0029・バルクスの町に帰還とカレンへの報告
大きな狐形態のヴァルに乗ってバルクスの町へ移動しているが、不思議と何も起きずにバルクスの町に到着した。門の前でヴァルから降り、ヴァルは普通の狐の大きさまで小さくなる。門番は遠い目をしていた。
初めてバルクスの町に来た時に応対した門番だが、いつの間にか<魔女>と同じ様に使い魔を使役しているのだから、遠い目をしても仕方がないだろう。彼の心情も分からなくはない。
そんな門番の心情など綺麗に無視したミクは、登録証を渡してさっさと通り抜ける。そのまま冒険者ギルドに行き、いつものように受付の右端に居たカレンに話しかけた。
「ギルドマスターに用があるんだけど、いいかな?」
「かしこまりました。こちらへどうぞ」
そう言って、カレンはミクをギルドマスターの部屋に案内する。ミクが冒険者ギルドに現れた瞬間から、カレンの機嫌は急上昇した。その事は周りの者に完全にバレているのだが、カレン自身はその事に気付いていない。
ギルドマスターの執務室に入ったミクは、早速報告を始める。カレンも執務机の椅子に座り、聞く態勢になった。
「まずは領都に行ってからの話ね。<人喰い鳥>の幹部は脳を操って全て話させた。何でもじゅぐ? 呪いの道具で喋れなくされてたんだって。【スキル】じゃなかったよ。それと、その呪具を使ってたのはオルドムだったね」
「あのクソ豚、本当に碌な事をしないわね。この町にあったギテルモ商会はブッ潰したけど、それだけじゃ全く足りないじゃないの。この怒りの矛先は何処に向けるべきか……」
「で、そのオルドムだけど、<商国>っていう国の奴等に買収されてたよ。貴族にされたのか、裏組織にされたのかは不明だって。そこに関しては誰も知らなかった。買収した奴はとっくに居なくなってたんだろうね」
「まあ、<魔境>の素材を買取に来る他国の商人も居るし、そこに紛れられると分からないっていうのが現実かしら? あそこは強かな連中も多いんだけれど、それ以上に儲かれば何でもいいって連中の巣窟みたいな国だからね」
「ふ~ん。その後、子爵から頼み? 要請? を受けて、怪しい奴とか盗賊が居たら捕まえる仕事をしてたんだけど、妙な連中に絡まれてさ。ゴブリンを擦り付けてきたんだけど、倒したら横取りしやがってって難癖つけてきた」
「擦り付けたうえに難癖? そいつら重罪を犯しているっていう自覚が無いのかしら。たまに調子に乗ったのは居るけど、そいつら叩き潰すべきでしょう。領都のギルドマスターは何をやっているの?」
「そいつら呆れた難癖つけてきたうえ、見逃してほしければ体を使えとか言ってきたよ」
「は?」
一瞬で氷点下まで冷え込んだような声を出すカレン。ミクに対する事に過剰に反応し過ぎである。尚、本人には微妙に自覚が足りていない。肉塊でしかなかったミクならともかく、580年ほど生きている女性としてはどうなのだろうか?。
「そいつらは領都の<踊り子の家>っていう娼館が<淫蕩の宴>と関わりがあって、<踊り子の家>が女冒険者を攫って体を売らせてる事を知ってた。だから三バカの脳を操って、襲わせるように仕向けたんだ」
「仕向けたって……貴女は本当に、もう。それにしても、<淫蕩の宴>は本当に碌な事をしない奴等だわ。しかも攫って無理矢理に体を売らせるとか、相変わらずの非道な連中ね!」
「スラムに近い宿に泊まったら、あっさり侵入者が来てくれたんだ。私には毒も病気も呪いも効かないから、眠り薬で眠らされたフリまでして連れて行ってもらったよ。そしたら<踊り子の家>の地下だったね」
「ふーん、自分達のお膝元に監禁ねえ……。バレたら一発アウトだけど、今まで隠し通せてた訳だし。何とも言えない感じかしら」
「そこに牢屋があったけど、そこを監視してたのはオーセスって奴だった。<淫蕩の宴>の幹部、<堕落のオーセス>だってさ。情報を喋らせて食べて終わったけど」
「いえ、貴女相手だとフェルーシャでも喰われて終わりでしょうよ」
「あ、そのフェルーシャね。カレンの事を愛してるかもしれないってさ。報告書にやたら細かいのを書かせて送らせてるらしいよ。これが手に入れた報告書」
「………いや、あの、唯々気持ち悪いんだけど。……えっ!? 何これ? 本気で気持ち悪いんだけど!? 何でこんな事を集めてるのよ!!」
「そんな報告書でも評価されるんだって。それと、昔カレンに反撃でヤられたからじゃないかって言ってたけど?」
「………そういえば、そんな事もあったわね。……えっ!? あれは100年ほど前の話よ? いつからアイツは歪んでるのよ!! ちょっと待って、ずっとこんなのが送られてたって事!?」
「何かさ、ヤられるってサキュバスにとったら屈辱らしいよ。それにフェルーシャって、気に入った相手には執着するらしいし」
「ああ……そうだった。アイツってそういう性格してたの、すっかり忘れてた。だからこそ凹ませる為に、思いっきりヤってヤってヤりまくったんだけど、まさかそれで更に粘着してくるなんて……」
「それってもしかして、アレ? あの……うーん……えーっと」
『主。それは自業自得の事か?』
「!!!」
ヴァルの声を聞いて、またもや反応するカレン。慣れてきたのではなかったのだろうか?。
「不意打ちはやめて! いきなり来られると耐えられないの!」
「そんな事どうでもいいんだけど、ヴァルが言った通り自業自得って状態だよね? カレンがヤりすぎたから粘着されるってさ」
「コホンッ! まあ、そうなんだけど。いちいち面倒だったから、つい失神しても続けたのよ。その結果おかしな方向に捻じ曲がったんだと思う。無理矢理に手を出してきたりしないなら、放っておくのが一番ね。忘れましょう、アレの事は」
「それで報告は終わりかな。……あ、そういえば明日から<魔境>に行くから。ヴァルは私が食べた奴になれるらしいし、良いのが居たらソイツに変えようと思って。何かお薦めってある?」
「お薦め……やっぱり飛行系の魔物かしらね? 鳥系もいいけど、<天を貫く山>ではヒッポグリフの討伐記録があるわよ? アレがグレータークラスの討伐記録だし。それが駄目ならネメアルかしら」
「ネメアル?」
「<天を貫く山>に住む、おそらくは最強の獅子よ。傷を付ける事も出来ず、逃亡出来た記録しかないの。魔剣や魔槍でも傷一つ付かなかったと言われる怪物ね。まあ、貴女の方が怪物だけども……」
「獅子ってどういうのか分からないけど、それは空を飛ぶの?」
「いえ、飛ばないわ。獅子というのは獰猛な、猫に似ている俊敏な魔物よ。ただネメアルの姿なら体当たりでブッ飛ばしても、誰も文句は言わないでしょう。たとえそれが使い魔だとしてもね」
「ふんふん。何というか、馬鹿な奴が寄越せとか絡んできそうだね。折角なら目的があった方が良いし、そいつを喰いに行ってこようかな。他にも色々な魔物がいそうだし、久しぶりに肉がいっぱい食べられそう」
「あ、今日はウチに泊まっていって頂戴。明日の出発までにはアイテムバッグを渡すわ。それを持って行って。で、有用な魔物があれば入れて持って帰って来ほしいの。査定に出してくれれば、ミクのランクも上げられるから」
「まあ、食べない分はいいけど……。そういえば冒険者ランクって最高は幾つまであるの?」
「ああ、説明してなかったわね。私がランク15だけど、これが現在の最高ランクよ。私以外に二人居るわ。そして最高ランクは20よ。かつては10段階だったんだけど、それじゃ足りないから20段階に変わったの」
「へ~。カレンのランクを初めて知ったけど、最高ランクだったんだー」
「いや、ランクなんて関係無く、ぶっちぎりでミクが一番強いからね?」
それは、そうであろう。神に鍛えられた肉塊が弱い筈が無く、そんな事はあり得ないのだ。




