0306・摂津ダンジョン終了
一行は話しながらも31層を進んで行く。今度は疎らな林がある層だが、川が多く流れている。四方八方に川が入り組んでおり、目的の方角が分かっても簡単には進めない。川に近付くと巨大な鰐の魔物であるジャイアントアリゲーターとフライングピラニアが。
平原や林ではグレーターオーガやグレーターゴブリンが出現する。それもグレーターオーガはともかく、グレーターゴブリンは弓持ちだ。シャレにならない。この摂津ダンジョン、殺意が高過ぎないだろうか?。
ジュディはミクが守っているから良いが、ユミが大変である。仕方なく、ヴァルが守りつつも初めて<剣王竜の弓>を取り出した。矢は普通の矢であり、先が尖っているだけの木の矢である。
しかし、それがヴァルの膂力と<剣王竜の弓>で放たれると、見えない矢が敵に突き刺さるのだ。当たる度に「ズドンッ!!」という音がする威力で、ユミやジュディだけでなくローネやネルの顔も引き攣っている。あんなもの、自分に向かってきたらどうにもならない。
『弓を使うのは随分久しぶりだが問題無く使えるな。ミキから聞いた和弓というのを主が面白がって作ったが、なかなかどうして大型の弓というのは面白い。少しズレたが威力として申し分ないな』
弓持ちゴブリンの額に直撃しているのに、何処がどうズレたのだろうか? 気になるところだが、誰も聞く事なく進んで行く。聞いたって仕方ないし、威力が明らかにおかしいので見ないフリをしたいようだ。
グレーターオーガはローネやネルやユミが、グレーターゴブリンはヴァルが射殺していく。それもグレーターゴブリンの持っていた貧相な矢を回収して使う有様である。にも関わらず、どんどんと射殺していく。何故合わない矢を使えるのだろうか? とユミも呆れて見ている。
川の所為で余計にウロウロさせられるも、何とか頑張って39層。ついにボス部屋へと辿りついた。一行は疲れたので休憩し、ウロウロさせられたストレスをお菓子で解消する。ミクは本体が肉を食べているので、あまりストレスは感じていない。
今もレイラが独裁国家の肉を送ってきており、それを本体が味わって咀嚼している。裸にひん剥いた後で、ボリボリゴリゴリと肉と骨を噛み砕いているのだ。後で纏めて圧縮し、骨は外へと出して保管しておく。骨盾に食わせる為だ。
皆のストレスも緩和された為、準備を整えてボス部屋へと入っていく。少し待って荒野に登場したのはアークオーガであった。身長は2メートル程でグレータークラスより小さくなっているが、凄まじい膂力があるのか異常な大きさの剣を持っている。それ以外は腰布を巻いているだけだ。
それを見たヴァルは毛皮を脱いでアイテムバッグに仕舞い前に出る。ミクがドラゴンバスターを投げ、それがヴァルの右の地面に突き刺さった。それを右手で引き抜き両手で持つと、正眼に構えるヴァル。
アークオーガとヴァル。お互いにニヤリとした後で、一気に走り始める。
『うぉぉーーーっ!!!!』
「ガァァーーーーッ!!!」
お互いの得物がぶつかり、大爆発したような音が響き弾かれる。それでも再びぶつかり、お互いにお互いの得物をぶつけあう。ひたすらに爆音を響かせ轟かせながらぶつかり、遂にドラゴンバスターが壊れた。その瞬間、アークオーガは武器から手を離し、殴り合いに移行する。
体を殴っているのにも関わらず「ドガンッ!!」と音をさせながら、お互いに一発ずつ殴り合うアークオーガとヴァル。
「『ハハハハハハ……!!!』」
お互いに笑いながら殴り合いを続け、遂に耐えられなくなったアークオーガが膝を突く。それでも立ち上がったアークオーガは力を振り絞ってヴァルを殴り、ヴァルは少し下がって右拳を引いて構える。
『これが本当の全力だ、受けろ!!!』
真っ直ぐに正拳突きを行うヴァル。その拳はアークオーガの心臓の位置に吸い込まれ、「ドゴンッ!!」という音と共に突き抜けた。アークオーガは自分の胸を見た後、ヴァルにニヤッと笑いかけ、そしてヴァルに倒れこむようにして死んだ。
ヴァルも拳を抜き、アークオーガの死体を地面に横たえる。ミクがジャイアントと殴り合いをした時は呆れていた癖に、今は自分も殴り合いをしているヴァル。なのでミクも呆れたような顔で見てやった。ちなみにジュディは笑っている。
ヴァルはなんとも言えない顔で目を逸らすと、赤青の魔法陣と木で出来た盾が出てきた。それを拾って赤い魔法陣へ。
40層に到着すると、そこは赤い大地と赤い池のある風景だった。そして目の前には赤い鬼が居た。その鬼は前に出てくると、指を差して指名してくる。それはネルなのだが、何が始まるのだろうか? そう思っていると、上から木の棍棒が落ちてきた。
片手用の木の棍棒だが、それを両者が持った瞬間、戦いの火蓋が切って落とされた。赤い鬼はネルと同じくらいの身長だが怖ろしいまでの怪力であり、振り下ろされた棍棒をネルは棍棒で受け止めたが、ネルが後退させられる程の威力だった。
その後、ネルは全力を篭めて棍棒で殴りつける。創半神族のパワーも並みではない。相手の赤鬼を後退させる威力を叩き出す。とんでもない威力の殴り合いが続くが、10合ほど続けると棍棒が壊れた。
すると再び上から棍棒が降ってきて仕切り直しとなる。何がしたいのか分からないが、そんな戦いが続いた後、遂に均衡が破られる。赤鬼が押され始めたのだ。そこからはネルの連打が続き、最後に脳天に叩き付けて勝利を決定付けた。
赤鬼が倒れると急に風景が消えていき、近くに大きな川のある河原に立っていた。目の前に青い魔法陣が出現し、持ち手の下が輪になった金属製の棍棒が落ちていた。ミクが拾おうとすると「バチッ」と弾かれたのでネルが拾う。すると問題なく拾う事が出来た。
青い魔法陣で脱出すると、既に辺りは暗く夜になっていた。慌ててホテルへと戻り、レストランで食事をした後で部屋へと戻る。皆も疲れたが、ジュディがビデオ通話をしている影で鑑定を始めるミク。
最初は木の盾からだが、これはどうなんだろうと思う。
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<地獄の木盾>
アークオーガが全力で殴りつけても壊れない木の盾。地獄の木である火焔双樹で出来ており、その堅牢さと火への強さは異常なほど。当然ながら生きて地獄へ行く事は出来ず、ダンジョンで手に入れるしか入手方法が無い。ダンジョン産。
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「「「「火焔双樹……」」」」
『しかし、地獄の木とは滅茶苦茶だな。その盾はネルが持つのが一番良いんじゃないか? 主のドラゴンバスターを壊してしまったのは悪いが、主はあの盾を持っているし、他の盾を使うと拗ねるだろうからな』
「私の腕に小さく腕輪みたいに付いているけど、こいつ大きさが変えられるから便利なんだよね。今のところはこれ以上便利な盾も無いし、私は使う気が無いからネルに良いんじゃない。さっきの棍棒と組み合わせれば、前に出られるでしょ」
「戦いにおいては前に出ずにリーチの長い物で戦うべき。戦うべきなんだけど、そうも言っていられない。ジュディを守るにはもう一人ぐらい盾役がいる。今は盾を持ってないヴァルが盾役をしてるけど……」
そう言いつつ、ネルは手に入れた棍棒を<鑑定板>の上に乗せる。鑑定結果はなかなかに困る内容だった。
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<赤鬼の金棒>
地獄の獄卒こと赤鬼が使う金棒。輪の部分を持って振り回すもよし、先のトゲ部分を豪快に叩きつけてもよし。とにかく膂力を余さず叩き込むための武器。正面から真っ直ぐ、力で叩き潰せと鬼が叫ぶ。
<赤鬼>を倒した<ネルディリア・アトモスト・ヴァイヘルム・ドヴェルク>専用であり、他の者は使えない。ダンジョン産。
武器を一時的に重くするスキル、【鬼重爆潰】が使用可能。重さは殺した獲物の数に比例する。
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「「「………」」」
「つまり獲物を殺せば殺すほど、叩きつける際の重さが増すって事だね。限度はあるんだろうけど強力だし、そのうち重さだけで敵を潰せるようになったりして」
それもそれで、どうなのだろうか? と悩むネルであった。




