0321・変わりゆくネオガイア
「それより、動物が魔物になった事に関しての混乱は治まっているようだな? 意外と言ったら何だが、思っていたよりも混乱していなくて何よりだ。中にはパニックになっている国もあるみたいだし、どんどんと数が減っているみたいだがな」
「それは報告にありますな。人の少ない所では、既に魔物に喰い尽くされた後だとか……。海外の情報ですが、森の近くに住んでいる者とかも居ます。ヤマトでは里山の者は町に移動させたり、仮設住宅で対応をしていますが……」
「とにかく魔物が出やすい地域から人を離すしかない。今までの動物とは比べ物にならない程に強い。同じだと思っていると殺される。ただ、ダンジョンと魔物の強さの関係性がよく分からない」
『ダンジョンが少ない方が魔物が凶暴化しているからな。俺達が当初予想していたスタンピードも無いみたいだし、何故ダンジョンが多いと魔物が凶暴化しないのかは考えても分からんな。それに国土の広さも』
「【世界】が関わっている以上、何を言ったところで意味は無いけどね。少なくとも魔物化の件は人間種の間引きで間違い無いよ。本命は食料と燃料関係の破綻だね。これによって数を減らす。元々神は数が多過ぎると言っていたし」
「では、神が動物を魔物にしたと? 我々人間を間引く為に?」
「さきほどミクが【世界】だと言ったろう。神の上には【世界】という存在がある。が、この存在には神々でさえコンタクトが殆ど出来ない。呼びかけても答えてくれる事は滅多に無いそうだ。この星には【世界】が干渉してダンジョンを作っている」
「神々もダンジョンを作る事は可能。でも、この星のダンジョンを神々は作っていない。なら【世界】が作ったしかあり得ないし、それ以外には不可能。だからこそ間引きを考えたのは【世界】だと思われる」
「仮に誰であっても、今この時をどうするかが大事で、犯人探しはどうでもいい事さ。ヤマトは大丈夫だけど、このまま数年暮らしてみないと分からないね。後になってアレもコレもと問題が出てくる可能性は高い」
「食料の問題もありますからな。皆さんの御蔭で肥料には目途がつきましたが、農薬も必要ですし大変です。それぞれの国が問われてますな。お前達は生き抜けるのか? と」
「今までは機械とやらを使っていたが、これからは大多数の物が人力になるだろう。電気を生み出すのは可能だが、それを伝える電線とやらも保守点検をしなければならんらしいしな。いつまで使えるのやら」
「まず間違いなく自国で全てを賄わなければならぬ様になるでしょう。我が国では鉄がネックですな。銅と銀はとれますが……。細々とした交易をするしかありません」
「船が沈められる事は殆ど無くなったのだったか? 海の魔物が嫌がる音波というのを出せば、大型の魔物は近寄って来なくなるのだったな。よくもまあ、そんな事を思いつくものだと思う」
「それでも近海を行き交うくらいが精々。ヤマトは島国だから厳しい。むしろ、だからこそダンジョンが多いのかもしれない。動物が魔物と化してからダンジョン内も様変わりしてる」
「ボス部屋が無くなって、代わりに採れる資源が増えたんだっけ? ブリテンでも資源が手に入るようになって喜んでるらしいよ。昨日パパがそう言ってた。ブリテンも島国だし」
「そういえばブリテンも狭い範囲にダンジョンの多い国だったな。数で言うとそこまでではないのだが、密集率で言うとヤマトと変わらんらしいと聞く。アメリケンは国土が広いので、数が多くてもアレだしな」
「あそこは元々凶暴な動物が多いらしいし、それが魔物化で更に酷くなっただけとも言える。銃弾が飛ぶように売れてるらしいけど、いつまでも使える訳じゃない武器に依存するのは危険」
『ヤマトだと売れているのは槍とメイスと盾か。やはり簡単に使えてリーチが長い方が好まれるな。後は盾役が練習なんて殆どせずとも使えるメイスか。この国の奴は良い物があればすぐに受け入れる。そういう民族性か?』
「そういう国民性だからしょうがない。戦うのに必要な事の方が大事だし、生き残る事が一番大事だからね。諸外国のように格好良いからという理由で剣を持ったりするような奴は多くないよ。相手は魔物なんだしね」
「祖国はねー、あんなに酷いとは思わなかった。古くからの剣の収集家もいるけど、誰も彼もが剣を持っても使えないなんて……。剣って難しいんだなって改めて思った」
「実戦なら槍かメイスが良いのは今までも言ってきてる。リーチが長く突き刺すだけで済む槍。適当にでも殴れば十分なダメージになるメイス。どちらも優秀な武器。使い熟す為の練習に時間が掛かる物は、素人にはお薦め出来ない」
「そういう意味では、各国にて特徴が出ているな。ブリテンを始めエウロペや中東でも剣、インディーから中華帝国までも剣、アメリケンやその南側では未だ銃。ヤマトだけが剣に飛びつかなかった」
「我が国の場合は刀がありますからな。剣道もありますし、刀が簡単に使える訳ではないという事は多くの者が知っております。おそらくはその影響でしょう。漫画やアニメで簡単に振っているのを見ても、実際の刀の映像を見ると難しいのが分かります」
「あの漫画やアニメで誤解する者が多いかと思ったけど、漫画やアニメが好きな者ほど事態を真面目に考えているのは笑ったな。むしろ真面目に生きてきた者の方が、軽く考えている奴が多かったのは何とも言えん」
そんな話をしつつの夕食も終わり、中島大将は多少回復した顔をして部屋に戻っていった。大丈夫かなと思いつつも何も出来ないので、さっさとミク達も部屋に戻る。今はまだ大丈夫だが、色々と生活が様変わりしているので大変だ。
トイレなども含めて<清潔の魔道具>が普及し始めたし、<加熱の魔道具>も普及し始めた。電気があれば楽ではあるが、なるべく電気を使わない暮らしに換わっていくだろう。魔力を電気に変えるより、魔力を直接使った方が簡単なのだから。
ミク達は自分達で魔法を使うので、特に何の問題も無く暮らせている。何処であっても問題なく生きていける以上、特に不便も感じていない。未だこの星の仕事が終わっていない以上は、ミク達にはやらねばならない事が残っているのだろう。
それが何なのか分からないが、今は考えても無駄だと結論付け、ローネ達を満足させて寝かせていった。
◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆◆
あれから半年経った。既にシェルやオーロやベルの子供も生まれ、ミク達も顔を見せてもらっている。ついでに子供達には<天生快癒薬>を飲ませておき、先天性の何かがあっても治しておいたので大丈夫だろう。
3人に母乳を与えているオーロは完全に母親の顔をしていたが、ミクもまた、その顔が母親の顔なのだと何となく理解できた。使い魔を生み出したからだろうか? とも思うが、具体的な答えは分からない。
エイジ達もシロウ達もちゃんと生きていけているらしく、ここまで前の星の経験が役に立つとは思わなかったとの事。今はダンジョンに行って様々な物を掘り出したり、魔物を倒したりしているそうだ。
それで十二分に暮らしていけるらしく、生活に困ったところは無いらしい。本当に何が役に立つか分からないと笑っているが、ミキだけは未だに変わっていないようだ。おそらくミキだけが未だ妊娠していないからだろう。
実はサエは妊娠しており、もう六ヶ月は過ぎたらしい。ミキはタイミングが合わないと言っているが、実際には楽しむ為に独占しすぎた所為だと聞いた。相変わらずだと嘆息したのは言うまでもない。




