0308・下京ダンジョン攻略の続き
11層に進むと、今度は森だった。何故か下草が伸びきっており、更には藪になっている森だ。非常に進むのが面倒臭そうな、見ているだけでゲンナリしてくる場所である。そんな中をミク達は進んでいく。藪が薄い方ではなく、濃い方へ。
一番前でヴァルが藪や下草を切り払いながら進まないと、前が殆ど見えない程に鬱蒼と生い茂っている。とことんまでに嫌がらせに特化したようなダンジョンだ。1層目からもそうだが、ここまで地形で攻めてくるダンジョンも珍しい。
ヴァルが素早く疲れも無しに切り払ってくれるからいいが、そうでなければ早々にリタイアしそうなダンジョンである。ミクに攻略の要望が出る筈だと思うが、同時にミク達でさえ払って進むしかないという現実に、動画を見る者達は何を思うのやら。
「ヤマトの神話には天叢雲剣という剣が出てくるんだけど、日本武尊という人物が、火に囲まれた時にその剣で草を払って脱出したという話があってね。それ以降、草薙剣と呼ばれるようになったんだよ」
「うん? ユミ、何だ急に」
「いや、ねえ……。その話と同じような扱いをしてるなあ、と思っただけだよ。<八握の剣>もそういう時代に使われていた剣の筈だからね。……まあ、剣は剣だし。持ち主がどう使うかは持ち主の自由だ。気にしなくてもいいか」
「異常な程に頑丈だから問題無い。それに欠けたりするような使い方はしないし、汚れたらすぐに【高位清潔】を使ってる。あれの剣身はいつも綺麗」
「そういう問題でもないんだけど、気にしたら負けか……」
そんな話が後ろで出来るほど、なかなか前に進めない地形だ。層を移動する毎に切り払わなければならない為、なかなか前に進めない。いい加減に腹が立ってきたのだろう、ミクが前に出て【魔力嵐刃】を使い始めた。
藪どころか周囲を吹き飛ばしつつ切り刻みながら進んでいき、あっと言う間に次の層へ。それを繰り返して20層へとやってきた。普通の攻略者では出来ないような事を平然とやってのけるのは如何なものであろうか?。
「そんな事を言われても、面倒なものは面倒なんだから仕方ないじゃん。正直に言って、ここまで面倒臭いのは初めてだよ。イエローボアが出るから、あの藪の中を頑張って探すんだろうけどさ。私には関係ないからね」
「そういえばイエローボア狙いの連中は藪の濃い方には進まないらしいな。おそらく赤い魔法陣に近付くと藪が濃くなり、青い魔法陣に近付くと藪が薄くなるんだろう。進むなら面倒な地形だ」
「意図的にこういう地形にしているという事は、ボスはあまり強くない? イエローボアが出る以上は、11層からで十分お金は稼げる。進む事を考えると嫌になってくるけども」
「そうだけど、それでも藪の薄い方はそこまでではないらしいし、そっちの方がイエローボアは多いらしいね。調べた連中がそんな事を書いていたよ。先へ進むには藪が立ちはだかり、脱出にはイエローボアが立ちはだかる。そんな感じかね?」
『面倒ではあったが、その分時間を使っている。できるだけ早く進む為にそろそろ行こう。お菓子も十分食べられただろう?』
「もうちょと食べたかったけど、まあいいや」
ジュディがお菓子をミクに渡し、ミクはアイテムバッグに仕舞う。準備を整えて中に入り、魔法陣から出現したのはハイファングボーアとハイゴブリン五体だった。ハイゴブリンはハイファングボーアの背中に乗り、こちらに槍を構えている。
「また面倒な装備持ちっていうか、装備持ちを超えて騎兵じゃないか!? 何でこのダンジョンは面倒臭いんだい全く! まずはあの猪かねえ!!」
「そうだな。まずはハイゴブリンが乗っている、ハイファングボーアをどうにするべきだろう。足を攻撃すればどうにでもなるが気を付けろ! 場合によっては危険を冒さず魔法で対処しろ!!」
ユミに狙いを定めた一頭が突撃してくる。
ユミは左に動くが、すぐにそちらに進路を修正してきた。ハイクラスといってもボスだ。簡単に攻撃させてくれるほど優しくはない。仕方なくユミはギリギリになってから飛び退くも、体重の乗った攻撃は出来なかった。
再び戻ってくるハイファングボーアに対し、ギリギリまで引き付けたユミは【風弾】を使いつつ右に避ける。【風弾】を顔面に受けたハイファングボーアは、反応もせずに通り過ぎて反転。
再びユミに突撃してくるハイファングボーア。上に乗っているハイゴブリンは槍を騎兵槍みたいに持っているだけで、それ以外は何もしてこない。なので再びギリギリまで引き付けると、今度は【土壁】の魔法を使う。
それなりに魔力を篭めたからだろう、硬めに作った土壁に派手に激突したハイファングボーアは立ち止まってしまう。その隙を見逃すユミではなく、素早く足を切り落とした。
その後は飛ばされたハイゴブリンの頭を断ち割り、戻ってハイファングボーアの頭も断ち割る。
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少し時間を戻してこちらはジュディ。ハイファングボーアが真っ直ぐ突っ込んで来るのを見つつ、ギリギリまで引き付ける。そして横にジャンプして避けると同時に背中から羽根を出し、飛びながら追いかけつつ【魔力投槍】を連打。
ハイゴブリンを穴だらけにしつつ、走るハイファングボーアを追いかけていく。ジュディの飛ぶ速度の方が速い為、最後には追いつき【魔力投槍】で足を穿たれ転倒。最後は剥き出しの腹に集中攻撃を受け倒された。
【精霊飛行】のスキルを持つジュディは背中の羽根が魔力で作られる為、実は歩行も飛行も普通に出来る。着る服を選ぶ必要も無く、飛びたい時に魔力の羽根を出せばいいだけである。代わりに魔力を多く消費する為、精霊のように常時飛ぶ事はできない。
通常の妖精族の場合は、物理的な羽根が背中に生える為、着られる服にかなりの制限が掛かる。実際、ブリテンでは新たに妖精族がもう一人生まれたが、そちらは少年らしく助かったと言われている。
上半身が裸でも、女性ほど問題にならないからだ。現在ブリテンでは妖精族に合う服を作る為、服飾メーカーが四苦八苦しているらしい。
それはさておき、他の三頭は既に倒されている。ヴァルにハイゴブリンごと切り裂かれ、ローネにも一刀で斬殺され、ネルにはシールドバッシュを受けた後カチ割られた。あっと言う間の出来事であり、瞬殺といってもいいだろう。
それらを余す事なく撮影したミク。どうもそれぞれにファンが居るらしく、現在ミクは映えるように撮影する事を心がけている。肉塊には分かり難いのだが、何でも映像が映える角度とかがあるらしい。
最初は映っているなら良いじゃないかと思っていたミクだが、今は映す事をちょっと面白がっていたりする。ヴァルはミクと同じで分からないのだが、ローネとネルは綺麗に映りたいらしい。それもあって練習をしている最中だ。
先ほどの戦いも、それなりに良い感じで撮れていると思う。
「まあ、撮影のテクニックというのも奥が深いものなんだけど、そもそも学術的なものだったり、攻略の為の動画だからねえ。肝心な部分がちゃんと撮影できてたら及第点だと私は思うけど」
「まあ、綺麗に撮ることよりも、重要な部分が映っている事の方が大事だな。綺麗に撮るあまりに肝心な部分が映っていないのでは、何の為に撮影しているのか分からなくなる」
そう言いつつも、カメラに対していい角度で映ろうとする二人。今は問題無いとはいえ、そろそろ気を引き締めて進むべきだろう。




