0330・MAS06と防魔全身鎧
MAS06に乗ってブラックホークのベースキャンプへと戻るミク達。途中で攻撃してくる者達が居たが、敵なら殲滅し、味方ならブラックホークの傭兵だと言うと武器を納めた。
ミク達は時間が掛かったもののベースキャンプまで無事に戻り、ヴァルとレイラに中へと報告に行ってもらう。乗ったままで居ないと手柄を横取りされる可能性もある。そう思っていると、起きたところなのか寝癖の付いた統括が走って来た。
「おお! 凄いじゃないかお前達!! これは間違いなく新型の魔導装甲であるMAS06だぞ! 何故か左右の砲塔が壊れているようだが間違い無い。よくクーロンの連中から奪ってこれたな!!」
「苦労したけどね。それと、このMAS06は私が自分の魔力で強引に動かしてるだけだから、魔石が無いの。申し訳ないんだけど、私達以外、今のところ動かせないと思う。それでも売れる?」
「………難しいな。とりあえず売る事は可能だ。とはいえ、魔導装甲の7割は魔石の値段だと言っていい。なので、おそらく高値では売れんぞ? それでも鹵獲してきている以上、結構な値で売れるだろうがな」
「そうなの? 魔石が無いのに?」
「確かに魔石があれば莫大な値で売れるだろうが、どこも開発競争をしている。これを戦場で鹵獲した以上、ライバル会社には高値で売れるさ。実際にお前さんが動かしている以上は、稼働する代物なんだしな」
『ライバル会社の技術を解析するチャンスという事か。そういう意味でなら、確かに高値で売れるだろうな。実際に戦場で使われていた物なんだ』
「その通りだ。とはいえ左右の砲塔が無いのがな……鹵獲の際に壊れたんだろうし仕方ないんだが、つくづく惜しい。砲塔付きならもっと高値で売れただろう。とりあえずこちらで買って、ライバル会社に売る事になるが良いか?」
「良いよ。私達は値段も知らないし、高値で売れてくれたら良いと思っていただけだしね」
「それならリーダーのお前はこっちに来てくれ。ブラックホーク内に口座を作るから、そこに金を入れておくんで必要なら下ろして使え。あんまり大量に紙幣の持ち合わせもないんでな」
「了解」
ミクが降りて代わりにヴァルが乗り、ミクはブラックホークの簡易事務所に行って口座開設の手続きをする。傭兵なら誰でも作れるようになっているらしく、死ぬと全額ブラックホークに取られるらしい。なので、それが嫌なら適当に下ろしておけと言われた。
講座を開設した後、ヴァルの所に行って簡易事務所の前まで動かさせる。ヴァルが降りた後で統括も乗ってみたが、やはり動かせなかったようだ。それを見て溜息を吐く連中が僅かに居た。盗むつもりだったのだろうか?。
ミク達は溜息を吐いていた連中が離れた後、統括と共に簡易事務所に入る。クーロンの連中を倒した際に防魔全身鎧というのを着ていた奴が出てきて、そいつを殺した話をすると仰天された。
防魔全身鎧というのはクーロンの連中が独自に開発したという噂のある鎧で、噂でしかなく実物を見た者すらいないらしい。
「お前達が倒したのは、おそらくだがクーロンの現場統括だろう。それぐらいの奴じゃないと防魔全身鎧なぞ持っていない筈だからな。ハッキリ言えばMAS06以上のお手柄だ。噂でしかなかった物が実在し、更に解析出来るんだ。とんでもない高値がつくぞ!」
統括は随分喜んでいるようだが、多分そこまで高値になるものではないと思う。とはいえ、これも預けて精算すると、ミクの口座には1243万セム振り込まれていた。どれだけ一日で稼ぐのであろうか? 驚きである。
これだけ稼げれば十分だろうと思い、ミク達は簡易宿舎の三人部屋を6000セムでとり、ベッドに寝転んで分体を停止するのだった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
バカが四度、全部で七人が入ってきたが、麻痺させて情報を聞き喰らった。金が欲しかったのは分からなくもないが、命以上に大事なのだろうか? 不思議な連中である。
ミク達は起き、簡易宿舎を出て食堂に行く。朝食を食べつつ攻勢に出る連中を見るが、MAS06をミク達が奪ってきたからか、どいつもこいつも張り切っている。魔導装甲が無くなれば、それだけで楽に勝てると思っているらしい。
戦いはそんなに甘いものではないんだが……と呆れて見ていると<ワイルドドッグ>と目が合う。五人は周りを見て溜息を吐いているので、そんなに甘くないと分かっているのだろう。ミク達は苦笑を返している。
その後、ミク達はベースキャンプを出てLO12へと移動する。ベースキャンプの外に出て魔導二輪車を取り出したのだが、形が結構変わっていた。本体が改造したのだが、ヤマトで調べた時の物を真似たらしい。
元々はモンキーという名の原動機付き自転車に似ていたのだが、今はスーパーカブという物にそっくりだ。ライトが無かったりと所々違う部分はあるが、色々調べていた時によく見たので、あえて作ってみたらしい。
3台の魔導二輪車を1台にしており、更には中の魔法陣も強力な物に作り変えている為、魔力の効率も馬力も極めて向上している。そんな新生魔導二輪車で一気に移動していくミク達。今までよりも遥かに速く、魔導四輪車を追い抜いて爆走する。
あっと言う間にLO12に到着し、魔導二輪車を買った店に行って乗り物を売る。残っている使える物を売り払い、しめて41万セムとなった。やはり売値はしょっぱい事になったが仕方ない。
儲かったし、速い乗り物に生まれ変わったのだから良しとしよう。そんな話をしつつ細々とした買い物をして、食堂で昼食を食べる。普通の食事を終えたミク達は、LO12を出てベースキャンプへと戻っていく。
その途中で本体からメイスが送られてくる。潰した魔導二輪車の鉄を集めて作った物で、何の特殊な効果も付いていないシンプルな物となる。これなら持っていてもおかしくないだろうという事で、本体が三人分を送ってきた。
他にスティレットとガンベルトも一緒に送ってきたので、ミク達は止まって装備を更新する。左腰に魔法銃、右腰にメイス。そして魔法銃の前にスティレット、メイスの前に大型ナイフを配置して完成。
装備の更新を終えてベースキャンプへと進むと、何やら物々しい感じがする。ミク達は魔導二輪車をアイテムバッグに仕舞い、すぐに簡易事務所へと走った。すると、中では傭兵達が意気消沈している。
事態が飲み込めないミク達は、頭を抱えている統括に話を聞く。
「お前達か……。参加した者は知っているが、今回の攻勢は帝国と歩調を合わせたものだったのだ。ところが帝国側が負けて後退してしまった所為で、突出した形になって取り残されてしまっている。前線で指揮を執っていた<ワイルドドッグ>もどうなったか分からん」
「俺達が戻って救援を呼ぶ事になったんだ。その際にはまだ<ワイルドドッグ>の人達も無事だった。とはいえ、全員を送り出したんで後退は出来ていると思うんだが……」
「帝国が後退したとはいえ、オレ達の主戦場は森の中だ。迂闊に星国の軍も入ってこないとは思うが……」
「ふーん。ま、状況は分かった。とりあえず行ってくるよ」
そう言ってミクは簡易事務所の外に出る。<ワイルドドッグ>の救出となるか、それとも敵の殲滅になるかは分からないが、どちらにしてもやる事は変わらない。ミクはヴァルとレイラを連れて西へと走る。
ベースキャンプの西は森であり、通常は北と南で帝国と星国は争っている。帝国が後退したのなら、森に居る傭兵は南北から挟み撃ちを受けているという事だろうか?。
頭の中で幾つかのパターンを考えつつ、ミクは森へと突入していく。




