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0002・盗賊01




 ミクと名付けられた肉塊は、とある星の森の中へと降り立っていた。


 そこは小さな泉の近くであり、小動物や小さな魔物が水を飲みに来るような場所である。そのような場所に全裸のまま降ろされた肉塊は、未だ目覚めていなかった。


 もし人前に出ていれば、すぐに襲われたかもしれない。何故なら老若男女を問わず魅了する美しい顔と、誘惑されない者など居ないとさえ言える最高のプロポーションをしているからだ。


 ちなみに、この姿を決めたのは美を司る神である。魅了されるのは当然であろう。


 そろそろミクが目覚めると思われたその時、小動物や小さな魔物を喰らおうとする狼の魔物が近付いてきた。その狼の魔物は逃げた小動物達を追う事はせず、ゆっくりとミクの方へと近付いてくる。


 匂いを嗅ぎ、獲物であると認識した狼の魔物は、ミクに噛み付こうと口を開き……。



 「喰らう側なのは、私」



 ミクの乳房に噛み付こうとした狼の魔物は、一瞬にして横に割れ、中から出てきた触手に囚われた。慌てて狼の魔物は暴れるものの、横に割れたミクの胴体にある巨大な口へと引き摺りこまれる。


 ボリボリゴリガリボリゴリ……………ゴクン。


 そのような形容しがたい音と共に、哀れにも狼の魔物はミクに喰われ飲み込まれた。


 ミクは美女の姿をしていても、星を滅ぼす事を願った異常者の求めたモノであり、その本質は喰らい尽くす者である。魔物如きは喰われて死ぬしかない。



 「ん……。大して本体の量が増えてない。一匹だとこんなもの……? 仕方ない。諦めて、まずは服を着よう。裸だと変な者だと思われて、むしろ襲ってこないのかもしれない」



 狼の血も体表から吸収したミクは、凄惨な現場など無かったかのようにして服を着だした。服と言っても、麻のシャツと麻のズボン、それに革のジャケットと革のブーツ。後は剣帯とショートソードにナイフ、そして布製のリュックだ。


 ミクの髪は短めでセミロング程である。これは本人が動く時に長いと邪魔になるとして決めたものだ。美を司る神は何度も美しいロングにしろと怒っていたが、ミクは一切取り合わなかった。彼女にはオシャレをするという感覚など無いので当然なのだが。



 「えーと…………こっち」



 ミクは目を閉じてジッとしていると、突然真っ直ぐ森の中へと歩いて行く。これは神に鍛練を受けて身に付けた【スキル】の一つである【気配察知】だ。ただし普通の人間種ならば、範囲は広くても精々200メートル程度が限界である。


 しかしミクは自分を中心にして、半径3キロは探る事が出来る。これは人間種のような脳ではない事と、神から徹底的に教えられたからだ。他の数多ある【スキル】も徹底的に教え込まれている為、この星で彼女に勝てる存在を探し出すのは不可能に近い。


 そんな怪物を送り込んだのは神々だ。その神々がどれだけ人間種を間引きしたかったかは、彼女の強さによく現れているだろう。神々はとことんまでにゴミを処分したいらしい。



 「……こっちの方角に人間種の反応がある。森歩きは面倒だけど、いちいち遠回りするのはもっと面倒。…………私は意外に饒舌なのだろうか? あそこで喋りたくなかったのは、神とかいう連中が居たからに違いない」



 当然と言えば当然だが、こちらの事も考えず自分の肉体で実験をされ、知識を一方的に詰め込まれ、戦闘訓練を強要し続けた者達など好む筈もない。


 ある意味で当たり前なのだが、肉塊として生まれ、他者の存在を神々しか知らなかったミクが、勘違いをしたとしても仕方がない。


 神々は嫌われるべくして嫌われているのだが、彼等はどれだけミクに嫌われようが、ミクの心情に配慮する事は一切無い。それが神であり、理不尽の権化と言えば終わる話でもある。



 「うん? ………こっちに誰か居る? ………反応は11人。もしかして盗賊かな? 早速間引きが出来るかもしれない。アイツらの命令なんてどうでもいいけど、本体が増えるのは良い事」



 突然盗賊の気配を感じ取ったミクは、己の感覚を疑う事無くそちらの方向へと向かっていく。


 少し移動した先に居たのは、あからさまに盗賊と言わんばかりの連中が4人であり、そいつらが黄色い歯を見せながら「ガハハ」と笑っていた。


 その盗賊とおぼしき4人は洞窟の前に陣取っており、その近くには犯されて殺された男性の死体が見える。


 裸に剥かれており、尻から血と白い物を垂れ流しながら首が切り落とされていた。切られた首は乱雑に転がされており、確認できるだけで五つある。



 「それにしてもバカな奴等だったが、代官様に逆らう奴はこうなるんだよ。長い者に巻かれるって言葉も知らねえバカだから こんな簡単に死ぬんだ。なぁ? 頭が悪過ぎるぜコイツら!」


 「おいおい、所詮はバカな冒険者どもだぜ? アロマット商会に雇われたのが運の尽きだっての。「盗賊如きは僕達の敵じゃない!」だぜ? 頭が緩い癖にケツの締まりは良かったが、生かしとく価値は無ぇからなぁ」


 「ガハハハ! バカから死んで行くっていう簡単な事も知らねえから、ケツを散々犯されて死ぬんだよ。……それにしても足らねえなあ。どっかに良い女とか居ねえのかよ。かしらぁ娼婦とヤレるからいいが、俺達ゃケツだぜ? 女とヤりてえもんだ」



 その言葉を聞いたミクは、これ以上聞く必要は無いとして盗賊の前に剣を抜いて出る。まるで、義憤に駆られた冒険者が一人でノコノコやってきたように。


 当然、ミクは冒険者ではないし、そんなものは知らない。



 「お前達が盗賊。……仇はとらせてもらう」


 「おおっ!? こりゃとんでもねえ良い女じゃねえか! げへへへへ、俺が1番だぞ。てめえらは指ぃくわえて見てろい!!」


 「あっ!? テメェ!! 俺が先に決まってるだろ!!」



 突然動き出した盗賊に対し、他の盗賊も動き出す。彼等はミクを半包囲し、じりじりと近付いていく様だ。


 ある程度騒いでいるにも関わらず、洞窟から増援が現れる事は無い。その事に安堵したミクは、素早く相手の包囲を突破して洞窟の入り口を背にする。


 盗賊どもは、そんな奇行に走ったミクを見て笑っているようだ。仲間を呼べば簡単にミクを倒せると思っているのだろう。だが、それは大間違いである。


 ミクはナイフを取り出して左手で持つと、再び半包囲していた盗賊に一気に接近し、ショートソードで右の盗賊の首を貫く。


 すぐにショートソードを手放し、左から襲ってくる盗賊の首にナイフを刺して捻る。神々に鍛えられたミクならば容易たやすい事であり、この程度の盗賊など相手にならない。


 更に外側の二人が襲ってくるものの、ミクは左の盗賊の攻撃をかわして背中を押す。すると、もう一人の盗賊に体当たりしたようになり、二人の盗賊は地面に倒れた。


 その瞬間、素早く近付いたミクの右手は巨大な狼の形に変わり、2人の盗賊の首から上を噛み千切る。


 狼の形をした右腕が、「ゴリ!ボリ!バリ!」という咀嚼音を響かせる中、ミクは後ろを振り返った。首を貫かれた盗賊は既に死んでおり、ミクはそれを【気配察知】で知っていた為、武器の回収に移る。


 ショートソードとナイフを左手で回収し、次に食べ終わった右腕を元に戻しつつ盗賊の装備を剥ぎ取っていく。


 そして裸にした盗賊を喰らい、その後は殺されていた冒険者をも喰らう。彼女にとって最も大事なのは、本体を増やす為の肉だ。彼女の本体は神界のとある空間にあり、今もこの場に居るミクと空間的には繋がっている。


 どうやって繋いでいるかなどミクは知らない。どうせ不条理で理不尽な連中が、理解出来ない事をした結果だとしか思っておらず、何より神々に聞いても明確な答えは返ってこないからだ。


 ミクが知らなくてもいい事は徹底して教えなかったのが神々であり、そこもミクが神々を信用しない理由の一つである。


 盗賊の持っていたオンボロ武器を自らの体に埋め込むようにして入れ、肉という物質を通して本体の居る空間に転送する。これで武器が壊れても代わりに使える保険が出来たので、ミクは上機嫌なまま洞窟へと入っていく。


 更なる肉を求めて……。


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