。長さも50~60センチあれば十分だし、短めの方が素早く使いやすい。それに鍔も要らない」
「まあ、お互いに切りあうような戦場も無いみたいだし、だったら鍔も必要ないでしょうね。あれも相手の武器で手を切られない為にある様なものだし、相手が刃物を殆ど使わない戦場では役に立たないわ。むしろ、邪魔?」
『邪魔だろうな。無い方がすんなり抜けるし、後は魔法銃でどうにかなるだろう。【魔力盾】も魔法に対する防御は高いが、物理に対する防御はそこまで高くない。だからこそ傭兵は近接戦闘を嫌がるんだろうがな』
「私達にとっては、そこが一番の狙い目なんだけどね……っと。本体で作ったエストックが完成。ついでに革鎧をバラして新しいガンベルトも作ったから交換ね。まあ剣帯でもどっちでもいいんだけど」
今回は左腰にエストックとナイフ、右腰に魔法銃とスティレットという配置だ。ナイフは小型にした代わりに、頑丈さと切れ味を大きく引き上げてある。今までの物は単に買った物だったが、今回の物は本体手作りだ。
何故かレイラが頬擦りしているが、それは見なかった事にして、ミクとヴァルはアイテムバッグに装備を仕舞う。後はベッドに横になり分体を停止、朝まで暇を潰すのだった。
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明けて翌日。今日こそ本当の大攻勢だと息巻く傭兵達を見つつ、朝の食事をとっていると<ワイルドドッグ>がやってきた。
「実はよ、今日からの攻勢に参加してほしいんだが構わねえか? 西のガドムランの基地を占領か破壊すりゃあ、大きくボーナスが出るらしい。無理をする気はねえが、狙えるなら狙いてえところだ」
「昨日までと同じく削っていく事になるだろうけど、アンタ達が居てくれれば助かる事は多いだろうからね。クリムゾンヴァルチャーも不利になったら撤退するだろうし、そうなりゃ後は基地を遠くから攻撃するだけさ」
「基地攻めは遠距離攻撃が基本だ。昼夜関係なく続けりゃ、相手は眠れずに指揮は崩壊。そこまでいけば撤退か降伏で、この戦場は終わりとなる。ただなー、帝国どもが横取りしそうな気配もあるんだよ」
「そうなったらアタシ達は退いて、基地攻めを帝国に丸投げさ。何だかんだと言って、基地攻めは死人が出やすい。一番キツイところは向こうにやってもらうんだよ。汚名返上、名誉挽回ってヤツの為にもね!」
そういう”指揮”の為に<ワイルドドッグ>が居るのかと、密かに納得したミクだった。




