0305・摂津ダンジョンの続き
摂津ダンジョン20層。現在ボス戦の真っ最中であるが、にじり寄って来ていたオーガはピタリと止まると、一呼吸置いて一気に攻めてきた。まずは一番前の盾と鎖帷子のオーガが突っ込んで来る。盾を前面に出しての突撃である。
オーガの身長は2メートル50センチを超える。それが身長と変わらない高さの盾を構えて突撃してくるのだ。怖ろしい事このうえないが、それに対して両腕を突き出してぶつかるヴァル。微動だにせずオーガを止めてしまう。
盾のオーガが驚いて止まっている間に、右のユミと左のローネが前に出て、剣のオーガと金砕棒のオーガの足を切り裂く。途端に倒れ、立ち上がれなくなるオーガ。盾のオーガと押し合いをしているヴァルは力を抜くと、左に逃げる。
当然いきなり力が消えたオーガは前に転倒し、その隙を見逃がされる筈も無く、延髄にユミの薙刀が叩き込まれた。これで残るは立ち上がれない二体だけであり、それらはヴァルとローネに切り殺されて終わる。
21層へと転送されるも、なかなかに強者だったオーガに驚いた一行。何と言っても、賢いオーガは厄介極まりないと言える。普通の攻略者はどう倒すべきであろうか?。
「普通の者達ならば、盾のオーガの相手をしつつ。他のオーガの足を潰す事だな。魔法かそれとも武器かは別にして、盾のオーガに構っていると不利な状況に追い込まれていくのは間違いない。出来るだけ速やかに盾以外を殺すべきだろう」
「うん、それが一番安定している。装備を着けたオーガなんて予想外もいいところ。アレは卑怯と言っても差し支えない。安全策をとるなら、スタンガンというのを使うといい。アレなら痺れさせる程度は出来る」
「それと催涙スプレーだね。ボス戦で使っている人はそれなりに居るらしいけど、そういう物をちゃんと準備すれば攻略は可能だよ。ただし、事前情報が無いとアレはちょっと無理だろうね」
「むーーー。魔法が効きませんでした! 私の魔法が全く効きませんでした!!」
『それは仕方ないだろう。あの盾はかなり優秀だったみたいだしな。主ほどの威力であれば突破できるだろうが、ジュディの威力では仕方あるまい。それにあれは正面から挑むべきではない相手だ』
「だね。あれだけしっかり防御を固めている相手を、態々正面から崩す理由も無いし。適当に相手しつつ、他の奴を倒した方が手っ取り早いよ。無意味に拘る必要は無いね」
21層の荒地を進んで行くのだが、何故か其処彼処にサツマイモやらジャガイモやらトマトが生っている。ここはナス科の野菜ばかりなのだろうか? そんな事を思いながらもヴァルに収穫してもらう。
一応研究所に提出する分と、自分達で食べてみる分だ。サツマイモやジャガイモは時間が掛かるが、濡らして鍋に入れ、魔法で加熱しながら浮かせて運ぶ。【加熱】の魔法と【魔縄鞭】の魔法を併用しているのだが、ジュディがキラキラした目で見ている。
「申し訳ないけど、ジュディにはまだまだ早いよ。【加熱】の魔法もだけど、【魔縄鞭】の魔法は魔力消費が激しい。【魔力高速回復】を持つジュディでも、回復より消費の方が遥かに多いからね。すぐに枯渇する」
枯渇という言葉を聞いて嫌そうな顔をするジュディ。他の者に比べ枯渇からの復帰時間は短いのだが、受ける苦しみは変わらない。なので当然ながら好む筈がないし、ジュディの場合は闘気も鍛えている。これが苦しいのだ。
妖精族はそもそも闘気の少ない種族である。にも関わらず鍛えさせられているので、苦しみが本当に厳しいのだ。それでも強くなっている自覚はあるのか、止めるとは言い出さない。
21層からの荒地ではレッドスコーピオンやレッドボーアなど、赤茶けた大地に似合う色の魔物が出て来ている。それらを倒しつつ進み、30層のボス部屋前。先ほどからじっくり焼いていたサツマイモとジャガイモを食べつつ、ゆっくり休憩をとる。
「それにしても、このサツマイモは美味しいねえ。甘くてトロっとしているにも関わらず、甘さがしつこくない。正に自然の甘味という感じがするよ。いや、本当に美味しいね」
「うん。本当に美味しいよ、この芋。ユミが言う通りすっごく甘いし、すっきりしてるから粘つかないの。紅茶と一緒に食べるといいね」
「ブリテンの人はヤマトと同じく、お茶に砂糖は入れないからねえ。だからこそ甘い物を流してくれて丁度良いんだよ。それにしてもダンジョン内の作物は美味しいのばかりだね。魔力の影響かな?」
「おそらくそうだろうな。外よりも濃い魔力が作物に大きく影響しているのは間違い無い。とはいえ、この星の作物も普通に美味しいがな? そこまで不味い訳でもないから、気にする事でもないと思うぞ?」
サツマイモとジャガイモ以外にも色々食べ、十分に休憩をしたら30層のボス部屋へ。中に入って現れたのはグレーターオーク三体だった。今回も武器を持っているボスだ。
一体は大きな鎌を持ち、もう一体は大きなフレイルを両手に持つ、そして最後の一体は大きな鍬を両手に持っていた。
そして麻布の手ぬぐいを全員が首に巻いており、革の前掛けも身に着けている。……いったい何処の農家だよ、お前ら。
フレイルと鍬のオークが前に出て、後ろに大鎌のオークが居る。そのまま走って突っ込んできたのでヴァルとローネが前へ。すると、間合いギリギリでフレイルと鍬が攻撃してきた。
ヴァルとローネは急停止してやり過ごすが、即座にもう一方の武器を振り下ろしてきた。それもバックステップでかわすと、最初に振り下ろした方を水平に薙いでくる。
息も吐かせぬ連続攻撃だが、そこにジュディの【魔力投槍】が飛ぶ。しかし、グレーターオークは全く意に介さず攻撃を続けてくるのだった。
そうしていると、突然後ろのオークが一気に前に吶喊、大鎌を薙いでくる。ローネは慌てて<殺意の紅太刀>で受けるも、力の強さに押しやられてしまう。その瞬間フレイルが頭の上に振ってくるも、ユミが薙刀で防ぐ。
そうしてオーク二体が止まった瞬間、ネルが<槍鹿王の騎兵槍>で右端のオークの腹を突き刺す。抵抗も許されずに突き抜けた騎兵槍によって一体が沈んだ。慌てて態勢を立て直そうとするが、遅い。
隙を見たヴァルが、即座に<八握の剣>で大鎌のオークに袈裟切りを放つ。大鎌のオークは流石はグレータークラスであり反応したものの、防御に使った大鎌ごと切られ臓物を地面にブチ撒ける。
最後のフレイル持ちオークは善戦したものの、ユミの攻撃で足を切られ、その直後にローネによって水平に切り裂かれた。最後はブチ撒けながら、地面に上半身と下半身が分かれて倒れる。
装備持ちはそれなりに面倒だが、ちゃんと戦えばそこまで強くない。先ほどのグレーターオークも槍を使って戦えば十分に勝てる。防具は革の前掛けだけなので、鋼製で十分貫けるだろう。
「慎重に戦うなら怪我をさせて血を流させるのが基本だ。槍なら三角錐の穂先か? とにかく十分に刺せれば、後は血を流して勝手に弱体化する。こちらも同じだがな。いかに敵の攻撃を受けないかが肝要だ」
「当たり前ではあるけど、基本ほど重要なのはどれも同じという事だね。それにしても装備を持つと途端に厄介になる。元々人間種はそこまで力も強くない。パワーもスピードも圧倒的に魔物の方が上だからねえ。困ったもんさ」
「仕方ない。そういうものだと言えるし、魔物が弱いなんて事はあり得ない。何処でも同じ、相手を舐めた奴から死ぬ。臆病なくらいで丁度良い。今生きているなら、それで十分」
確かに死ぬよりはマシであろう。ここは戦場であり、命の奪い合いをする場所だ。




