0316・主要国会議
奈良ダンジョンから戻ってきたミク達は、再びいつも通りの日々を過ごしていた。言葉は悪いものの、この星の連中も多少は魔力が増えてきたので、新たな<魔法の使い方講座>を撮影したりと色々していたのだ。
あの奈良ダンジョンから一ヶ月ほどは過ぎている。この日、ミク達は記者などが大量に入った総理官邸の大会議場に居る。何でも世界の要人が集まって魔法などに関する話し合いが行われるらしい。
ミク達に言われても困るのだが、オブザーバーというかアドバイザーの立場で参加を頼まれたので、仕方なく総理官邸にやってきたのだ。ちなみに、ジュディはここにおらず陸軍本部にいる。狙われても困るし、面倒臭い事をジュディが嫌ったからでもある。
記者がミク達の方へカメラを向けて写真を撮っているが、何時になったら始まるのかと、ミク達は内心で呆れていた。そろそろ始まるからと言われて会場に入ったのは一時間も前である。未だに始まる気配が無い。
もういい加減面倒になったので帰ろうかと思って立ち上がった矢先、各国の首相や大統領が入ってきて<魔法やスキルに関する主要国会議>が始まった。あくまでも主要国だけで、世界全体の会議ではない。そんな事をすれば集めるだけで時間がかかり過ぎる。
冒頭はヤマトの総理からだが、この会議の骨子が話される。それは、これからの世界にとって魔法をどう考えるべきか、スキルをどう考えるべきかを話しあう為のものだと。既に魔法の使い方は世界にバラ撒いた為、今さら無かった事になど出来ない。
ミク達が神に命じられて魔法の使い方をこの星にバラ撒く以上は、人間には止めようが無いという事もある。自分も神罰は受けたくないので。そう言って総理は締めくくり、会場の記者の笑いを誘っていた。
そんな和やかな話で始まったものの、そこはそれ、この星の主要国家のトップだけはあり結構な舌戦を繰り広げている。何処の国も自国の利益を最大限確保しようと舌戦を繰り広げているが、そんな中では当然強引な奴も現れる。
「何故ヤマトだけが彼女達を囲っているのだね? 私達の国にもダンジョンは沢山あるんだ、我等エウロペの方にも来てくれていいのではないかな? まず手始めに我が国に来ていただく事になるだろうが」
そう言い出したのはフレンスという国のトップだった。エウロペと言っているものの、自国に連れて行こうという部分がハッキリ出ている。まあ、意図的に言っているのだろうが、いちいちミク達が反応する事は無い。
「何を言っているのやら。妖精族の少女との繋がりもある、我がブリテンに来ていただくのが先だよ。君達の所へは後でいいだろう。繋がりも無いんだし」
「そういう意味でなら、まずは我が国に来てもらうのが先だと思うがね。我がアメリケンは彼女達に世話になったんだ、最大限もてなさせてもらうよ?」
目線で火花が散るかの如く、ミク達の取り合いが始まったが、こういうのが嫌だからこそヤマトで大人しくしているのだ。そもそもダンジョンを攻略しろとは言われていない、魔法の使い方を教えろと言われただけだ。
「何か勘違いしているようだけど、そんな欲望塗れの言葉で誘われても行かないよ。スキルには【精神感知】や【心情看破】といった、他人の欲や悪意の他に何を考えているかが分かるスキルがある。当然、私は使えるから下卑た欲望が丸分かりなの。少しは引っ込めてくれない?」
そう言われた瞬間、各国のトップは姿勢を正し咳払いをする。まさか自分の感情や考えている事がバレるようなスキルがあるとは思わなかったのだろう。かなりの動揺がみてとれる。そんな中、案の定言い出したバカが出た。
「そうは言われるが、それは貴女が言っているだけで嘘か本当かは分からないだろう? なら「この腐れビッチ」ばど………」
「この腐れビッチは我が国に連れて行って三日ほど犯し尽くせば従うだろう。所詮は何処の者かも分からないメスだ。好き者の奴にヤらせればいい。……そんな事を考えている奴の所に行くと思う?」
「………」
フレンスの大統領は口を噤み、何も話さなくなった。顔を真っ青にしているので、周囲の者も考えがバレているのが事実だと悟る。それ以降、ミク達に対して何かを要求する者は居なかった。もちろん理由は交渉にならないからだ。
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ヤマト政府にとっても今回の事は助かったと言えるだろう。色々な国から攻撃されていたが、実は彼女達がこちらの考えなどお見通しで交渉にならないと公に出来たのだ。この後フレンスは難癖をつけてくるだろうが、悪いのは大統領でありヤマト政府ではない。
(彼女達がこちらの事を慮ってくれたのかは分からないが、穏便な形で彼女達の能力の一端を公開できたのは良かった。流石に肉の塊の姿は公開できないし、私も見たくないからな)
ヤマト皇国の総理大臣、日向仁もまた色々苦労をしているのだ。国内に核爆弾を越えるアレな人物が居るのだから、当然その行動の報告は逐一自分に上がってくる。中には報告する必要はないだろう、と思う物まであるのだ。
コンビニの好みのスイーツとか、そんなもの総理大臣に報告する事か? と仁は思っている。思っているが何処で役に立つ情報かは分からないのだ。怒れる肉塊をスイーツで宥められるかもしれないとなれば、読んでおく必要はあるのだが……。
(私はヤマト皇国の総理大臣であって、彼女達のお世話係ではないのだが……。そろそろ本当にどうでもいい情報は上げないでくれると助かる)
そんな事を考えているとミクと目線が合ったが、向こうからは何もリアクションはなかった。おそらく自分の考えている事など分かっているのだろうが、それでもこの程度ならば特に問題無い事なのだろう。
報告でも、彼女は余程の事でないと顔色一つ変えないとあった。おそらくだが他者の考えている事が分かるスキルとやらは、連続で使えないか相当難しいのだろう。もしくは魔力を大量に消費するかだ。
日常的に使えるものでもなし、日常的に使うと滅入ると思う。自分なら耐えられない。
他人の悪意に晒されながら生きるのは大変に過ぎる。総理大臣になってからも日に日に心が磨り減っていくのが分かるのだ。それ以上の悪意を受け続けるなど耐えられるものではない。
仁は早々に考えを放り投げ、各国首脳との話し合いに集中していく。
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昼休憩となり、各国の要人も控え室へと戻っていった。ミク達も与えられている控え室へと引き上げていくも、記者達は一切寄ってこない。何を考えているかが分かるからだろう。自分の浅ましさがバレているとして怖くなったのだろうか?。
ならば最初から下らない事など考えなければいいと思うのだが、自らの欲望は止めようがないのだろう。ミクも肉を喰うという欲望は止める気が無いのだから。ちなみに【精神感知】も【心情看破】もミクは無限に使い続けられる。
使わないのは面倒臭いからと、人間のバカみたいな欲望に興味が無いからだ。レイラではないが、どいつもこいつも下半身の欲望剥き出しなのだから看破する意味も無い。だからこそ滅多に使う事はなく、あくまでも今回は知らしめる為に使っただけである。
適当に昼食を食べながら皆と雑談するが、特に妙な視線や目線は無かったとの事。性的な視線はいつもの事なので除外している。ミク達の身柄を狙うなら、今回の会議はチャンスなのだが……?。




