0292・魔力の器
鎌倉ダンジョンから帰ってきた一行は、おかしな事に巻き込まれていた。簡単に言うと同性愛者の支援組織から招待状が送られてきたのだ。意味不明すぎるし拒否したのだが、その後もしつこく送られてくる。どうやら裏に何者かが噛んでいるらしい。
「どうも世界的に有名な人物が関わっているようだ。私は詳しくは知らないが、ヨールサント・ガンバーナという名の人物らしい。何でも同性愛界隈では知らない者が居ないほどの有名人らしいが、私は聞いた事も無かった」
「ふむ。その人物がいちいち何度も手紙を送ってくるという事は、何かしら思惑があるという事だな? それで、中島大将や軍はどう考えているのだ?」
「まず危険の可能性は低いと思っている。おそらくは同性愛に関しての政治利用をしたいだけで、どこかに拉致云々の可能性は極めて低い。そんな事をすれば彼らの立場は極めて悪くなるし、やっている事はテロと変わらんからな」
「そうだね。それに、この人物は金持ちの道楽としてやっているフシがある。もちろん自分が同性愛者である事は公表しているが、それをファッションのようにしているというか、同性愛を自分の飾りのように扱っているフシがあるんだよ」
「ようするに、自分の名前を売る為に同性愛者だと言っている? ……この星は所々奇妙。同性愛なんて好きにすればいい事。わざわざアピールするような事でもない。歴史は少し聞いたけど、バカでしかないと思う」
「まあ、分かるよ。我が国は好悪あれど、古くからそういう部分は気にせずやってきた。良い悪いは横に置いてね。だからこそ、同性愛を抑圧された国の事なんて分からないのさ。何を言ってるんだい、コイツは? としか思えないんだよ」
「そうだな。そもそも他人の色恋に口を挟むという事自体が下らん。頭の悪い者の発想でしかない。男同士であろうが女同士であろうが、いちいち口になど出さずとも良いし、本人達の好きにさせればいい。ただし性病を撒き散らすヤツは全員クズだ」
「それは間違い無い。それは同性愛者ではなく、ヤりたいだけの底辺のゴミでしかない。エチケットやマナーのレベルでゴミなのだから、そんなヤツに愛を語る資格は無い。そもそも愛する人を傷つけるのが性病。それを理解しないバカは、今すぐ死ね」
「驚くほど強く言うって事は何かあったんだねえ。まあ、聞かないけども。それはともかく、その話をショート動画にして出して、これがあんた達の本音だと伝えれば良いだろう。向こうに構ってやる必要はないよ」
その後、この時の会話はショート動画になってアップされ、世界の同性愛者の中でも性病の者への風当たりが強くなるのだった。
ちなみに、【浄化魔法】で性病を防げるし治せるという事実を<魔法の使い方講座>で出したところ、必死に努力する者が増えたと聞いて、心の底から呆れるミク達であった。
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ミク達が鎌倉ダンジョンから戻ってきて一ヶ月。段々と魔力を増やした者も増えてきた。どのみち魔力は一定量から上げるのが難しくなる。体の筋肉と同じで、そう簡単に増やしていけるものではない。人の肉体だと最高4回で頭打ちになる。
それ以降は増えないので努力よりも維持する事に努める事になるが、その一度目に到達した者が表れ始めた。魔力の器のような物があると仮定し、その器が限界にまで達したら一度破壊しなければならない。
破壊して再生し、その時に器は大きくなるのだ。なので器を破壊する必要があるのだが、これは地獄と言っていい程に大変な事であった。何故なら魔力枯渇を起こした後、更に魔力を搾り尽くさなくてはならないからだ。
簡単に言えば、限界まで満ちた魔力の器の魔力を空にし、更に大量の魔力を使用しようとした時、初めて器は限界を向かえて壊れる。そして苦しんでいる最中に修復されるのだ。魔力枯渇の症状を遥かに酷くしたものに襲われ、それに耐えないといけない。
その覚悟が無いならば、器の破壊は止めた方が良い。ちなみに器の修復に掛かる時間はバラバラで、早い者で1日、遅い者だと3日は掛かる。それだけ大変な苦行なのだが、器が新しくなれば再び魔力の底上げが可能になるので試練だと思えばいい。
東西南北上下が目の前で呻いている。中島大将より最近弛んでいるという話があり、この6人が最初の犠牲者に決まった。ミクが確認しているが、しっかり6人の器は壊れている。実はこれ、魔力枯渇で止まると唯苦しいだけで終わってしまうのだ。
なので確実に器が壊れた事を確認しておく必要がある。ちなみにだが、エイジ達は全員二度器を壊した後だ。だからこそあれ程の強さがあり、強力な魔法が使える。エイジは【超速回復】があるので特別早かったが、代わりにミキが遅かった。
ミキは回復に二日ほど掛かり、メンバーの中で一番遅かったのだ。御蔭で二度目を嫌がったが、無理矢理に魔力を抜いて壊したのは懐かしい思い出である。<喰らう者>に魔力を喰われ、強制的に抜かれたのだ。そのうえで脳を操られて器を破壊。地獄の苦しみに落とされていた。
後で散々文句を言われたが、そもそも自分でしなかったのが悪い。自分でやれば納得も出来たろうにゴネるからそうなるのだ。ちなみに、東西南北上下にこの話をしたところ、6人とも自分でやると言い出した。まあ、当然であろう。
「最近この者達は弛んどりましたからな! いい気味です! 一から訓練し直してやろうかと思いましたよ。色ボケして勤務を疎かにするなど、学生時代の気分が未だ抜け取らんと言わざるを得ませんからな!!」
上官殿は随分と御立腹のようである。まあ、風紀云々以前の問題で、勤務終わりすぐに夜通しヤるなど言語道断であろう。少しは反省しろと言われるのは当たり前である。むしろ遅れてきた春だから拗れたのであろうか?。
「案外そうかもしれないねえ。私も一月ぐらい前にやったけど大変なんてもんじゃ無かったよ。この子達は魔力の器でこれだからね。私は魔力と闘気の器を同時にやったからさ、更なる地獄だったよ。二度と軽口は叩かないと誓ったね」
「普通は我等でも片方ずつだからな。とはいえ、「私は修羅場も潜ってきたし問題無い」と言ったのはユミだ。あれはユミが悪いし諦めるしかないだろう。本人の言う通り、軽口を叩いたのが悪い」
「そもそもだけど、ユミは人間ではなく龍人族。なのでどれほど大変か、何処まで増えるかは分かっていない。非常に興味深いとも言えるけど、長命種の場合は短命種より伸びる事も多い。なので回数は多いかも」
「………勘弁してほしいねえ。魔力と闘気の量が多いのはいいけど、代わりに地獄を見る回数も多いなんて御免だよ。あれを何回もは遠慮したいね、本当……」
「ユミは勘違いしているな。器が小さい方が苦しみも少ないのだ。つまり回数が増えるごとに、苦しみも強く長くなる。それだけ器を大きく強くせねばならんからな。苦しみが続くのも強いのも当然だろう?」
「………」
ユミがゲンナリした顔をしているが、そう簡単に誰もが大魔法使いになれるならば、魔法使いは苦労したりなどしない。どんな魔法使いも必死に努力して、それでも力量に差が生まれるのだ。
「そもそも魔力が増えれば増えるほど、枯渇させるのが難しくなり増やせなくなる。そして魔力を使う量が減れば衰えていく。体と同じで、努力しないと維持できない。自分の納得できるところで止めておくのも選択の一つ」
そもそも魔法のある星であっても、大半の者は器を壊したりしない。つまり、その程度の魔力しか持っていないのだ。とはいえ、その量はこの星の人間よりも多いのだが。




