0300・三つの祭器
放火魔としての映像を撮りつつ先へと進む。色んな意味でのパニック映像になっているが、ミク達はまったく気付いていない。動画を見た連中の阿鼻叫喚が目に浮かぶようである。この一行は欠片も気にしていないが。
そんなこんなで30層のボス部屋前。そろそろグレータークラスであり、問題はどのグレータークラスかだ。道中に出てきた魔物のグレータークラスとは限っていないが、アレが出てくるとまたミクが燃やしそうではある。
そんな予感がしつつ中へ入ると、現れたのは赤い蟷螂。グレーターレッドマンティスだ。こいつは赤色ではあるが、【火魔法】を使ってくる奴ではない。ただ、熱に強い魔物なのだ。よって虫によく効く【火魔法】がむしろ効き辛いボスとなっている。
とはいえ、この程度の魔物ならエイジ達でも倒せるので、ミク達からすれば楽勝な相手でしかない。ジュディがバンバン顔に向かって【風弾】を放ち、それを嫌がっている隙にヴァルとローネが足を切り落としていく。
鎌は前にしか振れない為、螳螂系の魔物は左右と後ろにめっぽう弱い。足を落とされて動けなくなれば、後は殺されるだけだ。誰も苦しめるつもりは無いので、腹を切り裂いて即座に離脱する。
案の定、中からウネウネしたハリガネムシが出てくるが、それはジュディの【風弾】を何発も喰らい沈む。ハリガネムシも込みのボスだったのか、倒した後でようやく魔法陣が出現、31層へと転移された。
ここからは山の地形であり、出てくるのもグランドベアやマッドバイソンらしい。なかなか強力な魔物を揃えているが、急に殺意が上がった気もする。そんな中を魔物を倒しつつ進んで行く。ジュディも魔法を使いながら応戦するが、ちっとも役に立っていない。
色んな意味でこれからの目標になるだろうから、無駄でも出来るだけ戦わせる。グランドベアもマッドバイソンも回収しつつ進み、39層へと到達。ボス部屋前で遅い昼食をとりつつ、ここから先の話し合いをしておく。
「39層でボスという事は40層で終わりなのだろうが、問題はどれほど強力な奴が現れるかだ。前のダンジョンの様に、アークスケルトンのベルセルクタイプだと技量が高くて厄介極まりないぞ」
「だとするとヴァルが前で戦うのが一番良い。そもそも専用武器というか、本人認証がされる武器は40層にしかない。39層のボスは出しても普通の物。そういえば39層ボスで確実に何かが出て来てるけど、これって初めての際には確定で出る?」
「分からない。そもそも【世界】が作ったダンジョンだけど、前の前の星でも奥の方だと確定で出てたから、奥の方は初回だと確定なのかもね。私も詳しい事は知らないから分からないけど」
ジュディは一言も喋らず、黙々とおにぎりを食べていた。白いご飯はそこまででもないが、何故かおにぎりは美味しく食べられるらしい。中に具が入っているからだろうか? その辺りはよく分からないが、本人が喜んでるならいいかと放り投げる。
十分に食事を取った後、39層のボス部屋へ。中に入り現れたのはツバメだった。ヤマトの空でも見る鳥であり、何の変哲も無い鳥であろう。その鳥が草原の上空を飛んでいる。が、突然急降下して襲ってくる。
ヴァルが<八握の剣>で切りつけるも、翼に当たると「ギィン!」と音がして切れなかった。代わりにツバメも飛ばされてしまったが、再び上空へと上がってしまう。流石に<八握の剣>で切れないとなると相当マズい。
「ヴァル! これを使って正面から叩き落せ! そして盾! ヴァルの言う事を聞くように!!」
『了解だ、主! 少しの間コイツを借りる!』
「………」
骨盾は何か言いたそうだが、プルプル震えるだけで思考を伝えられる訳ではない。ミクは何となく言いたい事を分かっているが、完全に無視している。そもそもボスに勝つ方が重要なので、盾の文句はどうでもいい。
再びツバメが急降下してきたが、ヴァルはツバメの進路上に出ると、全力でシールドバッシュを喰らわせる。「ドンッ!!」という衝突音がした後、後ろに吹き飛んだツバメにローネが追い打ちを行う。
実はヴァルが盾を構えていた時からタイミングを計っており、絶妙のタイミングで走り始めたローネは、ヴァルとツバメが激突した瞬間にヴァルを追い抜いてツバメに肉薄する。そしてツバメが態勢を整える前に、<殺意の紅太刀>で胴を切り裂く。
あっさり臓物をブチ撒けたツバメは死亡し、斧と赤青の魔法陣が出現した。ボス戦が始まってから全く戦えなかったジュディは不満だが、かと言って何も出来なかったのも事実なので悔しさの方が大きいようだ。
ミクが斧を回収し、一行は赤の魔法陣に乗って先へと進む。40層は洞窟の地形であり、再び土蜘蛛が居た。今回の土蜘蛛もヴァルの前に歩いて行っては、何かを呟いた後で煙のように消える。
そのまま洞窟を進んで行くと、青い魔法陣の前に赤黒い色の勾玉が落ちていた。当然ヴァルが拾い、弾かれる事もなく身に着ける。一行は青い魔法陣に乗って外へと脱出するのだった。これで三つ全てが揃ったが……。
外へ出た一行はバスで移動してホテルへ行き、すぐにレストランで食事をする。既に夕方なので急いで食事を行い、後は部屋でゆっくりと休む。
ジュディが部屋でビデオ通話をしている最中に、ミクは手に入った物を鑑定する事にした。一応ビデオ通話には映らない場所で鑑定しているので問題は無い。その結果は予想したのと少々違っていた。
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<刃燕王の鋭斧>
刃燕王ことアークブレイドスワローの翼を思わせる刃を持つ斧。羽と骨などを組み合わせて翼の形にしてあり、その切れ味はドラゴンを存在しない物のように切り裂く。代わりに軽いという弱点も持つが、切る斧と考えれば十二分に使える品。ダンジョン産。
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<嘆きの勾玉>
土蜘蛛達の憎悪と怒り、嘆きと悲しみを集める勾玉。これを用いる事で素早く広い範囲から集める事が可能。また三つの祭器を出しておくと、吸収量が加速度的に増える。魔力を流すと周囲に祭器を浮かせる事ができ、手に持たなくても運ぶ事が可能。祭器の所持権を持つ<使い魔>専用。ダンジョン産。
我等の思いを祭器に集めよ。願わくば新たな勝利の礎とならん事を願う。
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「やはり負けたままでは怨みも憎しみも晴れんか。勝たねばそれらが無くなる事もないのは、何処でも変わらんな。それでも集まるとは思わなかったが、平氏とやらの物も他にあると思うか?」
「さて? 源氏と争った平氏は根絶やしにされたけど、平氏の血筋全てが殺された訳じゃないんだ。公卿や公家の血は絶やせなかったからね、その辺りには残っているから土蜘蛛の人達とは違うかも……」
「………つまり権力者の血筋にも平氏の血筋がいて、そいつらは権力者側だったから根絶やしにされずに済んだ……という事? 残ったから怨みがそこまででもない。でも、<殺意の紅太刀>が出てくるぐらいには怨みはある」
「難しい話さ。権力闘争だったり、その他にも色々とあるしね。何より歴史書は勝者によって書かれる。書かれている事が必ずしも正しいとは限らないんだよ。何かを隠す為に書かれている事もある」
『歴史の闇に葬りたいもの、もしくは誰かを助ける為に書かなかった事とかか。当時何があったかを明確に残していない以上は、分からんという事だな。何より残された記録が本当に正しいかも不明だ』
歴史の常とも言えるものだが、その当時の噂と真実は違うものであり、当時の庶民の噂話がさも事実かのように書かれている事もある。
歴史というのは難しいなと思うミクだった。




