0032・空の旅と解体所での売却
ヴァルをヒッポグリフの姿にし、ミクはその背に乗る。ヒッポグリフは鷲の上半身に馬の下半身を持つ魔物である。つまり大地を行くのも速ければ、空も飛べるという事だ。その優秀さは想像でも分かるだろう。
そのヒッポグリフの背に乗り、一気にバルクスの町まで戻るミク。途中、ミク達を追いかけてくる鳥系の魔物が居たが、骨を発射して落としてやると去って行った。
そのままバルクスの町の前に下りると、再び門番の彼が遠い目をしていた。今度は空を飛んできたのだ、もはや意味が分からない。彼は考える事を放棄して、ミクの登録証を見たら通してしまう。
見た目はヒッポグリフであるが、使い魔であるヴァルは体を小さくしてミクの後ろをついていく。冒険者ギルドの裏にある解体所についたミクは、そこの職員の前で大量の魔物を出していった。
ハイクラスの魔物や珍しい魔物、更にはヒッポグリフとワイバーン。解体所の職員総出で必死に状態を確認し、長い時間を掛けて査定は終了した。待っている間は本体がワイバーンの爪や牙や鱗を弄っていたので、特に暇ではなかった。
獲物が書かれた大量の木札をリュックに入れ、ギルドの中に入ったミクはカレンの所へ移動。そして、カレンの前へ大量の木札を置いていくのだった。
「これで狩ってきた魔物全部だからお願い」
「え、ええ。分かったわ。……それにしても凄いわね。昨日の今日でコレって、いったいどうなってるの、ミク? 幾らなんでも狩って来すぎじゃない?」
もはや受付嬢と一冒険者の会話ではない。気心の知れた友人同士の会話である。人前であるという事を忘れたのだろうか?。
「ハイゴブリンにハイオーク。ホーンラビットの亜種にハイフォレストウルフ。他にも大量に狩ってきて、極めつけはヒッポグリフとワイバーン。流石に滅茶苦茶過ぎるわよ」
「そんな事を言われてもね。使い魔も居るし、やってやれない事はないよ。私以外には無理だろうけど……」
「ええ、そうね。それよりここではランク9にしか出来ないわ。まさかここまで狩ってくるなんて思ってなかったから。申し訳ないんだけど、紹介状を書くから王都まで行って頂戴」
「この国の王都?」
「そう。王都にある中央ギルドじゃないと、ランク10以上に上げられないの。正しくは、ランク5になるのに地方の町ギルドで試験。ランク10では中央ギルドの試験を受ける必要があるのよ」
「私ランク5の試験を受けてないけど?」
「ヒッポグリフやワイバーンを倒せる冒険者に、ランク5の試験を受けさせても無駄よ。ランク5の試験は実力を調べる試験なの。ミクの強さはヒッポグリフとワイバーンで10以上は確定なのよ。そもそもソロだし」
「一人の方が大変だからかぁ……。でも本当かどうか分からないじゃない?」
「いえ、パーティーでもランク10は超えるわ。どちらも非常に強いのよ? 普通は早々勝てないし、ソロだと空からの強襲を捌けないの。普通は戦っている最中に、他の魔物から横槍が入るから」
「ああ。私が狩ったヒッポグリフの血抜きをしてたら、バカみたいに獲物を横取りしようとトカゲが来たからね。普通だと大変かー」
「…………普通は鳥系の魔物に襲われるのよ。何でワイバーンに襲われるの? そして、何で普通に勝ってるの?」
「大した事ないトカゲだから?」
「………そうね。そういう事にしときましょ。考えても悲しくなるだけだから」
門番の彼と同じく、カレンも思考を放り投げたようだ。それは正しい。アンノウンの事など考えても無駄である。他の冒険者も何も口を挟んでこない。
卑怯な事をしたに違いない。そういう奴はいるかもしれないが、居たら唯のバカである。
ヒッポグリフやワイバーンは卑怯な事をしてどうにかなる魔物ではない。一流が慎重に戦わなければいけない相手であり、小賢しい事が入り込む余地など無い。それがグレータークラスの魔物である。
それぞれのクラスの中で上下はあるものの、グレータークラス中位から上位の魔物には、下らない事が入り込む余地は絶対に無い。あっさり人間種を殺すレベルの魔物であり、為すべき事は死闘なのだ。
「ふ~ん。普通の冒険者って大変だねぇ」
「私だってヒッポグリフかワイバーンだと、眷属の誰かは連れて行くもの。ランク15の私がよ? 周りを警戒させている間に集中して戦わないと、無傷で勝つのは難しい相手なんだけど……」
「私も使い魔が見ててくれたから、きっと変わらないよ」
「いえ、全然違うわ」
周囲の冒険者も「うんうん」と激しく頷いているので、この場の者達の心は一致しているらしい。怪物は怪物であるという事を自覚しろという事であろう。
ミクは売却金を受け取り、青銅の登録証が出来るのを待つ。元々あるプレートを削るだけらしいので、そこまで時間はかからない。ちなみにランク10からは鉄で、カレンの持つランク15以上の物は銀で出来ている。
ランク20のみ金で作られるらしいが、所持した者は歴史上において誰も居ない。ランクの高い者は途中から面倒になるらしく、15まで上げるともう上げなくなるそうだ。世界的な活躍をしないと上がらないそうなので、当然ではあろう。
出来上がった登録証を貰ったら、さっさとカレンの屋敷に行く事にした。アイテムバッグを返さなければいけないからだ。カレンの屋敷の守衛に話し眷属を呼んでもらうと、中からオルドラスが出てきた。
ミクは事情を説明してアイテムバッグを渡すと、オルドラスは名残惜しそうな顔で「いってらっしゃいませ」と言ってくる。なので「行ってきます」と言ってミクは屋敷を後にした。ミクとオルドラスの温度差は激しい。
再び冒険者ギルドに来たミクは、カレンから紹介状を受け取ると、すぐに出発する事を伝える。するとその場でキスをされ「いってらっしゃい」と言われた。なので、こちらでも「行ってきます」と行ってギルドを後にする。
カレンもオルドラスも、そしてメイド二人も報われないが、肉塊とはこんなものである。
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ところ変わって本体。現在、急ピッチで武具を仕上げている。それはヒッポグリフの牙と爪のメイス。ワイバーンの爪のスティレット。そしてワイバーンの牙の鉈を作っているからだ。
更にはワイバーンの革で作った剣帯とブーツを二つずつ作製してもいる。忙しいものの楽しんでもいる本体。そんな中、狩猟の神が来てミクに色々と教えていく。そして教え通りに、ミクはワイバーンの鱗と骨で弓を作っていくのだった。
完成したのは強靭かつ反発力の非常に強い弓だ。これでも人外パワーには耐えられないようだが、それでも鋼よりは優秀な弓になった。ミクも狩猟の神も喜んでいるが、使う側のヴァルは溜息を吐いている。
『あんな物を人前で使えと言うのだろうか? 更なる揉め事が起きるに決まっているだろう!』
大元でもヴァルはストッパー役をさせられるらしい。一蓮托生だから仕方ないね。
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元に戻ってこちらは外のミク。町を出たミクはヴァルを一旦戻し、再び黒狐形態にして乗る。流石にヒッポグリフは問題になると説得されたらしく、黒狐形態でゆっくり行く事にしたようだ。
まずは領都クベリオを目指して二人は進む。王都というのは国で一番人が集まる場所だ、怪物が揉め事に巻き込まれない筈が無い。




