0293・シェルとオーロとベルの妊娠
魔力の器の壊し方を説明してから一ヶ月とちょっと。今日はエイジ達の卒業式である。せっかくなので行ってみたいと思ったものの、パニックになるから止めてくれと言われた。残念無念でガッカリのミクだった。
最近は出歩く事が出来るようになってきて、ミク達もこの星に大分受け入れられてきたのだと思う。横の半島にある南の国は崩壊し、国民が船で脱出しようとしたらしいが、各国が合同で捕まえて半島に送り返していると聞く。
北と南で一つの半島国家になったそうだが、未だに人が黒く変色して亡くなる事件が収まっておらず、パニックが続いているらしい。それは半島の横の独裁国家も変わらず、今は義勇軍との内戦中だと聞いた。
何でもその独裁国家のある場所の歴史は、古くからそんな感じなのだそうだ。国が傾くと新しい者が出てきて古い国を潰し、新しい国を建国する。その過程で国がボロボロになるのは毎回で、周りにそれが波及していく。
いまは義勇軍をアメリケンが支援しているらしいが、ヤマトは一切興味が無いらしい。土地が取れるチャンスだと思うのだが……。
「古くから大陸に関わっても碌な事が無いのさ。あそこの文化は徹頭徹尾、他者を見下す文化。自分達は至高で周りはクズ。そんな思想を1000年を超えて続けてきたんだ。既にその差別主義は文化そのものに入り込んでいる。大陸の奴等の血と肉と骨は”差別”から出来ているんだよ」
「碌なものではないな。古くから他国を見下すというのはある。自国の方が優れているというのは統治において強調せねばならんところだ。とはいえ、それが血肉になっているなど、生物として碌なものではない。唯の間抜けを量産しているに過ぎん」
「そのうえヤマトの方が上である事も多い。奴等は余計にヤマトを酷く見下すのさ。自分達より下だという妄想通りにならないから」
「本当に碌な者じゃない。古くから何かを見下させる事で統治してきたのだろうけど、統治の方法としては下の下と言わざるを得ない。何故なら見下すだけでは何も良くならないから。良くなる為には努力するしかない。でも……」
「ああ。見下して悦に入りたいだけの連中は努力しない。もちろん国の中でも一部の奴は努力する。そうしないと国が維持できないからね。しかし99%の奴は努力しないで見下してるだけさ」
「間抜けがそんなに多いのか……。そもそもその国はヤマトの10倍ほど民が居るのではなかったか? その99%が間抜けとは……崩壊するべくして崩壊する国か」
「問題は人が変わっても国は変わらない事さ。何故なら努力せずに見下すのが当たり前の国が再び出来るだけなんだ。結局、”民は変わらない”からね。頭、つまり支配層が変わるだけさ」
ユミの話を納得しつつ聞いていると、昼になったので食堂に行く。東西南北上下も来たが、ここ最近は落ち着いたらしい。変わらずほぼ毎日シているそうだが、それでも翌日に疲れを残す程にはしていない。それが普通の気もするのだが……?。
「そうは言われましても……こう、燃え上がるとなかなか歯止めが効かないものですよ。最近も名残惜しいですけど、仕方なく止めているくらいですし。せっかく【性技】なんていうスキルが手に入ったんですから、色々シたいのは女として当然です」
南野と西口も「うんうん」と頷いているが、実はこいつらも【性技】というスキルを獲得している。むしろ手に入れるくらいヤりまくったらしい。本人達いわく「愛し合っていただけ」だそうだが、どう考えても違うだろう。
ちなみにだが、一番早く【性技】を獲得したのは北川だった。ミク達はその予想通り過ぎる結果に呆れたが、神の加護も無く自力で習得した人類初めてのスキルが【性技】というのはどうなのだろう? そう思って中島大将に聞くと頭を抱えていた。
半月ほど前の事だが、あれほど頭を抱えて困った中島大将を見たのは初めてだったミク達。最終的には聞かなかった事にして、スルーする事に決めたそうだ。
昼食後、陸軍の演習場に行き教えていく。今は交代で色々来ているし、外国からも応募者が居て教えている。中には同性愛で有名なヨールサントという人物も居たが、応募者の状態で弾かれていた。ミク達は政治的な関わりを持ちたくないからだ。
これに対しては何度もアナウンスしているので、最近は各国でも好意的に捉えられているらしい。自分達は自由に愛し合っているのだから放っておいてくれ。この状態は一番自然な愛ではないかと言われているそうだ。
ちなみに最近も動画を出しているが、その中でローネと抱き合ったり、ネルとキスしたり、ヴァルとイチャイチャしたりしているシーンも公開している。何だかんだと言って、ヴァルもミクと肌を重ねるのは嫌いではない。大元の主だし。
これにレイラが嫉妬したのは言うまでもなく、本体の所にきて愚痴を言いながらずっと甘えていた。やはり予想していたとおり、レイラは攻めるのも甘えるのも好きならしい。散々甘えたら、また肉を喰う旅に戻って行ったが。
夕方になったので練習を終え、食堂に行って座るとエイジ達が来ていた。何故かユミが呆れており、ミキが勝ち誇った顔をしている。いったい何があったんだろう?。
「ユミさんから妊娠の許可を貰っただけです! やっとこれでエイジの子供を産める。ヤマトに帰ってきたと思ったら離れる事になってお預けされるし、仕方なく卒業までの辛抱だと思ってたらシェルが妊娠してるし!」
「それはね。私は蛇女族としては若いけど、年齢的には40を超えてるんだから、早めに旦那様の子が欲しかったんだよ。このチャンスを逃したらいつになるか分からないしね。だからオーロとお義母様に手伝ってもらって隠してたのさ」
「悪阻で気分が悪くなり、吐いたりするのでエイジにバレましたけどね。でも、お義父さんとお義母さんも大喜びでした。蛇女族は他種族と子供を為した場合、絶対に蛇女族しか産まれませんので」
「つまり女の子が確定してるって訳か。ベルと一緒だなー、ついでに妊娠してるのも一緒だけど。いやー、ウチも母親にやられた感があるんだよなぁ。ウチ、両親が医者だろ? 母親が自分で看るから産めって、裏で色々してたらしい」
「まあ、ヤマトにとっちゃ<産めよ増やせよ>は良い事さ。現実的に考えれば子供が増えて悪い事は無いしね。何故か隣の独裁国家と半島は、猛烈に人の数が減ってるけど……」
どっかの怒れるムカデが新しい毒を開発して流していたので、今度は原因不明の死亡が相次いでいる。アレは本気で許す気が一切無いらしい。というより、一定程度の数に減少するまで止める気が無いと思われる。
どうもミクが狙われた事だけではなく、その後に神々から何かを言われているらしいのだ。それが何なのかミクは知っているが、口に出した事は一度も無い。<人口調整>などという言葉はミクは知らないのだ。
「シェルに先を越されたけど、次は私がエイジの子供を産むんだ。私とエイジの子供だから男の子でも女の子で……も……?」
「……ええ、まあ」
「ちょっと待って、聞いてない!! 俺聞いてないけど、オーロもなの!? えー、せめて先に言っておいてほしかった。急に言われても困るよ。それより、体は大丈夫なの?」
「心配せずとも大丈夫です。昨日お義母さんと買い物に行ったというのは嘘で、産婦人科? という所に行ってました。妊娠三ヶ月でしたよ。シェルが妊娠六ヶ月ですから、三ヶ月遅れですね」
「おおおおぉぉぉ……何故私が一番最後なの? おかしい! おかしいよ!! 私が一番最初にエイジの恋人になったのに、一番最後っておかしい!!」
「あんたは高校生だったんだから諦めな。そもそも早いだ遅いだと、子供が可哀想だと思わないのかい? 子供はお前の玩具じゃないんだよ!」
「………」
「まったく、少しは反省しな! これから自由に生きられるんだから、ゆっくり子供を作ればいいんだよ。立て続けに産まれたら困るだろうから、あんたは来年だね」
「えぇ!?」
「それまで夜を独占できるんだから良いだろうに。それで手を打っておきな」
「あ、はい! やった!!」
それでいいのか? ミキ……。




