295・種族が変化した者達
演習場に出てきたミク達はいつもの場所に行き、ローネ達と適当な話をしていた。そうしていると、ゆっくりとだがポツポツと人が集まり始める。ちなみに、昨日魔力の器を壊した東西南北上下の六人は未だに苦しんでいるらしい。
まだ一日ほどしか経過していないので仕方がないだろう。そんな話をしていたのだが、ミク達が居る場所に少しずつ子供達が集まり始めた。下は小学生から、上は大学生まで。年齢は様々だが、種族変化を果たした者達だ。
そんな者達を見回していると、妙な格好をした変な髪型のヤツがやってきた。途端に周りの子供がイヤそうな顔をし始める。白い服になにやら文字が刺繍してあり、髪が前に突き出た訳の分からない髪型だ。ついでに角が見えている事から、どうやら鬼人族らしい。
周りから「今時、特攻服とリーゼントって……」という言葉が聞こえるが、それを言った青年に対して男は詰め寄る。
「あ”ーー、テメェ今なんっつった!! テメェ今俺の事見て何つった!! テメェ調子に乗ってっとツブスゾ? 俺は<黒夜叉>の七代目総長やってんだよ! テメェみてぇなモヤシとは気合いの入り方が違うんだよ! パンピーが調子乗ってんじゃねぇぞ、あ”あ”!!!」
「………」
ミクも動画で見た事があったが、何故かこの暴走族とか珍走団とか呼ばれる連中は、周りを威嚇しまくるらしい。ミクには猿そっくりだとしか思えなかったが、何故かヤマトにはこういう連中が存在している。意味は分からないが、きっと珍生物なんだろう。
「とにかくちゃんと並ぶように。背の低い子どもが前で、背の高い奴は後ろね。背の高い奴が前に出てくると見えないから」
ミクがそう言うと、何を思ったのか特攻服を着た男は前に出てきた。それも子供の邪魔をするようにだ。そのうえ、ミクに対して睨みつけている。それを見たミクはローネに言って、子供達を離れさせる。
ローネも何をするか理解したんだろう。慌てて子供達をバカな男から離す。一度目を瞑り息を吐いた後、ミクは本質を少しずつ解放する。途端に男の膝は盛大に震え始め、下から出る物を全て出してしまう。
それでも止めないミクは更に本質を少しずつ解放していくが、上からも下からも全て出し尽くした後に白目を剥いて、男は前に倒れるように気絶した。そいつは放っておき、少し離れたところで練習を始めさせるミク。
何故か集まった者達は全員軍人の如くキビキビと動くのだった。ミクはそんな子供達を不思議そうに見ているが、周りの軍人は「そりゃそうなるだろう」と心の中で呆れていた。威圧だけで、あそこまでの酷い目に遭うのだ。誰もあんな風になりたくなどない。
ミクにとってはバカを潰したに過ぎないのだが、周りの子供達にとっては<恐怖の大王>の様なものである。それをしたミクだけが理解できていないが、こればっかりは仕方がない。本質の余波も受けていないが、本能が何かを悟ったのであろう。
その後は子供達を教えていくのだが、ミクが近付くと「ビクッ」とされるものの、手を持って魔力を流してやると今度は顔を真っ赤にしている。またもや首を傾げるミクだが、周りの軍人は「そりゃそうなる」と納得していた。
そんな反応を途中から面白がっていると、バカが気を取り戻したのかゆっくりと起き上がる。そしてミクの顔を見た瞬間、「キャーーーーーッ!!!!」と言って走り去ってしまった。
「ナニアレ? えっと……どういう事? 私の顔を見て絶叫するのは分からなくもないけど、驚き方が女の子みたいだったんだけど?」
((((((((((絶叫するのは良いんだ……))))))))))
「まあ、強烈な威圧を喰らった訳だからな。多分だが人生で初めてなほど強烈だったのではないか? ああやって調子に乗っている連中だ、自分達以上など居ないと勘違いしていたのだろう」
「服と髪型が奇抜だけど、調子に乗っているバカと本質は何も変わらない。所詮は殺し合いも理解していない間抜け。ああいうのは本当の殺し合いになると真っ先に逃げるタイプだから、どうなろうが気にしなくていい」
それ以降、黙々と練習に励む集まった子供達。大学生とてミク達からしたら完全に子供である。そう言われた大学生達は流石に黙るしかなかった。1000歳を超える人達の前では大学生など唯の子供でしかない。それどころか、人類全員がミク達からしたら子供である。
昼になったので食堂に行き、軍の食堂に驚いた子供達。やはり軍はお金を無駄に使っているという印象があったのだろう。それでも工夫して美味しい料理になっている事にも驚きつつ、食事後は少し休んで午後の練習へ。
今日だけの子もいれば、三日ほど練習をする子供もいる。なので出来得る限り教えてやり、後は練習用の冊子を渡す事になる。これは最近になって軍が作ったもので、魔力の器を破壊するまでの練習を纏めた物だ。
ミク達も読んだが、態々絵などを交えて解説していた。そこまでする必要があるのか? とは思うが、絵で見ないと分からないという者もいるのだろう。分かりやすくはあるので、そこに関しては文句は一切無かった。
「それにしても、やはり本人の才能に左右されるな。感覚の鈍い者もいれば鋭い者もいる。厄介なのは肉体感覚は鋭くとも、魔力や闘気の感覚は鈍い者がいる事か。この星の長い歴史において使ってこなかったのは大きいのだろう」
「仕方ない。とはいえ、地道に練習すれば誰でも出来る事ではある。それを続ければいいだけ。重要なのは続ける事であり磨く事。それを止めれば後は落ちるだけ」
なかなかに厳しい物言いではあるが、事実であるだけに子供達には教えておく。肉体を鍛えるのと同じであり、手を抜けば実力は落ちていってしまう。ストイックに磨き続けなければいけない訳ではないが、その程度にしかならない事を納得する必要がある。
ここに居るのはアスリートも多いのだ、言われている事が分かるのだろう、真剣に取り組んでいる。身体強化の話も出たが、これは魔力や闘気が増えた後でだ。魔力も闘気も少なければ、碌に強化もされずに倒れるだけとなる。
特に両方が枯渇すると耐え難い苦しみに見舞われる事を、周囲の軍人も交えて教えてやった。すると理解出来たのだろう、身体強化の事は無かったかのように練習に取り組む。周囲の軍人も苦笑しながら子供達の練習を看ていくのだった。
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夕方になり本日の練習は終了、最後に本部の建物で冊子を渡して子供達は帰る事になる。一応無くしたとしても、同じ様な内容は陸軍のホームページに載っているので問題は無い。本部に来たと証明するお土産みたいなものである。
「身も蓋もないですが、まあ事実でしょうな。しかしお土産……悪くはないですから、何か考えてみますか。といっても、余分な予算など無いと一蹴されるでしょうが」
仮に軍がお金儲けに成功しても、それもまた兵器予算に回されるだけの気もするが、それでも全国の装備が充実するならアリなのだろう。ダンジョンの事もあり、訓練と収入が同時に得られるとして、積極的に魔物狩りに行っている地域もあるらしい。
何処も予算が厳しいらしいが、それでも食べる物と収入が得られるなら行く者はいる。これもダンジョンの在り方としては正しいので、世の中が進歩しても本質は変わらないと納得するミク達。
夕食を終えて部屋に戻り、いつも通り満足させたら寝かせて分体を停止。本体空間へと戻った。
どうもレイラは無味無臭にしたデスホーネットの毒と、通常の蛇の魔物の毒を濃縮した物、そしてかつての<混合毒>をバラ撒いているようだ。今は繁華街で肉を喰わず、一気に数を減らしているらしい。
昨日の<愛の神>の命令を実行しているのだが、遍く者に等しく死を与えるのも愛なのか? と疑問を持つミクだった。




