0326・傭兵チーム<ワイルドドッグ>
革の鎧の間に魔法陣を刻んだプレートが挟まれている。そんな鎧だったが、近接戦闘をしないからこんな鎧が基本なのか、それとも傭兵はこんな鎧がスタンダードなのだろうか? ミク達にとっては要らない鎧である。
なので本体に送り、本体は中のプレートを抜いていく。その理由は中のプレートは魔銀だからだ。魔力の篭もったインクか何かで魔法陣が刻まれているが、それが術者の技術に依存しない理由であろうか?。
分からないが、とりあえず魔銀を精錬し、【錬成術】で【変形】させながら魔法陣を”作る”本体。普通の魔法陣を刻む方法とも違う反則的な作り方をしていく。出来た物は魔法銃用のプレートだ。
何故防御用の魔法陣ではないのか? それは、ミク達だと最悪の場合には魔法を喰えば済むからであり、通常なら自前の魔法で防げば済むからである。よって防御用の魔法陣など要らないのだ。なるべく強力な魔法銃の方が役に立つ。
ついでに銃の形も、ヤマトで見た透明のハンドガンみたいな水鉄砲から、真っ白な色に変えておく。一人、真っ白な魔法銃を持っている奴が居たのだ。性能は他のより少し上だったので、透明より良い物なのだろう。
見た事も無い物にすると怪しまれるので、ちょっと良い物に見せかけるのが騙すコツだ。これなら性能が良くてもおかしな事じゃないし。実際に本体が試射すると、白い物の2倍強は魔力の消費効率も威力も上がった。
御蔭で連射しやすく高威力を実現できた。そんな魔法銃を三人は持ち、プレートが入っていない普通の革鎧を着て進んで行く。人間種の気配は感じているので、敵の位置は分かっている。
さっきまでの連中はあからさまにLO12に向かってきていたが、ここからは混戦状況に入っていく。其処彼処で争っているらしく、どっちが味方でどっちが敵か分からない。皆殺しにしていいなら手っ取り早いのだが……。
(さて、困ったね。味方なら生かさなきゃいけないし、こっちの手口を知られたくない。殲滅というわけにもいかないし……やれやれ、戦場というのは面倒臭いね)
(仕方あるまい。本来はそういうものだ。古い合戦と呼ばれるものであれば自軍の旗を掲げて戦うのだろうが、こういう戦争ではそんな事も無いしな。それよりも、どうやって識別するべきか)
(適当に待っていれば良いんじゃない? 傭兵は自己責任だっていうし、助けなくてもいいわよ。こっちを攻撃してくる奴が居れば反撃で殺しちゃえば? それが一番後腐れが無いと思うけど)
(そうだね、そうしよっか)
「そこに居る奴等! すまねえ、援護してくれ!!」
押されている側から言葉が飛んできたきた為、素早くミク達は押している連中を撃ち殺していく。ミク達の魔力だと相当抑えないと高威力になり過ぎるようになってしまった為、若干不便になってしまい、むしろ使い勝手が悪くなったと悩むミク。
それは横に置いておき、終わったので立ち止まって話し掛ける。
「あいつらが敵で良かったんだと思うけど、そっちは味方なの?」
「あん? ……ああ、お前ら魔導レーダーを持ってねえのか。どうりで近くでウロウロしてると思ったぜ。ほら、コレだ。コイツが魔導レーダーといってな、コレで味方を識別できるんだよ。そこまで高くもねえから買っといた方がいいぞ」
「アンタ達は新人かい? よくもまあ魔導レーダーの事も知らずにノコノコ戦場に出てきたねえ。よっぽどの死にたがりか、それともそれだけの腕があるのか知らないけどさ」
「オレ達はこっち方面のブラックホークのリーダーをしてる<ワイルドドッグ>っていうチームだ。オレはリーダーのバルハーマ」
「アタシはサブリーダーのメイリョーズ」
「ボクはセマーダイ」
「私はソムデオード」
「わたしはカラマント」
「オレ達はこの五人でやってきてる。ちなみにランクは12だ。お前さん達は?」
「私はミク、一応三人のリーダーだね。昨日登録したばかりだからランクは知らない。さっきここに来るまでに11人倒してドッグタグを手に入れたけど、これで多少はお金になるの?」
「ヒューッ! マジで倒してるじゃねえか! 僅かな間に11人ったぁ、やるなお前さん達。隠密が得意なのかは知らないけど、役に立つ奴は大歓迎だぜ!」
「それはともかく、アンタ達は味方を誤射しない為にも一度ベースキャンプに戻って魔導レーダー買ってきな。それで味方を識別できるから。アンタ達が幾ら優秀でも後ろから撃たれたら堪らないからねえ」
「確かに。とりあえず私達は一旦戻るよ」
「おお。ただ、気を付けろよ。結構敵さん浸透してきてるからな。行きはよいよい、帰りは怖いってな。帰りほど気を付けるんだぜ?」
「分かった。ありがとう」
そう言ってミク達は<ワイルドドッグ>の面々と別れ、先ほどの簡易建物が並んでいる場所に戻った。そこがベースキャンプらしく、戻ったミクは早速ドッグタグを出して精算する。
「ほう! さっき出たばかりなのに11人か! はははははは、有望な新人が入ってきて何よりだ。……うん? 魔導レーダー? ああ、<ワイルドドッグ>に聞いたのか。魔導レーダーは味方を識別するものだから勘違いしないようにな。一つ20000セムだ」
ミクは三人分購入するとヴァルとレイラに手渡した。懐中時計の形をしていて、丸い液晶部分の中心が自分であり、近くに居るブラックホークのドッグタグを持つ者を表示するようだ。それ以外を表示しないのは出来ないかららしい。
様々な物が表示出来る上級のレーダーもあるらしいが、そちらは大きくて運用コストも高いと聞く。フレンドリーファイアが防げればいいので、戦場ではこの簡易式を持つのが普通だそうだ。持っていない奴は嫌われるらしい。
新人は知らない奴も居るので仕方ないと思われるようだが、新人以外で持ってない奴は味方殺しをする奴だと認定される。当たり前だが、味方殺しをすれば賞金首になるので注意しろとの事だった。
「そういうのを先輩から学ぶのも新人のやるべき事だ。実際に経験せんと理解せんからな。今後はなるべく情報収集はきちんとしろよ? でないと大きな失敗をするぞ」
どうやらミクも新人あるあるな失敗をしたらしい。ま、それは構わない。むしろ普通の奴と思われるだろうから都合が良い。ミクは感謝を言ってブラックホークの簡易事務所を後にした。
ちなみにドッグタグは一つで20000セムの報酬で、全部で22万。それなりには儲かった。
ベースキャンプに食事を提供している食堂があったので移動し、栄養だけの食事を一人3000セムで食べる。一応の建前の為に食べるが、美味しくもない物を食べる事に腹立たしさを感じていると、<ワイルドドッグ>のメンバーが入ってきた。
彼らは高いお金を出して、美味しそうな料理を食べている。どうやら高いお金を出せば美味しい料理を食べられるらしい。次は美味しい料理を食べようと思い、食堂を後にした。
外へ出て簡易宿舎に行かず、ミクは外へと出る。夜の狩りの始まりだ。どうも夜に動く傭兵も居るらしく、ミク達はそれに紛れて金を稼ぐ事にする。実際は肉が喰いたいだけなのだが、そこは気にしてはいけない。
ミクは不味い食事の鬱憤を晴らすべく、魔導レーダーを確認しながら敵を麻痺させていく。情報を聞きだしつつ転送し、ドッグタグを手に入れつつ西へと進む。
敵の傭兵も、夜を得意とする部隊が動き出しているらしい。そいつらは暗視装置などを持つ連中で、なかなかの装備を身に着けているようだ。ミク達はこいつらの装備を奪う事に決めて、気配を探っていく。
ミクが「ニヤリ」としたので、どうやら肉を見つけたようだ。




