0310・奈良ダンジョン攻略開始
下京ダンジョンを出て小型バスに乗る。夜の中をホテルに移動し、ホテル内で食事をしたらすぐに部屋へ。ジュディのビデオ通話の横で、今日も<鑑定板>を取り出して鑑定を行う。何か恒例行事になっているうえ、ジュディがチラチラこっちを見ている。
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<アイテムポシェット>
アイテムバッグよりも容量は少ないが、使いやすいのが特徴の収納鞄。取り出しやすさから武器などを入れている者が多いが、焦っていると取り出せないのがお約束。武器はちゃんと手に持っておこう。ダンジョン産。
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<苦悔の短刀>
とある人物の心残りと後悔と血が染み付いた短刀。その嘆きと悲しみにより短刀は異常なまでの頑丈さと切れ味を誇る。同じ平氏の嘆きと悲しみを吸収する毎に、頑丈さと切れ味は増していく。材質は不明。
<ローネレリア・エッサドシア・クムリスティアル・デック・アールヴ>専用であり、他の者は使えない。ダンジョン産。
関東の者の光に、私はなりたかった……。願わくは、これを持つ者が新たな光とならん事を。
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「「「???」」」
「……やっぱりあの狩衣の方は将門公か。下京で処刑され首が晒された方であり、新王を名乗ったものの、それは光の当たらぬ関東の為と言われてる。それでも不敬だとして処刑された方さ」
「成る程な。光の当たらぬ地域のため、自身が光になろうとしたのか。英雄も一歩間違えれば謀反人だ。本人にもその覚悟はあったのだろうがな。どれだけ正しかろうと、負ければ賊扱いしかされん」
「しかし負けた側の嘆きが多い。もちろん気持ちは分かるし、日の目を浴びられなかった者達の嘆きは続く。でも、これを手に入れる事は実際不可能に近い。私達は問題ないけど、この国の者には無理。それは何故?」
「さあ? それは分からないけど、この国の者の前に出してほしいのかもしれないね。自分達は生きていたんだという証拠として。負けた側にも言い分はあるし。負けたからそこで終わり、負けた奴に発言権は無い。何て事は無いよ」
「まあ、そうだね。何百年も経ってから真実が掘り起こされ、英雄だと思っていたら犯罪塗れのクズだと分かった者も居るぐらいだ。勝てば全てが許される……なんて事は絶対に無いよ」
ジュディは何やらこちらに興味を無くしたらしい。多分、それなりに面倒な謂れがあると気付いたんだろう。これ以上どうこうと言っていても仕方ないので、全てを仕舞うミク達。その後、ローネとネルとユミは酒を飲み始めた。
ユミは平氏の人達を思い、ローネとネルは散々見てきた理不尽な結末を思い出しつつ酒を飲む。ミクとヴァルは適当にトランプで遊びながら過ごす。バスの中で遊べるものとして色々と買っているので、暇潰しの玩具は持っているのだ。
ジュディもビデオ通話を終えてから参加し、眠たくなってきたら【快眠波】で眠らせた。その頃には酒飲みも寝ていたので、分体を停止し本体へと戻った。
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明けて翌日。今度は奈良県への移動だ。帰りに寄っていくとはいえ、それなりには車で揺られる事になる。小型バスでの移動が多いので、暇でしょうがない二人。ミクは肉を食べているので暇ではないし、ヴァルはジュデイの勉強を手伝っている。
ユミはスマコンで色々指示をしているので暇ではなく忙しい。なので暇なのはローネとネルだけで、寝ていたりカードゲームをしていたりして遊んでいる。そんな風に時間を潰していると、奈良県奈良市に到着した。
ここにダンジョンがあるので、ダンジョンの近くのホテルをとり、少し外に出て買い物に向かう。ポシェットに関しては、後でユミというか星川財閥に渡す事になった。もちろん研究用だが、研究して解明出来るのかは疑問である。
そんな事はユミも承知の上だそうだが、それでも人類の夢のような鞄だ、作れるようになれるなら画期的な事であろう。……できるなら。
そんな話をしながらも必要な物を買い漁り、ホテルへと帰っていく一行。其処彼処で写真や動画を撮られたものの、誰も気にしていない。ジュディに関してはどうか分からないが、本人は気にしていないようである。
ホテルに戻ると夕方だった為、さっさと食事をして部屋へ。ジュディのビデオ通話が終わったら、いつも通り【快眠波】で寝かせる。後はローネ達を満足させて寝かせれば終わりだ。ミクは分体を停止し本体へと戻っていく。
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翌日。ホテル内で食事をとった一行は、ダンジョンへと移動し中へと転移する。1層目は平原ではあるものの小山が見える。それなりに起伏があるものの、平原と言えば平原という地形だった。アースモールやネイルラビットなど、地中の魔物が多いらしい。
そんな中をさっさと移動して行き、ボス部屋のある10層へと辿り着く。このダンジョンも20層のボスが突破されていない。ただし多数が亡くなっているのではなく、誰も挑戦しないだけである。理由は11層以降のキノコだ。
まずは10層のボス戦と思い中に入ると、事前情報通りにボスが現れた。それはホワイトウルフ5頭だ。狼と考えれば厄介かもしれないが、攻略者は催涙スプレーを使うらしい。その一吹きで戦闘続行不能になるらしく、ここのボス戦は簡単に突破できるそうだ。
一行は、ヴァルとローネが切り裂き、ネルがカチ割り、ユミが断ち割り、ジュディが穴だらけにして終了。次の11層へと転移される。11層からは山なのだが、19層まで赤松の山なのだ。つまり大量の松茸がある。
これが20層のボスに挑戦しない理由なのだが、高く売れる物があれば、危険を冒さないのは当然だろう。ついでに奈良県という所の県民性も安定を求める傾向が強いらしく、それも挑戦しない原因だろうとユミが言っている。
大江戸ダンジョンでも松茸は手に入る為、一行は無視して山の地形を進んで行く。魔物も然して強くなく、ビッグラビットとダッシュディアーにイエローセンチピードぐらいである。ムカデが嫌われ者だが、死ぬような毒でもない。
イエローセンチピードの毒は噛まれた場所から一定の範囲が、痺れてまともに動かなくなるぐらいである。その毒も半日程度で回復するぐらいだから、そこまで強い毒でもない。首周りなど急所を固めていれば問題無く防げる。
ダッシュディアーが体当たりをする為に走ってくるが、音が五月蝿いのと回避が簡単なので当たる事は無い。そもそも走る前に鳴くなよ、とは思う。態々報せているとしか思えず、なんとも言えない気分になる一行。奈良ダンジョンは優しすぎないだろうか?。
層を進んで行くものの、松茸狩りをしている者が多い。よく採れて儲かるからだろうが、ビックリするほど多く他のダンジョンの2~3倍ほど見かける。稼げるダンジョンには、ここまで人が集まるらしい。下京ダンジョンには無理な事であろう。
そんな話をしながらも足早に移動し、20層のボス部屋前。休憩しつつボス戦前なので、気を引き締めさせる。今までが簡単だからと言って、ここのボス戦も簡単とは限らない。
『今まで簡単に見せておいて、いきなりここから難易度を上げてくる可能性はある。そういうトラップで殺しにくる場合がな。この星のダンジョンは何故か罠が無いが、今まで無かっただけでここにはあるかもしれん。注意しろ』
気を付け過ぎるという事は無い。警戒し過ぎて損をした、というぐらいでいいのだ。死ぬよりは遥かにマシである。気を引き締めて、一行は20層のボス部屋へと踏み込んだ。




