0319・動物の魔物化
ミク達はいつもの部屋に入り話し合いを始める。ジュディも居るが特に気にしなくてもいいだろう。別に知られて困る事などないし、中華帝国に連れて行かれただけである。大した事ではない。
「いや、十分に大した事だと思うけどね? ジュディが知っても問題無いってところには賛成するけど、あの国は本当に碌な事をしないねえ。ヤマトからミクを拉致して起死回生の手にしようなんてさ」
「でも、ミクならあっさり脱出出来たんじゃないの? わざわざ船に乗せられて運ばれなくても、その前に叩きのめして船を降りる事はできたよね? 何でわざと連れ去られたの?」
「私を拉致しようという連中だったからね。そいつらのボスの顔を見ようと思ったのと、私自身が自分で喰えると思ったからだよ。久しぶりに人間種の踊り食いが出来ると思ったの、肉は新鮮な物に限るからさ。そうしたらレイラが居る国でね、バカバカしくなって止めたよ」
『成る程。さきほど中島大将には言わなかったが、それでキレたレイラが中華帝国の国家主席を自殺に見せかけて殺したのか。洗脳して自殺させてやったと言っていたからな。主に手を出したのだから当然だが』
「「「「………」」」」
「まあ、そうだね。レイラはもう一つの人口が多い国に行ったよ。<人口調整>の為に。神どもが言うには、星に対して人間種の数が多すぎるんだってさ、だからなるべく減らすって。必要なら毒の雨を降らせても構わないそうだよ。神どもはそうレイラに言ってたし」
「「「「………」」」」
「それは大丈夫なのか? むしろこの星の生態系を破壊しそうな気はするが……。とはいえレイラならピンポイントで雨を降らせるくらいは可能か。あれも、かなり色々な事が出来るみたいだからな」
「神どもは星の事しか考えてないし、単一の人間ばかりが増えても困るんだと思うよ。最悪は魔物がダンジョンから溢れたりするかもね。もしくは天然で魔物が発生したり。神どもはその可能性を危惧してる。早く減らさないと【世界】が動くかもって」
「あー……その可能性は否定できないな。人間が多過ぎるなら、新たな人間の天敵を生み出せばいい。非常に簡単な理屈だ。そしておそらくだが、それをするのは難しくない。レイラが数を減らしたものの間に合わなければ……」
「この星中にいる獣が魔物に変貌する。とはいえ、【世界】がそれを始めたら誰にも止められない。神々でさえ不可能。私達は粛々と対応するしかない。………もしかして、魔法の使い方を教える事まで織り込み済み?」
『最初から主が魔法を教える事まで織り込み済みで、人間の間引きの為にダンジョンを作ったという事か? つまり、ダンジョンを利用してのスタンピードを起こすつもりかもしれない……?』
「あくまでもネルが言っているのは可能性だろうが、スタンピードを起こしても生き残れるようにする為に魔法を教えさせた。その可能性はあると思う。仮に魔物が溢れた場合、この国もかなりの被害を受けるぞ。特にダンジョンが多いのだ」
「とはいえ話すのは駄目だね。話しても混乱を引き起こすだけだ。中島大将や一部の者に対してだけにしないと、間違いなく混乱が起きるよ。その混乱の結果で亡くなる人の方が多いだろう」
そう言って会話を終え、まずは中島大将に話しに行こうと部屋を出ると、多くの軍人が慌てて動き回っている。これは、もしかして……。
「私達が答えに辿り着いたから、先手を打って【世界】が動いたのか? 何でもありな存在が【世界】だからな、その可能性も否定できん」
ミク達は素早く中島大将の部屋に行ったが、既に陣頭指揮をとる為に中島大将は移動した後だった。陸軍本部には指揮所というか指令所が地下にある。そこで全国から集まってくる情報を精査し、必要な命令を発するのだ。
ミク達が立ち入れる場所ではないので一旦部屋に戻り、ジュディが家族に連絡を入れる。すると、ブリテンで魔物が発生したと騒ぎになっているらしい。飼っている馬やロバ、羊や山羊、更には犬や猫まで魔物化しているそうである。
ブリテンでも外出は控えるようにという指示が出ており、ジュディの家族も家に居るそうだ。飼っていた犬が魔物と化したらしいが、特に襲われる事も無く、むしろ賢くなった気がするらしい。ビデオ通話にも飼い犬が出て来ている。
ミク達も見たが魔物のグレイウルフに似た犬になっていた。しかしジュディの言葉を理解しているらしく、まるで会話が成立しているような感じであった。犬だから「ワンワン」しか言わないが。
「ブリテンでも飼い犬に襲われたとか、飼い猫に襲われたという話は聞くよ。多分だけど虐げるとか、何か悪い事をしていたんだろう。碌でもない飼い主というのはいるからね。そっちは大丈夫かい?」
ジュディの家族はそうではなかったようで一安心していた。ミクはスマコンでニュースやSNSを確認しているが、どうもヤマトでも飼い犬に襲われたり、飼い猫に襲われたと言っている奴がいる。
更には家の近くで熊に襲われて死亡した者も出たようで、大きなニュースになっていた。そもそもこんな状態でも生き抜けるようにと魔法を教えていた訳ではないが、少なくとも予想していたよりは酷くなっていない。
ミク達は魔物となった動物がもっと暴れると思っていたのだが、そこまででは無いようなのだ。といっても変化が始まったばかりなので、これから注意深く観察しておくしかない。
そう思い、今は情報集めに徹するのだった。
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世界的な魔物化から10日。大体の情報は出揃ったと思う。まず、ダンジョンが多い国の方が魔物の凶暴化は緩く、ダンジョンの少ない国の方が凶暴化が激しいらしい。もちろんヤマトもまったく凶暴化していない訳では無いのだが、それでも他国に比べて少ないのだ。
ただ、これは国土の広さも比例するらしい。国土が広いほど凶暴化しやすく、国土が狭いほど凶暴化し辛い。ヤマトはそれなりに広いもののダンジョンの数が多い。その為、そこまでの凶暴化には至っていない。
アメリケンは数が多いものの国土が広いので、それなりに凶暴化しているのだ。それでもダンジョンが多いだけマシらしい。中華帝国とインディーはダンジョンが少ない為、非常に凶暴化しており、かなりの人が殺されたようである。
そのうえ謎の死亡が相次ぎ、インディーが大混乱している情報がネット上には溢れていた。惑星規模で混乱している為しばらくは何も出来ないのと、落ち着くまでは<魔法の使い方講座>などは無しで、推移を見守る事に決めたミク達。
何処かの国からはミク達を派遣しろという声があったり、ミク達がこの星に来た所為だという声があるそうだ。半分ほどは間違っていないのが何とも言えないところである。原因不明の死亡を始め、色々とやっているのは間違い無い。
まあ、そんな一部の声も大多数の人にはスルーされている。何故ならミク達が来る前からダンジョンはあったからだ。最初にダンジョンが出来てからミク達が来たのであって、逆ではない。
更にミク達が危惧していた、ダンジョンからのスタンピードは無かった。【世界】ならやりかねないと思ったが、そこまでする事は無かったようだ。そこは全員が胸を撫で下ろしたところである。
「そもそもなんだけど、人間を間引きするなら何故私達を派遣するのを止めなかったんだろうね? 【世界】が間引きを望んでるなら、私達が居なかった方が進む筈だし……」
「「「「………」」」」
『努力する者は助けてやり、努力しない者は間引くという形? いや、違うな。そこまで減らしたくはないが、ある程度は減らしたいとかか? 【世界】も全てを自由には出来ないのかもしれん。細かな調整が出来ないから、<世界調整の神>を作ったのかもしれないしな』
確かにそれは……と、ここに居る全員が納得するのだった。




