0327・クーロンという傭兵組織
ミク達は夜の中を滑るように移動していく。なるべく音を立てず、可能な限り速く進んで行くと敵が見えた。向こうは特殊な装置で暗闇を見ているようだが、ミク達は普通に見えている。そもそも肉塊の能力は反則であり、この程度は素の能力で済む。
素早く敵を麻痺させて六人組の装備を全て剥ぐ。情報収集を行い転送したので、多少のストレスは解消された。連中の装備は壊さないようにアイテムバッグに入れ、適当な安い魔法銃を装備し直す。
代わりに白い魔法銃は本体に戻し、本体が更に強力な銃に改造中だ。強力な銃を隠し球として、いつもは量産型の銃を持つ事にした。出来が悪い方が威力を抑えやすいというのは皮肉なものである。
透明の水鉄砲みたいな魔法銃をガンベルトに入れて、ミク達は再び夜の中を移動する。すると、あからさまにこちらに気付いている動きをする者達がいた。何故かと思ったら、どうやらレーダーを見ているらしい。
つまりブラックホーク側の傭兵が殺されて、魔導レーダーを奪われて利用されているのだろう。昼間ならそこまで必要ないのだが、夜だと敵を発見する道具として使われているらしい。なかなか厄介なものだと、ヴァルは内心で舌打ちをする。
こちらに気付いている連中は撃ってくるものの、ミク達は上手く木を使って敵に接近していく。敵はミク達が必要以上に接近してきたからだろう、慌てて後退するが遅い。ミク達は一気に接近すると、辺りに麻痺毒を散布した。
いつも通りに麻痺させると敵から情報収集をしていくのだが、どうやら昼間にブラックホーク側の傭兵が大量に殺されたらしい。原因は敵側の持つ魔導装甲だ。それを持ち込んでいる傭兵のチームが二つあり、そいつらがブラックホーク側の傭兵をかなり殺害したらしい。
一つはクリムゾンヴァルチャーに所属するチームで、もう一つがクーロンという傭兵組織に所属している者のようだ。このクーロンというのが相当酷い傭兵組織らしく、とにかく敵を皆殺しにし、その為なら味方ごと殺すような連中の集まりだという。
クリムゾンヴァルチャーの連中からも相当嫌われているらしいが、何故かクーロンという組織は新兵器を持っていたりする事が多いらしく、戦場では有名だと言っている。話しながらも嫌っているのがよく分かる声色だった。
ミクはさっさと喰って転送するも、ここでクーロンとかいう連中を殺すかどうか思案する。今は夜だ、クーロンの連中が寝ているならチャンスである。
(まだまだ時間はある訳だし、敵のベースキャンプまで行ってみたらどうだ? ドッグタグを仕舞えば俺達には気付かないだろうし、ムカデならもっと気付かれん。そこら中に居る訳だしな)
(私も賛成。先に敵を調べておいた方が良いと思う。それに奪えるなら奪いましょうよ。もしくは破壊するか。どちらにしても面白い事になりそうだし、私は彼らを探りに行くべきだと思う)
(なら、そうしようか。奴等のベースキャンプは南西にあるらしいしね。真っ直ぐ西にガドムラン星国の基地があり、北西にクリムゾンヴァルチャーの、南西にクーロンのベースキャンプがあるとさっき言ってたから)
ちなみに戦場で言うと東にブラックホークのベースキャンプがあるが、これは北と南にヴィルフィス帝国の砦があるからだ。これは元からあるものであり、東の採掘場を守る為の砦となる。
ミク達はムカデにはならず、人間形態で南西へと移動していく。途中で幾つかのチームに見つかったが、素早く麻痺させて情報収集をしたら転送して始末する。夜中の傭兵だからか、装備している物が多い。稼ぎになりそうで何よりだ。
南西に近付いていきベースキャンプが見える位置まで行くと、物々しいのがよく分かった。何故か異様なほど警戒している歩哨がおり、辺りを照らす光で警戒している。堀も掘ってあり、簡易的に土を盛って壁も作ってある。おそらく魔法で作ったのだろう。
中が分からないが、何故ここまで強固に守る必要があるのか疑問だ。そう思っていると、こちらに【魔力弾】が飛んできた。結構な大きさの【魔力弾】なので回避したが、厄介な大きさだった。
(どうやらMAS06とかいう魔導装甲に乗せている魔法銃は、かなりの大型なようだね。とても普通に使う【魔力弾】じゃなかった。ついでにこっちの位置も把握していたようだし、奪った魔導レーダーか、それとも……)
(どっちにしたところで、こちらの位置がバレているのは間違いない。今は素直に退却しよう。ってちょっと待て、主! 何をする気だ!!)
ミクは本体が改造した魔法銃を持ち、先ほど撃ってきた方向へ魔法銃を連射する。魔導装甲の【魔力弾】には及ばないものの、相当高火力の魔法が連続で飛んでいく。
向こうは慌ててMAS06の砲で打ち消しを狙ってきたが、一発撃つのにどうやら時間が掛かるらしい。間に合わずに土の壁が壊されベースキャンプ内が露になる。
ミクはそのまま連射を続け、MAS06の砲塔二つを破壊するとヴァルとレイラに声を掛けて逃走。即座に離脱した。たとえMAS06を持ち出しても、砲塔が破壊されているので碌に攻撃できまい。
ミクはしてやったりと喜んでいるが、どう考えてもやっている事は無茶苦茶である。何れミクがやったと気付かれるだろう。その時にブラックホークがどう出るかという事と、必ずや武器を見せろと言われる。それを危惧するヴァルとレイラは溜息を吐くのだった。
その後はクリムゾンヴァルチャーのベースキャンプにも行き、同じ事をしてきたミク。悠々と戻りつつ、クリムゾンヴァルチャーとクーロンの傭兵を始末するのだった。
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ブラックホークのベースキャンプに戻り適当に外で寝たミクは、朝日と共に起きだしてブラックホークの簡易事務所に行く。中に入ってドッグタグを渡し、更には暗視装置などが売れないかと聞く。
「ふむ。夜の敵傭兵を倒したのか。それにしてもMAS06を持ち出しているのがクーロンとはな。あいつらは愚連隊で有名な連中だ。どうりで我が方の傭兵だけが大きく被害を受ける筈だ。むしろ魔導装甲は囮かもしれんな」
「そのクーロンとかいう連中を隠す為?」
「そうだ。我がブラックホークは星系最大の傭兵組織だが、その分実力はピンキリだ。それに比べてクーロンは小数精鋭となる。もちろん組織としては大きいので、我々と比べれば小数となるに過ぎん。実際には数が多い」
「その割には嫌そうな顔してるね? 数で押し潰せば良いんじゃないの?」
「そうもいかん。何処から金が出ているのか知らんが、奴等はかなりの金持ちだ。そのうえ傭兵をキッチリ育てる組織でもある。訓練についてこれない者は死に、ついていける者は精鋭となる厄介な組織なのだ」
「ある意味で、ちゃんと育てている優良組織とも言えるけど?」
「本当にそうならな。だが奴等のやり口は薬を使った洗脳であり、殺しに何の罪悪感も持たせないやり方だ。それ故に奴等は戦場で味方ごと敵を殺す。巻き込まれて死んだブラックホークの傭兵も多いのだ」
『成る程、それで味方ごと殺す愚連隊なのか。碌なものではないが、おそらく入隊する者は後をたたんのだろう。何処にでも殺しがしたいだけの異常者はいる。それに金が儲かれば何でもいい奴もな』
「その通りだ。星系にそんなクズがいったい何億人いるか。気が遠くなるほどゴミが居るのが実情だからな。その所為で我々も地道にクーロンの連中を減らしていくしかないのが現状だ。ブラックホークの総帥はクーロンとは絶対に組まない事を明言しているのでな」
「成る程ね。まあ、私達も後ろから撃たれたくないし、組まない事を明言しているのは助かるわ」
そんな会話をしつつ、昨日手に入れた物を殆ど売り払った。結果的に得た金額は224万8920セムだった。ドッグタグも含めて随分と儲かったので、美味しい食事を食べに上機嫌で移動するミク。
気持ちはよく分かるので、苦笑いしながらもついていくヴァルとレイラであった。




