0297・ジューディア・オルストーム
ミクが銃で撃たれたものの、周りに子供達が居なくて良かったというところだろう。既に演習場にはおらず、練習が終わったとしてさっさと帰っていた。なので安心して本性を曝け出せる。
ミクは瞬時に肉塊になり、発砲してきた三発をブリテンの軍人の太腿に返してやる。「「「ガッ!?」」」という声と共に地面に片膝をつくも、顔を上げると肉の怪物が目の前にいた。
ブリテンの軍人三人が声を上げようとした瞬間、ミクは触手で殴って宙吊りにする。以後、気絶するまでボッコボコに殴りつけたミクは、気絶した三人を地面に放り捨て、腹に一撃を加えて無理矢理起こす。
「お前達が誰に喧嘩を売ったか理解したか? これが私だ。貴様ら如き脆弱な人間とは違う。コレが私だ! ………理解したな? 出来なければ殺す。理解したな?」
ミクがそう言うと、三人のブリテンの軍人はコクコク頷くだけで声も出せないようだった。目の前の女性がいきなり肉塊になれば驚くのも当然である。ミクは<女性形態>に戻るが、すぐにローネとネルとヴァルが視線を塞ぐ。
ミクはささっとワンピースとスカートを履き、その後に竜革のサンダルを履く。その間にブリテンの軍人に<天生快癒薬>を飲ませるヴァル。
ブリテンの軍人どもは、どうやら妖精族の子供に何かしたと思い発砲したらしい。それだけで発砲するとか危険人物かこいつら? と思うヴァルだった。
「我々は彼女を守らねばならん。先ほど偏見を持つと言っていたが、実際はそれより酷い。彼女を金を集めるための道具にしようとしている連中と、怪しげな呪いの生贄にしようとしている者どもも居るのだ」
「仮に生贄を使い呪いを作り出したとしても、それは真っ先に自分に向かってくるぞ? 生贄で作る呪いは生贄の怒りや憎しみで作られる。当然向かう先は、自分を生贄にした連中だ。ブリテンとかいう国の奴等はそんな事も知らんのか?」
「我が国の者ではない!! どこかは分かっていないが、我が国を転覆しようとしている連中だ!」
「成る程。敵国で呪いの儀式をし、呪いを生み出して破壊しようとした。物凄く頭が悪い。さっきローネが言った通り、呪いは生み出した本人の憎悪や怒りなどを糧にするけど、それの行き先は当然本人が憎悪する者達に行く」
『呪い談義はいいのだが、何故あの妖精族の子は主を見て目を輝かせているのだ? どう考えても普通の人間の反応ではないぞ?』
「「「………」」」
「すまない。何故かは私達にも分からない。ああいう者が登場する物語を好む者も居るとは聞くが……。彼女がそうなのかは聞いた事がない」
妖精族の子は、ミクの周りを飛びながらキラキラした目で見ている。ミクは指先を触手に変えつつ、この事は黙っておくように言った。「いちいち面倒臭いから」と言うと、妖精族の子も納得している。
「私の名前はジューディア・オルストームです。種族で呼ばないで名前で呼んでください。皆からはジュディと呼ばれてます」
「そう……。それはいいとして、ジュディはいつまでヤマトに居るの? この子は妖精族だし、きっちりと魔法が使えて、自分の身を守れるまでは教えた方が良いと思うんだけど?」
「3日を予定していたのだが、おそらく変える事は可能だ。彼女は元々先天性の病に犯されていてな、両親が種族が変われば長生きできるのではないかと思い、ダンジョンへ入れる事に決めたのだ。その結果……」
「見事に種族が変わり、変わった事で先天性の病も治ったという訳か」
「そうだ。代わりに妙な連中から狙われる事になってしまったが……まあ、貴方がたも守ってくれるなら、おそらく滞在を伸ばす事は可能だと思う。というより、三日では無理なのか?」
「そんなの誰でも無理。今回の練習はあくまでもキッカケを私達が作るのと、今後の練習の為の感覚を教えているだけ。三日で正しく魔法が使えたら誰も苦労なんてしない。それに……ミクは多分だけど、この子の魔力の器を壊す気だと思う」
「ネル、正解! この子の魔力の器は、エイジ達と同じ二回ほど壊さなきゃいけないと思う。でないと自分の身を守れない。どれだけ掛かるかは分からないけど、今の内にやっておいた方が良い。妖精族は250年ぐらい生きるから」
「「「250年!!!」」」
「私、そんなに長く生きるんですか? ……250年………」
「そもそも今考えてもムダだろう。そこに居るユミは300年は生きる種族だし、私達は寿命などない。250年は長生きと言えるが、それ以上に長生きな者も居る。そういう者とは一緒に生きていけるだろう。知り合いや友人としてな」
「……はい!」
良い雰囲気ではあるものの、ユミがスマコンを取り出してどこかに連絡をしている。ミク達は分からないが、こういう時のユミに何を聞いても無駄だ。はぐらかされるだけで、何も教えてはくれない。なのでスルーする四人。
食堂へと歩いて行き、夕食を取ってきて席に座る。ジュディは買っていたパンを手に取り、おかずは食べるようだ。ミクはジュディの御飯も食べ、食事を終えたミク達はいつもの部屋へ。
部屋の中でジュディに教えていくのだが、ブリテンの軍人三人も居る。彼ら彼女らは警護なので片時も離れる気は無いらしい。まあ、上から何をやっていたと怒られるからだろうが。
それはともかく、お腹が満たされたからだろう、練習をしつつも舟を漕ぐジュディ。寝てしまったので、ジュディを軍人三人に任せてミクは【超位清潔】を使う。
またもや反応したが、三人の軍人が銃を撃つ事は無かった。ミクが【超位清潔】の説明をすると半信半疑ながらも納得し、そのままジュディを背負って部屋を出るので見送る。
「なにやら過剰に反応している連中だったな。何故あんなにも過剰に反応するのか知らんが、ミク以外だと死んでいた可能性もあるぞ。まあ、私達ならばすぐには死なんし、ミクが回復してくれるがな」
「それに脳が欠損しても、私達の記憶はミクの肉の中にある。すぐ復帰するから、特にたいした問題はない。そもそも私達自身をミクが産み落とせる。言葉は悪いけど、私達の母になる事は可能」
『俺やレイラにとっては元々が主であり母なので何とも言えん。俺達はこれからも変わらんからな』
「まあ、それはそうだろう。それよりもジュディといったか、あの子供がミクに怯えていなかったのが不思議だ。ミクのような肉塊が出てくる物語を、子供が好むのか? という疑問はあるがな」
「何処かがズレているのかもしれない。異様に他人を傷つける事を好む異常者もいれば、異様に恐怖を好む異常者もいる。少なくとも他人に迷惑をかけない異常者なら問題は無い。問題は無いけど……」
「変わってるよね。<暴食形態>を見て目を輝かせていたヤツを初めて見たよ。色々な意味で珍しい子だけど、気をつけないといけないね。子供は何処かで口走る可能性がある」
「ミクが言っておいたから大丈夫だと思うが、本気でバレたら諦めるしかないな。レイラだけ隠せば大丈夫だろう。今どこで何をしているか知らんが」
「今は独裁国家の所と半島に行って、<人口調整>っていうのをしてるよ。この星に人間は多すぎるから間引きね。喰うだけじゃ追いつかないからさ」
「「あ~……」」
『神からの命だからな。これは仕方ない。愚か者どもを減らす為の<人口調整>だ。もう一つ大量に人間が居る国があるが、そちらも調整する事になるかは神次第だろうな』
どこまで調整しなければいけないかは分からないが、レイラは現在も頑張っている最中だ。




